前回の記事『フリースの大ヒットから20年。ユニクロ柳井正氏に学ぶ「経営理念」とは?』では、ユニクロの経営者柳井正さんの経営理念について語ったメルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』。今回は著者で経営コンサルタントの梅本泰則さんが、柳井市が参考にしていたという経営の教科書について語っています。
ユニクロ柳井正氏「経営の教科書」はどの本なのか?
あなたには、経営の教科書となる本はあるでしょうか。
優れた経営者には、それぞれ「経営の教科書」があるようです。
それは、有名な学者による「経営理論」かもしれません。それとも、成功した経営者の書いた本かも。はたまた、経営とは違った「哲学」や「思想」の場合も。
では、どうして経営者には「教科書」があるのでしょう。
「教科書」があれば、経営がブレないからではないかと思います。つまり、経営が壁に当たった時や、重大な判断を迫られた時に、「教科書」を読み返すことで解決のヒントが得られることになるからではないでしょうか。
ファーストリテイリングの柳井正会長にも、経営の教科書があります。『プロフェッショナルマネジャー』という本です。米国ITTの元経営者ハロルド・ジェニーンが著わしました。
ハロルド・ジェニーン 著/プレジデント社
柳井氏は、この本の「まえがき」の中で、「僕の運命を変える一冊」だったと言っています。きっとあなたにも、そんな本があることでしょう。
柳井氏は、この本から多くの気づきを得ています。そのことが、現在のファーストリテイリングを築きあげることに役立っているようです。そうした本ならば、何が書いてあるか知りたいとは思いませんか。
そこで、この本の中から、私がポイントだと思う内容を抜き出してみたいと思います。あなたの経営に役立つかもしれません。
経営の秘訣と経営者の条件
今回ピックアップするのは、次の3つのテーマです。
- 経営の秘訣
- 経営者の条件
- リーダーシップ
どれも経営には重要なテーマですね。
最初は「経営の秘訣」から。H・ジェニーンは本の最初の方で、こう言っています。
「セオリーなんかで経営できるものではない」
つまり、経営理論などで経営はできないということです。
経営学が盛んになって以来、多くの経営理論がもてはやされてきました。
テーラーの「科学的管理法」に始まり、「アンゾフの成長ベクトル」「STP」「コアコンピタンス」「競争地位戦略」「PPM」「バリューチェーン」「マッキンゼーの7S」…。次から次へと学者やコンサルタントが「セオリー」を提唱しています。
最近では、「両利きの経営」「パーパス経営」「ダイナミック・ケイパビリティ」が流行です。いち早く、その新しい理論に飛びついている経営者もいます。
ところが、H・ジェニーンは、
「どんな理論も複雑な問題を一挙に解決してくれることはあり得ない」
と断言。それほど経営というのは複雑なものだということです。
ですから、流行りの経営理論に乗っかるのはやめた方が良い、ということでしょう。
そして、問題を解決するには、経営の本質を考えよと言います。「経営とは何か」ということです。それについては、次の言葉があります。
「経営をするとは、何かを成し遂げること」
「達成すると誓ったことを成し遂げなくてはならない」
つまり、「成し遂げる」ことが、経営の秘訣だと言ってます。さらには、
「結果を達成できなければ、その人は経営者ではない」
とまで言い切っているのはスゴイです。これが「経営者の条件」ということになります。さて、あなたはどうでしょう。
リーダーシップ
経営者には、「リーダーシップ」が必要です。それについては、次の言葉があります。
「リーダーシップは経営の核心である」
経営にはリーダーシップが最も必要だと言うことです。
では、リーダーシップとはどんなことを指すのでしょうか。
「リーダーシップとは、共同の目的を遂げるために、他の人びとをチームに結束させ、自分のリードにしたがうように仕向ける能力である」
分かります。とはいえ、その能力は自然に身に付いているものでしょうか、それとも学んで身につけられるものでしょうか。
H・ジェニーンは、
「リーダーシップを伝授することはできない。それは各自がみずから学ぶものだ」
と言います。つまり、リーダーシップの能力は人から与えられるものではなく、みずから学ぶことによって身につけられるということです。
そして、その学ぶ方法について述べています。
「人は失敗から物事を学ぶのだ。成功から学ぶことはめったにない」
失敗をおそれず挑戦すれば、おのずとリーダーシップが身に付くということでしょう。
リーダーの人間性にも、言及しています。
「リーダーシップの究極的な性質と特色はリーダー自身の内奥の人格と人間性から出てくる」
日頃の経験を通じて、人格と人間性を高めることが必要なのです。
以上、簡単にご紹介しましたが、最後に次の言葉をつけ加えておきます。
「会社を経営するのは、雪の上に字を書くようなものだ。書いた字が消えないようにするには、新しい雪が降り積もるたびに、何度でも根気よく書き直さなくてはならない」
いかがでしょうか。柳井正氏の「経営の教科書」から、ご紹介しました。
この他にも、「経営者と数字との関係」や「自己中心的社員の問題」など、いくつもの気づきがあります。
そして、柳井氏のように「教科書」があることは重要です。もし無ければ、今からでも遅くありません。「運命を変える一冊」を探しましょう、
■今日のツボ■
・優れた経営者には「経営の教科書」がある
・経営理論では経営はできない
・経営とは、誓ったことを成し遂げることである
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