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英国EU離脱の「6倍」という衝撃。ドイツ経済界が懸念する「脱中国」の影響

イデオロギーを全面に押し出した政治は、経済的にマイナスとなる面があり、不協和音や対立を生むようです。ウクライナ支援や中国との関係に関して、アメリカ国内とドイツ国内で対立が顕在化していると指摘するのは、メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で、多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。ドイツの経済界が、連立政権による「脱中国」路線をけん制するために試算した損失を紹介し、日本は反面教師として学ぶべきことがあると説いています。

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迷走に迷走を続ける欧州の姿から、日本が反面教師として学ぶべき多くのこと

中国共産党第20回全国代表大会が10月16日に開幕した。世界が注目する人事が出そろうのは閉幕直後に開催される1中全会(中国共産党第20回中央委員会第1回全体会議)である。それ以前に中国のこれからを占うのは時期尚早だ。ただ、中国を取り囲む外部環境の厳しさは、党中央及び指導部の選択と決断に大きな影響を与える。

ここ数年、習近平国家主席が繰り返してきたように、いま中国は「100年に一度の大きな変化の圧力にさらされている」。それが共産党の危機感でもある。そして、この警戒の大きな部分が対外関係に向けられていることも間違いないのだ。

もちろん、最大の逆風はアメリカによる制裁の嵐だ。この嵐が強ければ強いほど中国は安定を求め、大きな変化を避ける方向に舵を切ると考えられている。つまり人事の刷新を最小限にとどめることで、権力継承のプロセスが遅れるということだ。もし変化の乏しい人事となれば、それは中国がよほど深刻に現在の情勢をとらえているということだ。

さて、その意味で今週は中国を取り巻く外部の状況がどうなっているのかをヨーロッパ(イギリスを含む)の動きから見てゆくことにしたい。なかでも注目は「政治」がもたらす「経済」へのマイナスについてだ。この視点からヨーロッパの選択をみてゆくことは、そのまま「明日の日本」にもつながってゆく。

現状、日本では「安全保障」と「経済」という単純な対立から、そのバランスが語られることが多い。しかし、実際には一つの国のなかでも決して利害が統一されているわけではない。そこには内政の争いという複雑な要素も入り込んでくるのだ。その不協和音は、例えばウクライナ支援では最も積極的なアメリカでさえ、目立ち始めている。

現地時間10月13日の『FOX NEWS』では、キャスターのタッカー・カールソンが、さらなる援助を要求したゼレンスキーの話題に顔をしかめ、声を荒げた。番組のタイトルは「ウクライナ支援はアメリカに利益はもたらさない」だ。タッカーは、「一人のTシャツを着た傲慢な外国人が自分たちの重要な経済の需要を満たすために金を要求する。われわれにも経済政策のための資金は必要だ。あなたは誰なんだ?」と厳しい言葉を投げつけた。

当然のことながら『FOX NEWS』は現政権に厳しいメディアだ。その意味では発言も割り引いて聞かなければならないが、同様の思いが一部にあるのは確かなのだろう。

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ウクライナに対して武力侵攻したウラジミール・プーチン大統領の行為を受け入れられないのは世界が共有する認識だろう。しかし、それに対して各国がどのように対応するのかは、ウクライナとの関係や地理的な条件、またはロシアへの恐怖心などで濃淡が別れるのも自然なことだ。また、それよりも大きいのが経済的な条件である。なかでも、エネルギーや食糧をロシアに大きく依存してきたヨーロッパにとっての思いは複雑だ。

ヨーロッパの各国国内には「経済的な逆風は我慢してウクライナ支援をすべき」という主張と「自分の生活を守ることを優先すべき」との主張がぶつかっている。交錯する思惑のなかで難しいかじ取りを迫られるのは各国の政治が抱える悩みである。

なかでも目立つのはドイツの迷走だ。同国で明らかなのは、中ロに対する姿勢をめぐり、首相と他の閣僚との間に明らかにスタンスの違いが生じていることだ。例えば、10月11日、ベルリン機械工業サミットで演説したオラフ・ショルツ首相は、グローバル化の可能性に触れ、中国との関係を意識して「サプライチェーンの寸断には断固として反対する。それは明らかに誤った道だ」と述べた。

しかし、その直後に何とドイツ外相のアンナレーナ・ベアボックが「ドイツ経済は過度に中国との貿易に依存すべきではない」とサプライチェーンを調整する必要性に言及しているのである。

同じタイミングで欧州連合(EU)もフォンデアライアン委員長がレアアースなどで対中依存の見直しに言及しているので、欧州全体の流れと見ることもできるが、ドイツ国内の事情を忘れてはならない。それは緑の党とドイツ社会民主党の政策の違いからくる齟齬だ。事実、ベアボックと同じくショルツ政権で副首相及び経済・気候保護大臣を務めるロベルト・ハーベックも「脱中国」を公然と口にする。ハーベックも緑の党だ。

ハーベックはG7(先進7カ国)貿易大臣会合でロイター通信のインタビューに応じ、中国産の原材料、バッテリー、半導体への依存度を減らすために「新たな対中通商政策に取り組んでいる」と語っている。

中ロを一括りに厳しい姿勢で臨むのが緑の党の姿勢だ。それに対しショルツ首相が現実的な調整を迫られるという図式だ。この二者の立場は、アメリカの政界と経済界の立場の違いにも似ていて、おそらく多くの国で見られるねじれ現象だ。政治が経済成長にとっての大きな逆風になる時代である。

ドイツの経済界は、メルケル後に誕生した連立政権から、おそらく政治の逆風が吹くとを予測し、早くから「脱中国」のマイナス影響を明らかにし、けん制する動きを続けてきた。代表的なのは今年8月、ミュンヘンに本部を置くIfo経済研究所だ。同研究所は、もしドイツと中国の間に経済戦争が起きれば、という仮定で損失のシミュレーションを行っていて、その損失を「イギリスのEU離脱の6倍にあたる」と算出。衝撃的な結論を導き出している──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年10月16日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Alexandros Michailidis/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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