MAG2 NEWS MENU

遅すぎた対応。統一教会への「解散命令」しか取る道がなくなった岸田内閣の絶体絶命

世論の声に押される形で、ようやく旧統一教会に対する「質問権」の行使を指示した岸田首相。しかしそのタイミングはあまりに遅く、自らを窮地に追い込んでしまったと言っても過言ではないようです。そんな政権の現状を「進むも地獄、引くも地獄」と表現するのは、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんは今回、なぜ彼らがそのような状況に陥ってしまったかを詳細に解説しています。

【関連】政治家個人より「党」が悪い。自民と統一教会が“組織的関係”であるこれだけの証拠
【関連】地方行政にまで浸透。日本国が統一教会と手を切ることは可能か?

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

進むも地獄、引くも地獄。統一教会「解散命令」の是非で窮地に陥る岸田首相が失った“タイミング”

山際経済再生担当大臣が辞任した。旧統一教会との関係が相次いで明らかになっており、政権運営に迷惑をかけたくないとして、岸田文雄首相に辞表を提出した。しかし、事実上の「更迭」との見方もある。

臨時国会が始まり、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」と政治の関係が焦点となり、岸田政権への批判が高まり、内閣支持率が急落している。そのため、岸田首相は、この問題について、より踏み込んだ対応を迫られている。

岸田首相は、旧統一教会に対して、宗教法人法に基づく「質問権」の行使、調査をするように、永岡桂子文科相に指示した。「質問権」の行使は、宗教法人の解散につながる可能性があるものだ。

ところが、10月18日の衆院予算委員会で、岸田首相は宗教法人の解散命令を裁判所に請求する要件は、「刑事罰」などが必要で、「民法の不法行為は入らない」との見解を示した。だが、これまで教団の組織的な不法行為を認める民事判決は複数あるものの、刑事判決を受けたものはない。野党が、「民法の不法行為」が要件に入らなければ、刑事訴追して判決がでるまで何年もかかると指摘し、岸田首相は問題解決に消極的だと厳しく批判すると、首相の発言は一転した。

岸田首相は、翌19日の参院予算委員会で、「民法の不法行為」の不法行為も含まれると法解釈の変更を行った。支持率の急落に悩む首相が、ようやく旧統一教会と政治の関係の問題解決になりふり構わず動いている。しかし、状況は一向に改善せず、ついに山際経済再生相が辞任する事態となった。

私は常々、問題解決にあたる際の自民党の問題点を「Too Little(少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」と批判してきたが、旧統一教会を巡る自民党の対応は、まさに自民党らしいもので、それが問題の傷口を広げて、手の施しようがないほど事態を悪化させてしまったといえる。

自民党は約2か月前、安倍晋三元首相暗殺犯が、旧統一教会の信者の息子であったことから、旧統一教会と自民党の関係が次第に発覚していった時期、今とは真逆の対応をしていた。岸田首相は教団と党の間に「組織的な関係はない」と強調していた。自民党の政策決定に関しても、教団が不当に影響を与えたことはないという認識を示していた。

茂木敏充党幹事長も、党所属議員が旧統一教会とのかかわりをそれぞれ点検して、適正に見直していくと強調していた。幹事長は、「旧統一教会と関係が絶てない議員は離党してもらう」とまで発言した。要するに、首相も幹事長も、旧統一教会との関係は、個々の議員の政治活動だと突き放し、党には責任はないと主張していたのだ。

だが、岸田首相や茂木幹事長の「教団とは組織的関係はない」「個別議員の政治活動」だという主張は、完全に誤りだったと言わざるを得ない。

私は、最初から彼らの主張に異議を唱えていた。なぜなら、教団と自民党の関係は「組織的な関係」そのものであり、その責任は党にあるのが明らかだったからだ。

そもそも、自民党の個々の議員は、党や派閥の幹部、地元の主導で旧統一教会と関係を持つことになるからだ。

新人候補者が初めて選挙区に入る時、学校の同級生くらいしか知り合いがいない例も少なくない。世襲の新人候補者でさえ、東京の学校を出た人が多く地元に知り合いはいない。その時、党や派閥の幹部、地元のベテランのスタッフから、支持団体など票を入れてくれる組織や人に挨拶をするように指示される。候補者は、わけがわからないまま、言われるままに、いろいろな組織や人に頭を下げる。こういう支持団体の1つに、旧統一教会がある。そこから、候補者と教団の付き合いが始まるのだ。

