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習近平がバイデンから得た大戦果とは?ロシア一人負けの米中融和劇

新体制がスタートした習近平政権は精力的に外交を展開。「習近平は大喜び。新体制の中国を独ショルツ首相がいち早く訪問したワケ」で伝えた独中首脳会談に続き、G20バリ・サミットで3年ぶりに対面での米中首脳会談が実現しました。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、立て続けの外交で中国が手にした「武器」について言及。核の使用や核による威嚇に懸念を示す「ロシア牽制」を交渉材料に、米中協力の重要性を意識させることに成功し、中国が大きな成果をあげたと伝えています。

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米中首脳会談とG20、APECで中国が手にした確信

すでに書いてきたように中国の新たな指導部の顔ぶれが出そろって以降、習近平外交が猛烈な勢いで展開されている。内政を固めて外に出るというわけでもないのだろうが、これまで内部に向けざるを得なかったエネルギーが、やっと外に向けて放たれる環境が整ったのだろう。

その最初の山場がドイツのオラフ・ショルツ首相の訪中だったことはメルマガ第42回でも触れた。ショルツから「ドイツは貿易の自由化と経済のグローバル化を支持し、デカップリングに反対」、「世界には多極化の枠組みが必要で、新興国の役割と影響は重視するに値する。ドイツは陣営を組み対立ことに反対。政治家はそのために責任を果たすべきである」という言葉を引き出した成果は大きかった。中国はこれと引き換えに、ロシアが核兵器の使用をちらつかせたことをけん制する言葉を発したとされる。

中国共産党第20回全国代表大会(以下、20大)が閉幕してから、ベトナムの書記長の訪問、パキスタン、タンザニアとの首脳会談をこなした後に迎えたドイツ首脳との会談だった。渋滞していた流れが一気に動き出したような印象さえ受けるが、さらに先週はインドネシアのインドネシアのG20バリ・サミットとタイのバンコクで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議へという流れが続いた。

インドネシアでは世界の注目を集めたアメリカのジョー・バイデン大統領との会談も実現した。おそらく20大は、この日程を考慮した上で決められていたのだろう。一連の流れを見ていて思うのは、中国は「ロシアがウクライナで核兵器を使用、または使用をちらつかせて威嚇することに」懸念を示すことで、西側から何かを引き出すというドイツパターンを繰り返したということだ。

アメリカとの会談は、それ自体は中国にとってほぼ満点といえる内容だった。中国中央テレビ(CCTV)は、笑いながら習近平に走り寄るバイデンの様子から会談を伝え、『環球時報』はこの会談がアメリカからの要請であったことや場所が中国側が宿泊するホテルであったこと、遅刻が常習のバイデンがほぼ時間通りに到着したことなどを「中国重視」として強調した。

米中会談の評価はドイツのケースにも重なり、ウクライナでロシアが核を使用することに対する中国の懸念と米中の協力姿勢が交換されたようにも見えた。

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ただこの会談で注目すべきは、米中双方が「大国としての役割」を意識させたことだ。米中の協力が国際社会の利益でもあるという視点が各所にちりばめられていたのだ。これは中国側が繰り返してきた「対立よりも大局を」という呼びかけに、ある程度アメリカも応えたと理解できる。CCTVが報じた習近平の言葉から、その部分を引いてみよう。

「世界はいま大きな歴史の転換点にあり、各国はかつて経験したことのないチャレンジとチャンスに直面している。両国はこの観点に立って中米関係を処理しなくてはならない。中米関係はどちらが勝ち、どちらが負けるというゼロサム思考ではいけない。中米はともに成功することが互いにとってチャンスでありチャレンジである。広い地球は中米それぞれの発展と繁栄を受け入れてくれる。両国は相手国の政策と戦略的意図を正しくとらえ、対抗ではなく対話を、そしてゼロサムではなくウインウインの構図を基調とすべきである」

これに対してバイデンは、「大国のリーダとして、われわれは責任を共有している。中国とアメリカは互いに相違点を管理できることを示し、競争が衝突に至らないようにしなければならない。世界の差し迫った課題に共に取り組んでゆくためにも互いに協力しなければならない。これは両国と国際社会のために非常に重要なことだ」(シンガポールCNA)と答えている。

習近平は、さらに「良き政治家はどのように国を率いてゆくべきかを考えるとともに、他国とそして世界とうまくやってゆく方法を考える必要がある」(シンガポールCNA)とも付け加えている。

中国側が長文で会談の中身を報じたのに対してアメリカ側の発表はそっけないものだったが、そのことも会談の成果が中国側に大きかったことを示している。世界のメディアも概ねそうしたとらえ方をしたのではないだろうか。

例えば、インドのNDTVは、「3年ぶり米中首脳会談でバイデン大統領と習近平国家主席はウクライナに対し核兵器を使用しないよう足並みをそろえてロシアに警告しました。長時間に及んだこの首脳会談では、両国の緊張関係を衝突に発展させてはならないという認識で一致しました」と伝えている。またシンガポールCNAは頭で「両首脳は相違点をうまく管理し衝突を回避することが大切だと述べました」と報じている。

ドイツZDFにいたっては、「両大国は経済面と軍事面でライバルであり関係は損なわれています。しかし会談では予想を超える歩み寄りもありました」と、会談の成果の大きさに焦点を当てたのである。

もちろん、会談が和やかに終わったからといって米中の対立が一気に解消されるわけではない。両国はすでに構造的にも対立が避けられないライバル関係にあり、米議会は対中強硬姿勢で一致し、世論もそれを後押ししているのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年11月20日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: SPhotograph / shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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