1980年代から1990年にかけて40%を超えていた法人税率は、徐々に引き下げられて、今では23.2%。同時に高額所得者の税負担も軽減されてきました。当然税収は減り、その分を消費税率の引き上げで賄い、大企業や富裕層以外は揃って貧乏になったのがいまの日本の姿と言えそうです。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では、投資コンサルタントでマネーアナリストの神樹さんが、日本の税収の推移を示しながら、大企業だけが巨額の利益を溜め込み、国民のほとんどが貧乏になった構造を明らかにしています。
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大企業は法人税率減で儲けの蓄積が膨大なものになった!
みなさま、こんにちは!「衰退ニッポンの暗黒地図」をお届けするマネーアナリストの神樹兵輔(かみき・へいすけ)です。今回のテーマは、なぜ大企業ほど中小企業よりも税負担が軽くなるのか?──という問題をえぐっていきたいと思います。
2021年度の国の税収は、約67兆円で過去最高でした。前年2020年度に記録した過去最高の税収額約61兆円を6兆円も上回ったのです。原因は、コロナ禍からの景気回復と、円安による企業収益の増加、エネルギー価格の上昇による消費税の増収分などが寄与したからでした。
ところで、その内訳は主要3税収のうち、所得税が21・4兆円(前年度19・2兆円)、法人税が13・6兆円(同11・2兆円)、消費税が21・9兆円(同21兆円)で合計が約57兆円です。残り約9兆円は、相続税、揮発油税、タバコ税、印紙収入、自動車重量税、関税などが占めます。
総額約67兆円の税収比率を見ると、主要3税で全体の85%を占めますが、所得税が約32%、法人税が約20%、消費税が約32・7%です。主要3税で、消費税が最高税収比率となっていることにも驚かされます。
1989年度には、まだ19兆円あった日本企業全体の法人税収が、2019年度には11兆円にまで減り、2021年度は円安効果もあって13兆円まで戻しましたが、法人税収が減ったのは、法人税率をどんどん引き下げてきたからでした。法人税率は、1980年代には43・3%でしたが、以降は世界的潮流に乗って下げられ、現在は23・2%となっています。
法人にかかる税金は、法人税だけではありません。他にも法人の所得金額に対して法人住民税、法人事業税などがかかり、これらの総額の所得に対する割合を「実行税率」といい、法人税等の税負担率は2014年度の34・62%から毎年度下げられ、2017年には30・62%にまで下がりました。
大企業とマスメディアは、「日本の法人税の実効税率は世界と比べ高すぎる。これでは企業の競争力が殺がれ、産業の空洞化がすすむ」と訴え、政府もその意を汲んで実効税率を下げてきたのです。
また、所得税の累進構造も1970年代には最高税率が75%もあり、91年の税収では27兆円近くあったものの、今では最高税率が45%まで緩められ、直近では21・4兆円の税収です。法人税も所得税も、税率を下げて大企業や富裕層に手厚い優遇をしてきたのですから、税収が減るのも当然なのです。
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慢性的な財政赤字の日本では、1989年4月に3%の消費税を導入し、結局法人税収や所得税収の減った分を、消費税率を5%、8%、10%と上げることで直近の消費税収は21・9兆円まで増やしたものの、消費税率アップのたびに消費を鈍らせ、景気を押し下げました。
実際、一般会計の税収全体は、消費税導入翌年の1990年度に過去最高の60兆円を記録してからは50兆円台の伸び悩みとなり、2018年度での60兆円超えに戻すまで、長く低迷してきたのです。これだけを見ても、消費税増税分の8割が所得税と法人税の減税分と見合うことがわかります。結局、消費税で所得税と法人税の減税分を補っただけにすぎない財政構造だったのです。
この結果、国民は負担の増加で貧乏になる一方でした。反対に資本金10億円以上の大企業は、2011年以降連続で内部留保額を増やし、その額は2021年3月には484兆円にも達しています。
内部留保とは、企業の純利益から税金や配当、役員賞与などを引いた残りで、利益剰余金や利益準備金と呼ばれるもので、いわば「企業の儲けの蓄積」です。アベノミクスの円安誘導もあって輸出大企業ほど利益を積み上げてきたのです──
(メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』2022年8月15日号より一部抜粋)
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