もちろん、新人候補者でも、旧統一教会が霊感商法など「反社会的」な活動をしてきたことは、当然知っていたはずだ。だが、知名度もない新人候補に、支持団体との付き合いを拒否することなどできるはずがない。初当選後も、関係を切ることなど簡単にはできない。教団の関連団体のイベントに祝電を送ったり、出席して挨拶したりする。逆に教団関係者に政治資金パーティーの券を購入してもらう、等の付き合いがずっと続くことになる「政治家は選挙に落ちればタダの人」なのだから。

要するに、自民党は旧統一教会を「集票マシーン」として利用していたということだが、それは「党主導」であり、個々の議員に主体性がないということだ。さらにいえば、自民党では各業界団体の票だけでは足りない議員について、旧統一教会が認めてくれれば、その票を割り振ることをしていたという指摘もあるのだ。自民党と旧統一教会の間は「組織的な関係」そのものなのである。

そもそも、旧統一教会と国会議員が関係を絶てば、万事解決するというような単純な問題ではない。旧統一教会と政治・行政の関係は地方にも広がっているからだ。日本の国政選挙は、候補者の下で、首長、都道府県会議員、市議会議員、地方の政党、後援会、支持団体のスタッフがピラミッド型の組織に選挙運動を展開する。旧統一教会と国会議員が選挙を通じてつながっているならば、地方は選挙の実働部隊としてより深く結びついているのは当然のことだ。

実際に、多くの信者が国会議員の公設秘書、私設秘書として雇用されているという。また地方議員やスタッフとして活動してきたという。選挙の応援をボランティアで行い、「掲示板でのポスター貼り」「街頭演説でのビラ配り」「動員され聴衆として参加」「電話かけ」という選挙スタッフがやりたがらないような仕事も、「信仰のため」と熱心にやるという。要するに、国と地方のさまざまな政治活動に教団と信者が参加しているのだ。

旧統一教会は、自民党の「集票マシーン」となることで、「霊感商法」「合同結婚式」などで失ってしまった「社会的信用」を取り戻そうとしている。政党の有力な支持団体という「お墨付き」を得れば、信者を集めやすくなる。信者を集められれば「献金」「お布施」「寄付」などの資金集めもやりやすくなるということだ。

旧統一教会の活動は、選挙活動にとどまらず、さまざまに広がっている。例えば、教団は地方自治体だけではなく、全国に約1,800か所の市町村に設置されている。地域福祉の普及推進と、民間福祉事業やボランティア活動の推進支援を行う社会福祉協議会(社協)にも多額の寄付を行ってきた。

また、旧統一教会は、「平和ボランティア隊」を組織し、2011年の東日本大震災、2014年の「広島土砂災害」、2016年の「熊本地震」、2017年の「九州北部豪雨」、2018年の「西日本豪雨災害」、2019年の「台風15号」、など、さまざまな大規模災害の現場にボランティア隊を派遣し、復興支援を行ってきた。

さらに、「ピースロード」という旧統一教会の関連団体が共催に名を連ねて、全国各地で実施しているイベントがある。その実行委員会には、地元選出の国会議員や地方議員が参加し、さまざまな都道府県、市町村が後援してきた。

要するに、旧統一教会はさまざまな形で国政や地方政治・行政に深くかかわっている。国会・地方議員、首長、自治体は旧統一教会から票や寄付金、ボランティアを得て、旧統一教会は「社会的信用」を勝ち取るというギブ・アンド・テイクの関係ができあがっているのだ。

現在、メディアは連日、政治・行政と旧統一教会の関係を報道し、厳しく批判している。私も、信教の自由は守られるべきだが、旧統一教会という「反社会的行動」を行ってきたことが明らかな団体から支援を得て、その団体の活動を事実上助けてきた政党・政治家には「道義的責任」がある。関係を断ち切れるならば、それがいいと思う。

だが、これだけ広く深く政治・行政に食い込んだ団体との関係を切ることは現実的に不可能だろう。もちろん、多数の被害者が出ており、その救済は最優先されるべきだ。だが、旧統一教会の教義を純粋に信じて、政治・行政やボランティアの活動に一生懸命取り組み、社会的な信用を得てきた人たちも多数いるのだ。彼らを、旧統一教会の信者だからといって、一律に排除できるのかといえば、無理である。

プライバシーや人権の侵害になるし、宗教弾圧につながる危険がある。なによりも、自由民主主義社会は政治の側が教団との関係を絶とうとしても、信者が勝手にある政治家を応援し、選挙で一票を投じることを止めることはできないのだ。

それでは、どうすれば旧統一教会の「反社会的な行動」を改めさせることができるか。この連載では、岸田首相が主導して旧統一教会の「反社会的な活動」の是正を直接求めることと主張してきた。そして、岸田首相の指示で、旧統一教会の宗教法人格の認可を再審査する。場合によっては「宗教法人」としての認可を取り消すことも辞さない姿勢で旧統一教会に変化を求めることしか現実的な解決はない。

【関連】政治家個人より「党」が悪い。自民と統一教会が“組織的関係”であるこれだけの証拠
【関連】地方行政にまで浸透。日本国が統一教会と手を切ることは可能か?

