日本でもトランスジェンダーについての理解は徐々に深まりつつありますが、いまだ賛否は分かれ、それは労務管理にも関係してくるようです。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では、著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、某省庁が訴えられた裁判の判決から現代のトランスジェンダーのビジネス環境について言及しています。
「男に戻ってはどうか」発言とトイレの使用制限は違法か適法か
去年、国が発表した履歴書が大きく変わりました。
今まで記載が必須だった性別欄が、「任意」に変更になったのです。
元々、個別企業では性別欄を任意もしくは不要としていたところはありましたが、国が発表したことは大きな話題になりましたね。
この「性」に関する話題はときには賛否が分かれることもありますが、労務管理についても同じことが言えます。
それについて裁判があります。
某省庁でトランスジェンダー(生物学的には男性、性自認は女性)の職員が、トイレの使用を制限されたとして、国を訴えました。
その職員は、自分が勤務するフロアと、上下1階ずつの女性用トイレの使用が禁止されていたのです。
では、この裁判はどうなったか。
職員が負けました。
「使用制限には違法性は無し」
具体的には裁判所は次のように判断しました。
・省庁には他の職員が持つ性的な不安も考慮し、すべての職員にとって適切な職場環境を提供する責任がある
・面談中の上司の「手術を受けないのだったら、もう男に戻ってはどうか」は違法な発言であった
つまり、ざっくりお話すると「(この職員がトイレに入ってくると)他の女性職員が不安になってしまうから、使用を制限するのはやむを得ない」ということですね。
さて、これについてはみなさんはどう感じるでしょうか。
実はこの裁判ですが、最初は全く逆の判決が出ていました。
最初の裁判での判断は次の通りでした。
・個人が自認する性別に即した社会生活を送ることができることは重要な法的利益として保護される
・(この職員は)女性ホルモンの投与を受けており、女性に性的な危害を加える可能性は低い
・トイレの構造から性器等を露出する事態が生ずるとは考えにくい
・性自認に応じたトイレ等の利用に対する国民の意識や社会の受け止め方は変わってきており、トラブルが発生する可能性は低い
・上司の面談中の発言は違法
いかがでしょうか?
この「トイレ問題」は実務的には非常に難しい問題かも知れません。
具体的な解決策と言えば使用者の性別を限定しない「男女共用トイレ」の設置になるのでしょうが、費用やスペースの問題もありすべての会社でできる方法では無いでしょう。
もちろんだからと言って実際に困っている人がいるのであれば、そのままで良いとも思いませんが悩ましい問題ではあります。
ただ、今回のトランスジェンダーの職員のような「LGBTQ」と呼ばれる人たちに対する取り組みはすべての会社ですべきでしょう。
今回の裁判でもトイレの使用に関しては結論は分かれましたが
「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることができることは重要な法的利益として保護される」
と、共通していましたし、面談中の上司の発言についても共通して「違法」としています。
LGBTQと言われる人は人口約10人に1人と言われます。
単純計算で、10人の部署であれば部署に1人、100人の会社であれば会社に10人です。
日本で一番多いと言われる「佐藤さん」より多いことになります。
同じ職場や、取引先などどこにいてもおかしくないということです。
例えば、取引先の担当者がLGBTQの当事者でそれに気が付かずに差別的、もしくはセクハラ的なことを言ってしまったら…
おそらく会社的にも大問題になってしまうでしょう。
そうならないためにも定期的に研修を行ったり、全社員に周知していくことが必要です。
万が一の場合は、「知らなかった」では、すまされないのです。
(無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』9月21日号より一部抜粋)
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