MAG2 NEWS MENU

言い値で武器買う“飼い犬”にご褒美。バイデンが岸田首相を大歓迎した裏事情

首相として初となる訪米でバイデン政権から予想を上回る歓待を受け、上機嫌で帰国した岸田文雄氏。なぜ米政府は岸田首相に対してここまでの厚遇ぶりを見せたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、そのもっともすぎる理由を端的に解説。さらにやみくもに米国の軍事戦略に追従する危険性を訴えるとともに、そのような日本政府の姿勢に対して批判的な見解を記しています。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

バイデン政権が岸田首相を厚遇した本当の理由

「朝食会も含め、バイデン政権は首相を非常に歓迎し厚遇いただいた」

防衛費倍増のお土産をたずさえ、意気揚々とワシントンを訪れた岸田首相。同行した木原誠二官房副長官は記者団にそう語った。

バイデン大統領がわざわざホワイトウスの南正面玄関まで他国の首脳を出迎えてくれるというのは「極めてまれだ」と木原氏は言う。バイデン氏は岸田氏の肩に手をまわし、にこやかな笑顔を浮かべてローズガーデン沿いの廊下を歩いた。

日本国内では、やることなすこと批判され、ついには無策だ、無能だとレッテルをはられるにいたった岸田首相だが、バイデン大統領と握手するその顔はいかにも晴れがましい。

5月19日から21日まで広島で開かれる「G7サミット」の議長をつとめるためのプロローグとして、フランス、イタリア、英国、カナダと続いた花道から本舞台のワシントンにやってきたのだ。

内閣支持率の下落に悩みながらも長期政権を貪欲に狙う岸田首相にとって、来年秋の自民党総裁選は最大の関門である。その意味で間違いなく、これからG7サミットまでの約5か月が岸田政権の正念場となる。

通常国会を無難にこなし、サミットを成功させて、内閣支持率が上向きになったタイミングで衆議院を解散し、総選挙に勝利すれば、国民の信任を得たとして「岸田おろし」の動きを抑えることができる。そう希望的算段をしているはずだ。

トランプ前大統領に対する安倍元首相のように、昨今、米大統領の気に入られるのが外交的成果だとする風潮が日本にはある。バイデン大統領はそれを承知のうえ、岸田首相のイメージアップに協力している。それというのも、岸田首相がバイデン政権の要求を忠実に守ろうとしている点を、高く評価しているからであろう。

昨年5月にバイデン大統領が来日したさい、岸田首相は防衛費の「相当な増額」を確保することを約束した。そして、それを履行するため12月には国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定、相手のミサイル発射拠点などを直接攻撃できる「敵基地攻撃能力」(反撃能力)を保有することにし、23年度から5年間の防衛費を、これまでの1.5倍の約43兆円へと増額した。27年度にはGDPの2%に防衛予算が膨らむことになる。

この決定に米側は沸き立った。バイデン大統領はもちろん、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官、サリバン大統領補佐官から手放しでほめたたえる声明が出された。

バイデン政権には、政治的にリベラルだが外交・防衛面ではタカ派で、軍需産業とも深い繋がりを持つ、いわゆる“リベラルホーク”が多い。ブリンケン国務長官、ビクトリア・ヌーランド国務次官、サマンサ・パワー国際開発庁長官がその代表格だ。オースティン国防長官は前職が巨大軍需企業レイセオン・テクノロジーズの取締役である。米軍産複合体の利益が彼らの政治判断と不可分に結びついているのだ。

彼らが望むからといって、日本が予算を倍増させて防衛力もそれに比例するかといえば、甚だ疑問である。たとえば「5年間43兆円」は米側の要求をかなえたイメージをつくるための「規模ありき」の数字であって、必要な装備などを積み上げたものではない。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

それでも一応は、43兆円の内訳というものがあるらしい。東京新聞の記事によると、自衛隊員の給与や食費など「人件・糧食費」11兆円、新たなローン契約額のうち27年度までの支払額27兆円、22年度までに契約したローンの残額5兆円だという。ローンとは「後年度負担」と呼ばれる分割払いであり、1年では賄えない高額な装備品や大型公共事業に適用される。

安倍政権はこのローンの仕組みとアメリカ国防総省が行っている対外軍事援助プログラム「FMS」を使って、米国製兵器の購入を拡大した。グローバルホークやオスプレイ、イージス・アショア、戦闘機(F-35A)などがそうだ。

だが「FMS」は、メーカーではなく米政府を窓口として兵器を調達するシステムだ。対価は前払いに限られ、納期が年単位で遅れることや、支払い時には当初の見積りより価格が高騰することもざらにある。つまり米側の「言い値」と「条件」に従わなければならないのだ。

