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JIANGXI CHINA-Nov 26, 2012, Yangtze River Industrial Park, Vico printing dyeing Knitting Co. Ltd. production workshop, workers are sewing processing apparel products exported to Europe and america.

もう中国生産は維持できない。これから日本のビジネスはどう変化していくのか?

現在、日本市場のアパレル製品のほとんどが中国製です。こうした中国に頼ったファッションビジネスは、今後ままならなくなる可能性があると指摘するのは、メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんです。中国生産が維持できなくなった時、ビジネスはどう変化していかねばならないのでしょうか。

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ファッションビジネスの方向性が変わる

1.中国生産は維持できない

日本市場で流通しているアパレル製品の約8割は中国製で占められている。百貨店、量販店、専門店、ネットショップ等、ほとんど全ての流通で中国製品が扱われている。もし、中国製品が日本に入ってこなくなれば、ビジネスは止まり、多くの企業が倒産するだろう。

現在、中国製品の入荷が遅れている。

第一の要因は、中国のゼロコロナ政策だ。一人でもPCR検査で陽性が出ると、何の前触れもなく、突然、地域単位で外出禁止となる。工場も止まるし、トラックも立ち入り禁止になる。

広州では、展示会の前日に準備をしていたところ、突然コロナで外出規制となった。出展者は、展示品を置き去りにして、慌てて空港に向けてタクシーを飛ばし、脱出しようとした。しかし、結局空港でつかまり隔離施設に送られたという。これではビジネスどころではない。

第二の要因は、電力不足による停電である。雨が少なく干ばつとなり、ダムの水量が減って水力発電ができない。火力発電所を動かそうにも、石炭を積んだ船が航行できないほど、河の水量が減っている。

中国の電力不足は既に慢性的なものだ。昨年は工場の電力を優先し、住宅を停電にしていたが、今年は市民の生活を優先するため、工場が停電になっている。停電になれば、工場は稼働できない。

第三の要因は、先進国からの注文が来ないこと。多くの国は、中国生産から東南アジア生産に切り替えている。

これはコストの問題だけではない。政治的な問題だ。中国政府による少数民族の人権弾圧、周辺諸国への軍事的圧力等に対して、西側諸国は中国生産をボイコットしている。

その結果、注文がないので、工場は稼働せず、倒産している企業も多い。

以上のような、複数の要因により、中国生産は維持できなくなりつつある。

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2.大量生産大量販売は持続できない

アパレル製品の原材料費が高騰している。

最近の1~2年で綿糸は2倍以上に値上がりしている。元々、綿花栽培は減少しているが、それに加えて、中国のウイグル自治区の人権侵害問題による新疆綿のボイコット、パキスタンの水害による綿花畑の被害等が拍車をかけている。世界的不況のため、価格上昇は落ち着いているが、供給全体が減少しているので、長期的な値上がりが続くと予想されている。

ポリエステル等の合繊の原料は石油であり、石油価格高騰に伴って、ポリエステル糸の価格も上昇している。世界に流通しているアパレル製品の9割以上が綿とポリエステルで占められている。代替えは効かないのだ。

アパレルの資源は有限であり、しかも持続可能性や環境への配慮が求められる現代では、これまでの大量生産大量販売、大量廃棄というビジネスモデルは成立しない。限りある資源をいかに大切に使うか。いかに無駄を排除するかが課題となっている。

環境や資源を考えれば、低価格大量販売ではなく、高価格少量販売を目指すべきだろう。

中国生産ができなくなり、国内生産に切り替える動きも見られるが、それには価格設定の見直しが不可欠である。最終的には中国生産が始まる以前の80年代から90年代前半の価格、つまり、ユニクロの3~4倍の価格が目安になるだろう。

しかし、多くのアパレル企業は製品価格を上げると売れなくなると考えている。

ASEAN生産に転換すれば、価格は下がるが、生産ロットが問題になる。これまでの中国生産のように小ロット生産はできない。千枚単位、万枚単位の発注が要求されるからだ。グローバルなスケールのアパレルであれば、ASEAN生産も可能だが、国内市場に依存している一般のアパレル企業は難しいだろう。

3.ファストファッションの衰退

ファストファッションはグローバルトレンドが企画の基本だった。世界市場で同じ商品を販売するには、世界共通のトレンドが必要であり、その情報ソースは欧州のコレクションや見本市だった。しかし、同じトレンド情報に基づく商品はどうしても同質化し、最終的には価格競争に陥ってしまう。

そもそもファッションは国単位で固有の文化、宗教、価値観、美意識を反映するものであり、世界共通商品という設定自体に無理がある。

しかし、グローバル主義者はその常識を否定し、個別のアイデンティティを否定する。それは少数民族の文化を否定するのと同じ思想である。幸いにも、日本は固有の文化を持ち、世界的にも評価されているため、現在のところ日本文化そのものが否定されることはない。それでもファッションは世界共通のものであるという思想、西欧崇拝主義はファッション業界内こそ根強い。

現状は、ファストファッションが衰退し、トレンド商品よりデザイナーズブランドが売れている。同質化したトレンドより、個性的な商品、個別に対応した商品が選ばれている。

今後は、世界共通トレンドではなく、個別対応のファッションが主流になるだろう。

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4.トレンドより歳時記

最近、トレンドがトレンドではなくなっている。コロナ禍でコレクションや見本市が中止になり、トレンド情報が途切れた。そして、ショップが閉鎖されていたので、消費者は新作ファッションを購入することもできなかった。家にいる時間が長くなると、無駄な服が見えてくる。最低限の服だけを残して「断捨離」した人も少なくなかった。

新しい服を買わなくても、外出する機会も減ったので困らなかったのだ。そして、感染者数が落ち着いて、旅行が解禁されると、旅行に着ていく服が売れた。

服は必要に応じて購入すればいいのであって、トレンドを追いかけて購入するものではない、という考え方が広がっていったようだ。

次第に、トレンド情報よりもアパレル製品を購入する動機となる、季節の変化、行事、行動等が重要になっている。

俳句を詠む場合、季語を集めた「歳時記」が重要になる。ファッションにおいては顧客の生活歳時記が重要になっているのだ。

季節の変化や歳時記を基本にした商品計画は、和装業界では常識である。そして、70年代頃までは、アパレル製品の分野でも歳時記が重要だった。80年代になり、ファッション雑誌がトレンドを紹介するようになったのである。その意味では、70年代のアパレル企画への回帰ともいえるだろう。

そもそも日本の生活者は季節の変化に敏感だった。季節を愛でることも日本の文化であり、ここにもグローバルからローカルへの流れが感じられる。

編集後記「締めの都々逸」

「分断分裂 世界は変わり 足元見つめて 暮らしてく」

ファッションはなくなりません。アパレル製品もなくなりません。中国生産もなくなりません。日本のアマゾンで販売しているアパレル製品の7~8割は中国製とのことです。

もし、アマゾンの購入が増えれば、中国企業が扱う中国製アパレル製品が流通することになります。つまり、アパレル企業が変わり、ビジネスモデルが変わるということです。

私の友人の企画会社は、日本の大手アパレルの仕事が減り、アマゾンの仕事が増えたと言っていました。日本市場で売れる商品が予測できることが重要なのです。こうした変化がアパレル業界内で次々と起きると思います。

国内生産をするなら、高い価格でも売れる商品を企画、生産、販売するしかありません。規模は小さいけど、デザイナーズブランドで手堅いビジネスをしている人もいます。

既存の企業は大変ですが、新規で起業するならやりようはあるということですね。(坂口昌章)

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image by: humphery / Shutterstock.com

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