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Men's casual outfits on wooden table over wall grunge background

なぜ、日本人は「ノーネクタイ」という“暴挙”を定着させてしまったのか

ノーネクタイが定着しはじめ、スーツを着用しているのにネクタイを外しているビジネスマンも多く見られるようになりました。しかし、メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、それは「暴挙である」として、ファッションのドレスアップとドレスダウンについて語っています。

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いきなりスーツのネクタイを外すという暴挙。ドレスアップとドレスダウン

1.スーツのドレスダウン

カジュアルフライデー、クールビズ、ウォームビズとスーツのカジュアル化が進む中でノーネクタイが定着した。しかし、レジメンタルのネクタイをしていた人がいきなりノーネクタイになるのはいかがなものだろうか。

そもそも、ネクタイをすることが前提のスーツ単純にネクタイを外したら、Vゾーンが間の抜けた印象になってしまう。

ノーネクタイにする前に、上下共生地のスーツから上下が異なる素材の「ジャケット+パンツ」にする方が先だろう。「ジャケット+パンツ」のスタイルでネクタイを締める。次に、ネクタイを外すというステップが必要だ。いきなりスーツのネクタイを外すというのは、暴挙である。

ジャケット+パンツにする場合、ジャケットの素材を少しだけカジュアルなものに変える必要がある。秋冬ならジャケット素材を梳毛ウールから紡毛素材に換える、春夏なら、素材を綿や麻に換える、等々。

その上で、ノータイでもバランスが悪くならないようなシャツとのコーディネートを考える。

例えば、白ワイシャツをカラーシャツ、ストライプやチェックのシャツに換える。あるいは、ボタンダウンに換えることで、ネクタイを取る準備が完了する。

シャツは細番手の糸使いの白無地が最もフォーマル。素材は糸が太くなるにつれ、カジュアル度が増してくる。ネクタンを取るなら、シャツの素材はカジュアルにしておくのが基本だ。

ネクタイもレジメンタルからプリントに、あるいは、ニットタイに換えることでドレスダウンができる。

布帛(織物)よりニット素材の方がカジュアルなので、布帛シャツよりポロシャツはカジュアル、つまりドレスダウンになる。

ポロシャツでも細番手の艶のある綿のカノコ編みにニットタイや蝶タイを合わせれば、普通のポロシャツよりドレスアップできる。

同じコットンのジャケットでも、生地の艶や組織によって、きれいなコットンからラフなコットンまでと幅広いバリエーションがある。素材にも、ドレスアップ素材とドレスダウン素材があり、デザインや縫製にもドレスアップとドレスダウンがある。

このようにネクタイの有無ではなく、ドレスアップのスーツから、どのような順でドレスダウンしていくかを考え、どの程度のカジュアルまで許されるのかを設定しなければならない。

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2.ジーンズカジュアルのドレスアップ

次にカジュアルからドレスアップしてみよう。

最もカジュアルな服装は、Tシャツとジーンズだろう。

同じジーンズでも、新品の方が古着よりもドレスアップである。新品でもダメージが多いほどカジュアルになり、色の濃いものよりブリーチしたものはカジュアルとなる。

Tシャツも同様だ。真新しいもので細番手の艶のある糸使い、体に適度にフィットした無地のものはTシャツの中でもドレスアップしたもの。プリントTシャツもシックな色使い、柄使いはドレスアップとなる。簡単にいえば、きれい目に見えるものほどドレスアップだ。

ジーンズは労働着に由来しており、最もカジュアルなアイテム。保守的なホテルやレストランではジーンズ不可というところもある。

しかし、チノパンツならほぼ大丈夫だ。同じチノでも、シワになるものより、防シワ加工でセンターラインが消えないパンツの方がドレスアップであり、ドレスアップチノ等と呼ばれることもある。

しかし、これらはあくまで原則に過ぎない。最終的には見る人の印象で決まる。ダンガリーのシャツとポロシャツを比較する場合、糸や生地のグレード、ボタンのグレード等により、ダンガリーシャツがよりドレスアップになることもあるし、その反対の場合もある。基準はあくまで相対的なものだ。

もう一つ重要なことは、着用している人間である。人間のマナーや言葉づかい、仕種によって、エレガントにも見えるし、カジュアルにも見える。人に与える印象は「人+服」で決まるのである。

