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中国や北朝鮮と同レベルの人権感覚。日本人の異常な「死刑好き」

死刑についての不適切な発言が問題となり更迭された葉梨康弘元法相。この失言は葉梨氏の無責任な姿勢だけでなく、法相としての「知識の欠如」をも露呈させてしまったようです。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、法相が死刑の執行命令を出すのは葉梨氏の言う「当日朝」ではなく、数日前が慣例とする新聞記事を紹介。さらに死刑廃止が国際社会の常識となる中、存続を肯定する日本人が8割にも上る事実を伝えるとともに、その理由について問われた国会議員の返答を取り上げています。

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葉梨法務大臣の失言にみる 日本の「死刑」 なぜこれほどまでに日本人は死刑が好きなのか 日本の人権は中国や北朝鮮、イランと同レベル

岸田首相は11日、死刑の執行に関する職務を軽視するような発言をした葉梨康弘氏を更迭した。葉梨氏の進退については、当初、首相は11日昼の参議院本会議で、と続投をさせる意向を示す。しかし政府と与党内で

「法相としての職責を果たすことは難しく、早期に交代させなければ、世論の批判が強まる」(*1)

との声が強まり、結果、更迭が不回避と判断したとみられる。

葉梨氏は、

「法務大臣というのは、朝、死刑(執行)のハンコを押して、それで昼のニュースのトップになるというのは、そういう時だけという地味な役職だ」

と会合で発言。それだけでなく、旧統一教会の問題にからみ、

「今回はなぜか、旧統一教会の問題に抱きつかれてしまった。ただ、抱きつかれてしまったというよりは、一生懸命その問題解決に取り組まないといけないということで、私の顔もいくらかテレビに出られるようになった」(*2)

とし、あるいは、

「外務省と法務省、票とお金に縁がない。外務副大臣になっても、全然お金がもうからない。法務大臣になってもお金は集まらない。なかなか票も入らない」(*3)

というような発言をしていた。

目次

「法治国家」の象徴 “警察官僚”出身 職務「放置」か?

今回の事態で最も甚だしいのは、当の葉梨氏本人が警察官僚出身であること。死刑を軽視するとともに、死刑廃止が世界の潮流のなか、それに反し、さらに治安行政織である警察内部の“腐りきった”ホンネが見え隠れする。

そもそも、葉梨氏に限らず、ここ数年、法務大臣が辞任するケースが相次いだ。

政治ジャーナリストの角谷浩一氏は東京新聞(11月11日)の取材に対し、

「本来、法相は法務行政に詳しい、安定感のあるベテランが不文律だった。それがここ数十年で『誰がやっても同じだ』という雰囲気が出てきた」

と指摘。葉梨氏は今回、

「外務省と法務省は票とお金に縁がない」

とも発言。事実、法務省はほかの省庁と比べると許認可にまつわる業務が少なく、政治家自身の“政治力”で動かせる仕事の幅は小さい(*4)。しかしながら、法務大臣の職務は“法治国家”の象徴でもある。

最近では、旧統一教会に関する政府の合同電話相談窓口が設置。対応したのは関係省庁連絡会議で、会議に主宰は法務大臣だった。

それだけでなく、法務省の職務は、刑務所の管理運営や受刑者の処遇、更生保護、戸籍・登記の事務、人権の擁護など多岐にわたる(*5)。

葉梨氏の今回の失言は、そのような「法治国家」日本の職務をまさに「放置」しているようだ。

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死刑 “法相命令” 実際は執行数日前

東京新聞は、死刑執行に関する文書を法務省に情報公開請求している(*6)。対象となったのは、東京・秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚。

それによると、死刑の執行は今年の7月26日だったが、しかし1週間前の19日に法務省の刑事局が起案し、当時の古川禎久法相による執行命令は7月22日付だった(*7)。

葉梨氏は、

「法務大臣というものは朝、死刑のはんこを押し、昼のニュースのトップになるのはそういう時だけだという地味な役職だ」

と発言していたが、実際にはお法務大臣は死刑執行の数日前に命令を出すのが慣例だ。

東京新聞の情報請求により開示された文書は、法相名の「執行命令書」と、法相と副大臣、法務省幹部のサインや押印がある「死刑事件審査結果(執行相当)」と法務省内の決済文書、執行経過などが書かれた「死刑執行報告書」など(*8)。

そもそも、死刑囚は判決の確定後、外部とのやりとりを厳しく制限される。

そして、いつ来るか分からない死の恐怖と向き合い、結果、直前に執行を告げられる。政府は、死刑囚の心情の安定を保つためとして執行を早くに伝えず、厳粛な空気を強調。

しかし今回の葉梨氏の発言は、その説明を揺るがしかねない。

なぜこれほどまでに日本人は死刑が好きなのか 日本の人権は中国や北朝鮮、イランと同レベル

世界的には、死刑廃止はもはや当たり前だ。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、2021年現在、死刑廃止国は108カ国。また10年以上死刑の執行がない国も含めると、144カ国にのぼる。

一方の死刑存続・執行国は日本や中国、北朝鮮、イランなど55カ国。先進38カ国が加盟するOECD(経済開発協力機構)の中では、日本とアメリカだけ。

そのアメリカでもバイデン大統領が死刑の廃止を公約に掲げ、2021年7月には連邦レベルにおける執行が一時停止(*9)。

それにもかかわらず、日本人の“死刑好き”は相変わらず。2019年の内閣府による世論調査では「死刑もやむを得ない」が80.8%で「廃止すべき」の9%を大きく上回る。

その理由を、2018年に設立された超党派による議員連盟「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」の会長である自民党の平沢勝栄衆院議員は、東京新聞(2022年10月10日)の取材に対し、

「国民は執行されたことしか知らない。執行までの間がどうなっているのかなどの情報を提供し、議論する必要がある」

とした。

「放送法第3条第4項」には、

「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」

との記載がある。

引用・参考文献

(*1)読売新聞「葉梨法相を更迭」2022年11月12日付朝刊

(*2)読売新聞「閣僚交代また後手」2022年11月12日

(*3)読売新聞「閣僚交代また後手」

(*4)東京新聞「こちら特報部」2022年11月11日付朝刊

(*5)東京新聞

(*6)小嶋麻友美「秋葉原殺傷 加藤元死刑囚 法相命令 執行4日前」東京新聞、2022年11月12日付朝刊

(*7)小嶋麻友美、2022年11月12日

(*8)小嶋麻友美、2022年11月12日

(*9)「108カ国が廃止した死刑をなぜ日本は続けるのか? 『世界死刑廃止デー』に刑罰の本質から考える」東京新聞 2022年10月10日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年11月19日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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