言い換えれば、旧統一教会に「まともな宗教団体」になってもらうということだ。まともな宗教団体であれば、政治・行政とかかわることやボランティア活動で社会に参加することは問題ない。例えば、創価学会など旧統一教会よりはるかに規模の大きな宗教団体が政治・行政にかかわっている。それは、政教分離という観点からみても、特に問題視されていない。

ちなみに、朝日新聞がスクープしたように、旧統一教会の友好団体が、今年の参院選や昨年の衆院選の際、自民党の国会議員に対し、憲法改正や家庭教育支援法の制定などに賛同するよう明記した「推薦確認書」を提示し、署名を求めていたことが分かっている。選挙で支援する見返りに教団側が掲げる政策への取り組みを求めた「政策協定」ともいえる内容で、文書に署名した議員もいたという。

しかし、一部そういう議員もいたかもしれないが、旧統一教会が自民党の政策決定に影響を与えたという証拠はない。統一教会の関連団体である「勝共連合」は、「ジェンダーフリーや過激な性教育の廃止」「選択的夫婦別姓反対」「男女共同参画社会基本法の撤廃」を政治目標に掲げている。だが、安倍政権以降の自公政権は、これらの政策をまったく採用していない。むしろ、旧統一教会が忌み嫌っているはずの社会民主主義的な政策が次々と実現されてきた。

一部の自民党議員が、旧統一教会の主張する政策を強く訴えたとしても、それはリップサービスの域を出ない。自民党は、旧統一教会を「集票マシーン」としてきただけである。ゆえに、フェアに言って、旧統一教会が「まともな宗教団体」となるならば、政治活動を行うこと自体に問題があるわけではない。

現在、岸田首相が国会で示している宗教法人法に基づく「質問権」の行使という方針は、私が主張してきたことに沿うものだ。だが、残念ながらそれを評価することはできない。

なぜなら、それは「先送りによって国民が問題を忘れるのを待とうとする」いかにも自民党的な古いやり方が失敗した結果、行きついたことであり(つまり、Too Old)、個別の議員に責任を押し付けて、党として責任回避を図ろうとして結果である(つまり、Too Little)。

そして、なにより問題なのは、岸田首相が問題解決に本気で乗り出したことが遅すぎたことだ(つまり、Too Late)。その2か月間の間に、メディアが連日この問題を取り上げて、世論が怒りに沸騰し、内閣支持率が大きく下落した。

この状況では、おそらく旧統一教会に対する「質問権」を行使した時、「霊感商法」等の問題に改善がみられ、まともな宗教団体となったと認め、宗教法人格を継続するという判断をしても、国民は絶対に納得しないだろう。要は、今後岸田内閣が取り得る道は、旧統一教会に対する「解散命令」しかなくなってしまっているのだ。

しかし、繰り返すが、旧統一教会を解散させるというのは、現実的ではない。むしろ、問題をより深刻化させる懸念すらあるのだ。元オウム真理教幹部で、現「ひかりの輪」代表の上祐史浩氏はTV番組にインタビュー出演し、宗教法人に対する解散命令請求についての見解を述べている。

上祐氏は、「宗教法人の解散命令に関しては実際の解散ではないので信者の活動には影響を与えない」とした上で、「信者たちは自分たちが弾圧されていて、悪の社会が悪を深めているみたいな感じになると逆に信仰が悪い意味で深まる」と指摘した。教団の活動がむしろ先鋭化し、「こんなはずじゃなかったという状況になる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

私も、上祐氏の見解に概ね同意する。繰り返すが、あくまで「質問権」の行使は、旧統一教会に「まともな宗教団体」になってもらうためであるべきだ。

おそらく、まだ世論が沸騰する前に、岸田首相が党として責任を取る姿勢を示し、「質問権」の行使を決断していれば、解散命令をちらつかせるだけで、旧統一教会の活動を正常化させて、次第に問題を鎮静化させていくことも可能だったかもしれない。

だが、今ではその幕引きでは、誰も納得しないところまで話がこじれてしまった。旧統一教会に対して解散命令を出さなければ、内閣支持率がさらに下落し、内閣が持たなくなる。一方、解散命令を出せば、路頭の迷った教団が先鋭化する。岸田首相は、「進むも地獄、退くも地獄」の状況に陥ってしまったといえる。

image by: 首相官邸

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け