プーチン大統領が70歳を迎えた10月7日の翌日早朝、何者かの手により爆破されたクリミア大橋。ロシアはこれをウクライナによるテロと断定し同国全土に攻撃を加えましたが、さらなる報復としてプーチン大統領が「人類にとって最悪の手段」を選択する可能性もあるようです。今回のメルマガ『上杉隆の「ニッポンの問題点」』ではジャーナリストの上杉隆さんが、クリミア半島がプーチン氏にとっていかに重要な地であるかを解説。その上で「大統領が合理的な判断を放棄することがないとは言い切れない」とし、核兵器を使用しかねないプーチン氏に対する強い懸念を記しています。
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【核戦争の引き金】クリミア大橋爆破でプーチンはどうするのか?
10月8日早朝、巨大な火炎とともにクリミア大橋(ケルチ海峡大橋)の一部が崩れ落ちた。全長19キロメートル、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ要衝の橋である。巨大な爆発は、橋桁を吹き飛ばし、走行していた貨物列車を炎上させ、少なくとも3名の命を奪った。
10月7日、この日はプーチン大統領の70回目の誕生日であった。BBCによると、ロシアの独裁者のもとにも高価で前例のないプレゼントが贈られたようだ。
タジキスタンからはメロンの山、ベラルーシからは最新型トラクター、そして、戦火を交えるウクライナからのプレゼントだけは異質だった。翌早朝「プーチンの愛する橋(クリミア大橋)の爆破」という祝砲が届けられたのだ。
「これは始まりにすぎない」(ウクライナのポドリャク大統領顧問)
爆発後、ロシア政府はウクライナのトラックによる自爆攻撃を示唆している。米紙ワシントンポストもウクライナの諜報機関による犯行だという見方を示している。
● Putin’s bridge of dreams explodes in flames
一方で、ウクライナ側はロシア情報機関のFSBの関与を疑い、内部対立による自演自作だと反論しているが、同時に、ゼレンスキー大統領は爆発後の演説で「きょうのウクライナは全国的に晴だった。残念ながらクリミア地方は曇りだったが、温暖であり、その未来は占領者を追い払ったゆえに快晴だった」と述べ、犯行を示唆するような素振りをも見せている。
● Наше майбутн? ? сонячне. Це майбутн? без окупант?в. Звернення Володимира Зеленського 08.10.2022
少なくとも、今回の爆発は事故ではないということで両国の意見は一致している。となると、クリミアをめぐる未来への代償は、ゼレンスキー大統領が考えるほど楽観的ではないといえるだろう。
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この橋に対するプーチンの思い入れは強い。2015年のクリミア併合の翌日には橋の建設を宣言している。2018年の開通式には大統領自ら大型トラックのハンドルを握って橋を渡り、セレモニー会場に登場している。ウクライナ戦争開始時でも、クリミアの防衛を増強し、橋の警備を強化してから侵略に及んでいる。
危惧するのは、この爆発事件を理由に、プーチンが最悪の手段に出ることだ。開戦や戦略の変更などにおいては、盧溝橋事件などでも同様だが、事実や正義が犠牲になることが多々ある。メドベージェフ元大統領は「仮に、クリミアを攻撃するようなことがあれば、敵に対して核攻撃も辞さない」と発言したとも伝えられている。
ロシアにおいて、歴代の首脳や大富豪の保養地としてクリミアは豊かさの象徴だ。そのクリミアと本土を結ぶ橋は、戦争開始後は物資の重要な補給路であり、ロシアの繁栄の象徴のひとつともなっている。
プーチンはクリミアにおいて一切妥協を見せる気配がなかった。そもそも、過去20年余の統治で、プーチン大統領が後退するような政策を採ったことも一度もない。世界中を敵に回そうとも前進するだけなのだ。とくにクリミアではそうである。
そのクリミアが攻撃されたのだ。最初にロシアがウクライナへ侵攻したのが問題だという理屈は通用しない。プーチンにとっては、橋が爆破されたという事実だけがあるのだ。
核の使用はいかなる理由があろうと絶対に避けられるべき手段だ。それは、人類全体の悲劇の始まりであり、誰もが願っていない悪手なのだが、時に感情が理性を超えるときがある。健康問題を取りざたされているプーチン大統領が合理的な判断を放棄することがないなどとは誰も言い切れない。
ロシアは爆破事故調査終了後の報復を示唆している。報復の内容はなにか、それが最大の焦点だ。
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