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3.テーラードジャケットはフォーマル

スーツとは、上下同じ素材で作られたものを指す。紳士服ではスーツといえば、テーラードスーツだが、婦人服ではブラウススーツ、ニットスーツもある。上下を同じ素材で揃えることは、異なる素材よりドレスアップに見える。

紳士服のスーツは一般的に布帛(織物)の生地で作られるが、最近ジャージー素材で作られたテーラードスーツ「パジャマスーツ」が話題になった。これは、素材をカジュアルなものに変えたことで、スーツそのものをドレスダウンしたものだ。

リモートワークが増え、「楽に着られるジャージ素材のスーツがヒットした」と言われているが、リモートワークでは上半身しか映らないのだから、本来ならジャケットを着れば良いだけの話だ。スーツを買い換えるのではなく、ジャケットを買えばいい。しかし、多くのビジネスマンはビジネス用のスーツしか持っていないし、カジュアルなジャケットをどのように買っていいのか分からない。パジャマスーツとして販売したことで、安心してドレスダウンしたジャケットを購入できたのである。

パジャマスーツを経験した人は、次第に多様な素材のジャケットも着用できるようになるだろう。そこで初めて「ジャケット+パンツ」のビジネスカジュアルが定着するかもしれない。

そもそも、世界的な常識としては、テーラードジャケットを着用すれば、ほとんどの場所に入ることができる。つまり、実質的にはテーラードジャケットがォーマルウェアなのだ。

4.ドレスアップのデニム

和装業界では「デニムきもの」がヒットしている。きものといえば「高価で着にくく手入れが大変」というイメージがあるが、デニムなら洗えるし、気軽に着ることができる。

きものは民族衣装であり、洋装の世界ではフォーマルウェアとして扱われる。浴衣は、きものの世界では正式な場では着られない普段着だが、海外に行けばオペラ座に浴衣で行っても失礼ではない。民族衣装だからだ(でも、日本人同士で顰蹙を買うだろうが)。

そう考えると、「デニムきもの」というアイテムは非常に面白い。それを洋服の分野で再現するとどうなるのだろう。

例えば、デニムのタキシードを作る。もちろん、デニムも超長綿の糸を使ったり、シルケット加工(苛性ソーダに浸して光沢を出す)するなどして、艶のあるきれいな表面にするのが望ましい。しかし、通常のデニムでも、例えば毛焼きして、カレンダー加工(ロールによるつや出し)するだけでもかなりフォーマル感は出るはずだ。あるいは、生地の組織を綾織りではなく、サテンにするという方法もある。白いヨコ糸が見えなくなり、より無地に近づき、光沢も出るのでドレスアップした印象になるのだ。

デニムパンツもスラックス仕立てにして、サテンテープを側章に付ければ本格的だ。

同様に、デニムで普通のテーラードスーツに仕立てても良い。この場合、デニムの裏側にプリントをしたり、縫い代のパイピング始末を配色するなどの装飾があると、カジュアル過ぎず、ドレスアップした印象を与えることができる。

このように、ドレスアップとドレスダウンという発想に立つと、様々な新商品の企画が浮かんでくる。メンズファッションの活性化には、フォーマルかカジュアルかの二択ではなく、多様な選択肢を用意することが求められている。

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編集後記「締めの都々逸」

「かちっと作るか ゆるりと外すか 粋と野暮とのさじ加減」

日本のメンズファッションの歴史を振り返ると、まずヨーロッパのテーラーの技術が輸入され、技能五輪で優勝するほどの技術を習得したが、既製服に押され、テーラーは淘汰された。イタリアではテーラーの技術者が既製服業界に入って行ったが、日本では両者は融合しなかった。

その後、VANがアメリカントラディッショナルを基本とするアイビーを提唱し、既製服としてのメンズファッションの魅力を定着させた。

アンチVANとしてビームス、シップスが出てきて、その後のプレッピー、渋カジ、セレクトショップへと発展していった。

もう一つの流れとして、メンズDCブランドが登場し、ルールで固まったトラディッショナルを嫌い、現代的で日本的なメンズファッションを作り上げた。この頃が日本のメンズファッションのピークだったかもしれない。

そこから、バブル崩壊と激安ブーム、コスパ優先の風潮が続き、中国生産がメインになった。国内のテキスタイルメーカーも国内のアパレルも淘汰され、コスパのスーツとコスパのカジュアルが全盛となった。(←今ココ)

でも、コスパ優先の中国生産も危機を迎えている。今後のことを考えると、再度基本に立ち返って考える必要があるな、と感じた次第です。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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