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Small girl with dirty hands outdoors in garden, sustainable lifestyle concept.

コスパ重視の社会で「サスティナブル」を謳う、おかしな国ニッポン

近年「コスパ」という言葉をさまざまなシチュエーションでよく聞くようになりました。普段から使っている人も多いと思いますが、そんな風潮に異を唱えるのはメルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。コスパを追求することと重視され始めたサスティナブルを同時に実現しようとすることの矛盾について語っています。

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コスパ追求はサスティナブルではない

1.コスパ追求が招くもの

コスパは、コストパフォーマンス(costperformance)の略語。費用対効果の意味。支払った費用(コスト)と、それにより得られた能力(パフォーマンス]を比較したもので、低い費用で高い効果が得られれば「コスパが高い」と表現される。

顧客にとって「コスパがいい」とは、価格の割に品質が良いとか、価格の割に満足度が高いということだ。大体において、原価率が高い商品はコスパが高い。

しかし、原価率を高くすると、小売店の利益は少なくなる。自社の利益を優先するなら、原価、つまりコストを下げた方が良い。コストを下げるとは、原材料費、加工賃を下げることだ。

原材料費や加工賃を抑えると、通常の場合、安かろう悪かろうの商品しかできない。これはコスパが良いとはいえない。

コスパを追求すると、奴隷労働や環境汚染につながる。強制収容所や刑務所で加工すれば、工賃を削減できる。あるいは、不法就労者を使う悪質な工場に発注する。

また、環境汚染対策にコストを使わないことで、生産コストを下げることもできる。汚水をしないで排水すれば、環境コストをかける工場よりもコストは下がる。

欧米の消費者は価格よりも、環境配慮や人権配慮を重視する。つまり、コスパだけで商品を選ばないし、企業認証を受けていない企業の商品は買わない。

しかし、日本の消費者はコスパを優先することが多い。商品の購入が、人権問題や環境問題と連携しているとは考えない。そんなことは、「メーカーが適正に処理しているだろう」と勝手に思い込んでいる。

国産メーカーならそれも良いが、中国メーカーにそれを期待するのは困難である。

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2.サスティナブルは建前か?

最近、「サスティナブル」が重視されている。サスティナブルとは「持続可能な」の意味。地球の環境を壊さず、資源も使いすぎず、未来の世代まで持続可能な社会を作ることを、国連と西側諸国は目指している。

そもそもサスティナブルという概念が生れたのは、グローバリズムにより、強欲な資本主義が世界に拡大し、過剰な大量生産により資源を大量に消費し、大量の廃棄物が環境を汚染したからである。自給自足経済で自立していた国をグローバルサプライチェーンとグローバルマーケットに組み込み、現金収入のための労働者に変え、貧富の格差を拡大させたからである。自国の食糧を生産していた畑を現金収入のための商品作物に変えて、食糧を輸入に依存させたからである。

もしも、世界で生産された食糧を公平に分配すれば、世界から飢餓は消える。しかし、利益のために資源や物資、富は少数の人々に集中し、需給ギャップがつくり出されている。

本気でサスティナブルを実現するならば、需要に見合う供給を目指すことだ。必要以上の売上や利益を求めず、需要に見合ったビジネスのスケールを維持する。

小さな経済圏、生活圏の中で自立したビジネスが展開されれば、価格競争も起きず、持続可能なビジネスが展開できる。

リサイクル素材を使っても、大量生産して廃棄が増えたのでは意味がない。需要に見合った生産により、バーゲンセールをなくし、廃棄をなくすことが重要だ。

資源を守るには、安価な商品を大量に販売するのではなく、付加価値の高い商品を少量販売することを目指すべきだ。つまり、売上より利益を重視すること。

極論すれば、売上は減らすべきかもしれない。CO2を減らすとは、そういうことだ。

コスパ重視ではなく、環境パフォーマンス、資源パフォーマンス、CO2排出パフォーマンス、化石燃料パフォーマンス等を本気で優先すること。

現在は、コスパ重視だけが本音で、サスティナブルなんて建前に過ぎないと考えている人が多い。サスティナブルなんて、単なる販促のテーマに過ぎないと。だから、何も変わらないのだ。

