11月22日、岸田首相に防衛費増額に関する報告書を提出した「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」。しかしその中には、当初議論されていた「法人税引き上げ」は盛り込まれていませんでした。一体その裏にはどのような力が働いたのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、報告書から法人税アップの文言が削除された理由を解説。さらに当有識者会議の「人選の問題点」を指摘しています。
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
防衛費増額 有識者会議にメディア関係者 法人税増税盛り込まず 自民党とマスコミ
“案の定”というべきか、サッカーW杯カタール大会のお祭り騒ぎの裏で、今後の日本の行く末を占う、重要な決定が、マスメディア(カスメディア)の監視の網の目を潜り、密かになされようとしている。
岸田首相は、防衛費の増額を閣僚に正式に指示、年末に向け、動きが本格化する見通し。首相が明示したのは、2027年度にGDP(国内総生産)比で2%確保というもの。具体的には、5兆円規模となる見込み。
ただ、新たな財源が焦点となり、自民党の国防族は、増税阻止の構えで、財務省をけん制している(*1)。
政府が防衛費を増額させる背景には、東アジアをめぐる地政学的リスクというよりも、現代の産業、とりわけIT技術と軍需産業とが密接な関係にあり、それが国力に“直結”するからだ
アメリカのシリコンバレーもそもそもは、第二次世界大戦前の軍需産業のメッカであった。
近年、発展が目覚ましいイスラエルも、厳しいパレスチナ紛争との関連でIT産業が栄えた。ロシアに侵攻されたウクライナも「東欧のシリコンバレー」と呼ばれる。
日本の“ものづくり”産業さえ例外ではなく、すぐにでも軍用可能なものは大量に存在。今後、ITと軍需産業とを巻き込み、「経済再興」という施策は、いかにもな官僚的野心(作文)だろう。
目次
- 有識者会議にマスコミ関係者
- 法人税増税盛り込まず
- 自民党とマスコミ 「鉄の三角形」
有識者会議にマスコミ関係者
しかしだ。岸田首相に防衛費増額に関する報告書を提出した「政府有識者会議」のメンバーには、“なぜか”、「権力を監視すべし」とメディアについての教科書に記載があるマスコミ関係者が含まれている。
さずが、日本の“有識者”と称される人物は一味も二味も違う。
有識者会議の構成員
- 上山隆太(総合科学技術・イノベーション会議議員)
- 翁百合(日本総合研究所理事長)
- 喜多恒雄(日本経済新聞社顧問)
- 国部毅(三井住友ファイナンシャルグループ会長)
- 黒江哲郎(元防衛次官)
- 佐々江賢一郎(元外務次官)・座長
- 中西寛(京大院教授)
- 橋本和仁(科学技術振興機構理事長)
- 船橋洋一(国際文化会館グローバル・カウンシルチェアマン)
- 山口寿一(読売新聞グループ本社会長) (*2)
山口寿一氏は、読売新聞グループの本社社長兼日本テレビホールディングス取締役会議長。
喜多恒雄氏は、昨年まで日経新聞の代表取締役会長を務め、現在は同社の顧問。船橋洋一氏も、2010年まで朝日新聞社で主筆を務めていた(*3)。
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
法人税増税盛り込まず
来年度から5年間で防衛費の総額を43兆~45兆円とする方針決定のさなか与党が、防衛費の財源として所得税などの増税を視野に入れているとの方針の一方で、当初議論されていた「法人税アップ」のほうは、経済界の圧力により削除されていた(*4)。
事実、経団連の十倉雅和会長は10月17日におこなった記者会見で、防衛費の増額の財源として法人税の引き上げが検討されていることについて
「法人税がひとり歩きするのはいかがなものか。長期にわたって広く集める、安定的財源が必要だ」(*5)
とし、
「消費税に(低所得層ほど負担感が重くなる)逆進性があるのは理解しているが、防衛計画の質と合わせ幅広い議論をしてほしい(*6)
と発言。11月21日の定例会見でも
「薄く広く国民、社会全体で負担するのが適切だ」(*7)
と述べ、法人税の引き上げに反発するだけではなく消費税を財源にすべきという見解まで示していた。
1989年に消費税が導入されて以降、消費税の総額は476兆円にのぼる一方、法人税は324兆円も減収(*8)。
とくに安倍政権下では、アベノミクスのもと、法人税を3回にわたって引き下げ、法人実効税率は安倍政権発足時の37%から29.74%まで減少した。
国民の声は無視し、経済界(マスゴミ含む)の声だけ聞くのが、岸田首相のようだ。
自民党とマスコミ 「鉄の三角形」
政治学者・中野晃一氏は、昨年3月25日付の「ニューヨーク・タイムズ」紙に、「オリンピックは開催させる。でもなぜ?(The Olympics Are On! But Why?)」という記事を寄稿。その中で、
「菅(前首相)氏は、メディアをしっかりと把握しているおかげもあり、安倍氏の執行長官だった。彼は、第1次安倍政権(2006-07年)では総務大臣、第2次安倍政権(2012-20年)では内閣官房長官を歴任した。第2次の任期中に、国境なき記者団の世界の報道自由度ランキングで、日本のランキングは22位から66位に低下した」
「菅氏は、自民党、総務省、メディア業界という、日本政治の鉄の三角形の中で、支配的な人物である。
(オリンピックの)国内スポンサーの中には、日本の全国紙5社が含まれている。朝日、読売、毎日、日経、産経だ。これらの新聞社は、直接あるいは子会社を通じて、独自の提携放送局を持っている。これらの放送局は総務省の監督下にあり、ゴールデンタイムの広告枠の販売は電通に依存している。」(*9)
とし、メディアと電通、自民党政治の在り方を、「鉄の三角形」と表現する。
■引用・参考文献
(*1)西日本新聞「GDP比2% 攻防本格化」2022年11月30日朝刊
(*2)日本経済新聞「防衛力強化 財源調整急ぐ」2022年11月22日付朝刊
(*3)「防衛費増額の財源で『法人税』を削除し『国民全体の負担』だけにした政府有識者会議は読売社長、日経元会長、朝日元主筆がメンバー」LITERA 2022年11月25日
(*4)LITERA 2022年11月25日
(*5)LITERA 2022年11月25日
(*6)LITERA 2022年11月25日
(*7)LITERA 2022年11月25日
(*8)しんぶん赤旗 2022年6月24日付
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年12月4日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
この記事の著者・伊東森さんのメルマガ
image by: 首相官邸