イージス・アショアの場合、2020年6月15日、河野太郎防衛相(当時)が導入計画の停止を発表したが、その代わりにイージス・システム搭載艦の採用を迫られ、その後もイージス・アショアのレーダー取得費として277億円を支払っている。

新たなローン契約額とされる27兆円のなかには、2027年度までをメドに最大500発の購入を検討しているとされる巡航ミサイル「トマホーク」も含まれるのだろうが、なぜ40年前に開発された旧式の兵器を導入するのかが明確ではない。目標までの射程は十分でも、速度が弾道ミサイルよりも遅いために、打ち落とされる可能性が高いといわれている。

しかも、日本がトマホークを使おうと思っても、米国の了解を得て、高度な情報の提供を受けねばならず、良し悪しは別として、あくまでも米国のコントロールのもとに置かれる。

「FMS」は米軍産複合体にとって、莫大な利益を生み出す仕組みである。バイデン政権の高官たちが、FMSで兵器を大量購入することを決めた岸田首相の訪米をこぞって歓迎するのは、実に素直な反応といえるだろう。

いうまでもなく、第2次安倍政権以来の“軍拡路線”は、米国政府の意向に沿ったものだ。憲法解釈を変更してまで集団的自衛権の行使を容認し、米国とともに戦うことのできる国をめざしてきた。しかしそこには、日本が危機に瀕した場合、米国は本当に守ってくれるのかという不安がつきまとっている。

だからこそ安倍晋三氏は総理在任中、米国が攻撃されたときに自衛隊が血を流す間柄になってこそ、米国も本気で日本の防衛にあたってくれるという趣旨の発言を繰り返してきたのだ。

岸田首相は安倍政権で5年近く外務大臣をつとめたこともあり、米国との無難な付き合い方を身につけているのかもしれない。つまり、米国を怒らせては政権は長続きしないという悲痛な戦後史を知悉しているのではないか。

古くは田中角栄元首相の例がある。米国の了解を得ずに日中国交正常化をなしとげ、アラブ寄りの資源外交を進めようとしたためにニクソン大統領やキッシンジャー大統領補佐官の怒りを買い、「キッシンジャー意見書」などの米側資料が東京地検の手に渡った。それがロッキード事件の引き金になり、田中氏は逮捕された。

2009年に誕生した民主党政権で首相の座に就いた鳩山由紀夫氏は米軍普天間基地の県外移設を打ち出したために、外務・防衛官僚から総スカンを食い、1年ももたずに退陣した。

日本の官僚と在日米軍幹部との協議機関「日米合同委員会」が米国側の意向を押しつける装置になっていることを鳩山首相は気づかなかった。この会議においては、日本の憲法や法律より日米安保条約が上位にある。

「砂川裁判」の最高裁判決(1959年)以来、日米安保にかかわる問題なら、たとえ憲法に反する場合でも、最高裁は違憲判決を下さないということが定着したが、それも日本の官僚が米国の言いなりになることを保身の道と考えるきっかけになった。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

安倍晋三氏は野党時代に、外務・防衛官僚の組織的サボタージュで身動きがとれない鳩山政権の姿を見て、米国に取り入ることこそが政権維持のカギだと確信を深め、ジャパンハンドラーといわれる知日派米国人やトランプ前大統領らとの蜜月関係を築いていったと思われる。

そして今、米国における安倍氏の地位を継ぐべく岸田首相がワシントンに詣でて、43兆円の朝貢外交におよんだのである。それに対するバイデン大統領の“返礼”は、この言葉だった。

「米国は日本の防衛に完全かつ徹底的にコミットしている」

これさえ言えば、日本の首相は魔法にかかったように納得することを米側は心得ている。

国会で審議もせずに防衛政策の大転換方針を決め、すぐさまワシントンに飛んで米大統領から「よくやった」とばかりに歓待を受け、成功、成功と手を叩いて帰ってくる。日本国内では「岸田という『あまり頼りない』と言われた人の下で1年半、間違いなく日本は世界の中で、その地位を高めつつある」と惚けたことを言う麻生自民党副総裁のような人が待ち受ける。これで本当に日本の安全が保たれると自信を持って言えるのだろうか。

もとより良好な日米関係は日本外交の基本である。その首脳会談について中国政府は「茶番だ」と罵るが、事実より政治宣伝が優先される国に言われる筋合いはない。しかし、やみくもに米国の軍事戦略に追従し、中国との敵対関係を強めた挙句、米国に梯子を外されるようなことになったら、どうするつもりなのか。

ロシアのウクライナに対する非人道的な振る舞いを見て、中国や北朝鮮への恐怖がつのる心情は誰しも同じだ。世論調査で防衛力強化に賛成する人が半数近くを占めるのはそのために違いない。だが、軍拡競争の先には徴兵制の復活もありうるだろう。いざ有事となれば、高みの見物ではすまない。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

image by: 首相官邸

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け