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3.お金への依存は持続可能性を低くする

本来のサスティナブルとは、お金に依存しないことだと思う。なぜなら、お金の価値、相場は時代と共に変わるからだ。お金に依存したら持続は困難になる。

しかし、家庭菜園で家族用の野菜を作っていれば、少なくとも野菜が値上がりしたり、極端なインフレになっても野菜では困らない。近所の農家に手伝いに行って、報酬をお米でもらえばお米にも困らない。お金でもらうとお金で米を買わなければならない。

もし、生活に必要な物資を自給自足か物々交換で入手できれば、所得は増えずGDPも上がらないが生活には困らない。地域コミュニティを基盤にした生活インフラは持続可能性が高い。

逆に、全てをお金に依存すれば、現金収入を得るために働きに行かなければならない。現金の価値が変われば、飢餓状態に陥ることもあるし、会社が倒産すれば、収入もなくなり、生活ができなくなる。

世界中でサプライチェーンを組み立て、世界を一つの市場と考えるグローバリズムでは、ごく少数の人間がビジネスをコントロールし、大部分の個人は給与所得者に、大部分の企業は下請けとなる。自立したビジネスはできないし、多様性を活かすことはできない。

世界を多様な国や地域の集合体と考え、地域内で独自のサプライチェーンを組み立て、地域内マーケットでビジネスを行えば、少なくとも地域内の需要分のビジネスは保証される。

賃金の低い国に、生産拠点を移転するというのはグローバリズムの考え方であり、地産地消はローカリズムの考え方である。コスパはグローバリズムが優勢だが、持続可能性はローカリズムが優勢である。

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4.最先端自動化工場と匠メーカー

グローバリズムは天井を打った。中国経済も成長から衰退へと向かっている。欧米企業、日本企業も次々と中国から撤退している。

しかし、完全にグローバリズムが終焉を迎えたわけではない。生産基地は中国から東南アジアに移り、新たなグローバルサプライチェーンが構築されるだろう。しかし、中国一極集中のような状況にはならない。各国は一極集中のリスクに直面しており、今後は生産拠点もエネルギーの調達先も分散するから
だ。

また、ロボティクス、センサー技術、AI等を駆使し自動化が進んだ先端的な工場は先進国へと回帰する。自動化工場は人件費の影響を受けない。電力の供給についても、先進国の方が安定している。

最先端の自動化工場と並行して、匠の技を活用した労働集約型だが高付加価値の製造業も期待できる。

但し、この場合は一つの工程だけでなく、メーカーとして企画から販売までのトータルな機能が求められる。下請けでは価格決定権が持てず、ビジネスをコントロールすることができないからだ。

下請け専門のメーカーも、売上の一部でいいから独自商品を開発して、消費者に販売する試みをするべきだと思う。必要な人材を社内で揃えられないなら、外部の人材とネットワークを組むこともお勧めしたい。

新たな時代に向けた一歩を期待したい。 

編集後記「締めの都々逸」

「コスパコスパと 騒いでみても コストをスパッと斬るだけよ」

コスパって嫌な言葉だなぁと思います。本来は、企業が使う言葉ですよ。それを個人が使っているのも引っかかります。

親の仕事の関係で外国に住んでいた人に対して「親の仕事で外国に住むのが、語学学習ではコスパがいいですよね」と言ったとか。あのさ、親の仕事で外国に住むのはコスパじゃないんだよね。

個人の人生をコスパで評価するのは、不幸になるたけだと思います。我々の人生はプライスレス。人が生きているのは何かを経験するため。コスパで考えるものではありません。コスパ人生は明らかにお金に依存した人生です。僕は嫌ですねぇ。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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