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ダボス会議で明らかになった中国「南シナ海の対立」が消えつつある現実

1月20日に閉幕した世界経済フォーラム(WEF)の年次総会「ダボス会議」では、アメリカが進める対中政策に対してアジア・欧州からの異論が目立ったようです。要人たちの注目発言を紐解くのは、メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』著者で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。フィリピンのマルコス大統領が発した南シナ海の問題でアメリカを排除するような重要発言や、保護主義的な政策や中国とのデカップリングを求めるアメリカの姿勢に不満を表明する欧州首脳の言葉をあげ、各国が再び中国へと近づいきそうな潮目の変化を伝えています。

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ダボス会議で明らかになった欧州・アジアとアメリカの対中政策の違い

毎年1月、スイスのダボスで開かれる世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議=本部ジュネーブ)が20日、5日間の会期を終えて閉幕した。総会のテーマは、「分断された世界における協力の姿」だったが、多くのメディアが指摘しているように目立ったのは「分断」だった。その中心にあるのはアメリカだ。

そのダボス会議で、日本のメディアではほぼ無視されてしまったが、重要な発言があった。フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領の南シナ海に関する発言だ。

フィリピンはベトナムと並び南シナ海で中国と紛争を抱える当事国だ。だがマルコスは、中国との間に様々な問題があるとは認めつつも、「南シナ海の未来はこの地域の国々によって決められるべきであって、外部の勢力によって決めてはならない」(18日)ときっぱりと言い切ったのだ。

外部勢力とは言うまでもなくアメリカのことだ。つまり中国とわれわれで解決するとの宣言だ。発言はこれに止まらない。「外部勢力の介入によって、この地域の情勢はより複雑になった」と米軍の航行の自由に絡む行動をけん制。続けて「軍事手段は南シナ海の問題を解決する手段ではない」と語り、その点ではASEAN(東南アジア諸国連合)のリーダーの意見も一致している」と断じたのである。

当事国の反応がこうであれば、「力による現状変更」として中国を批判するアメリカ対中批判は根拠を失ってしまう。昨今の中越関係を考えれば、アメリカが利用できる対立は南シナ海から消えつつある──両国の対中世論は依然として厳しいが──と言えるのかもしれない。

中国とASEANとの対立を鮮明にすることで、アジアの人々に中国への警戒感と嫌悪を植え付け、影響力を削ぐ。そんなアメリカの目論見にも陰りが及び始めたようだ。ASEANのリーダーたちがそうした選択をする背景には、米中対立でアメリカに加担しても地域や自国の利益には結びつかないという見極めがあったと考えられる。

同じことは、近頃の米欧関係にも当てはめられるようだ。ロシアのウクライナ侵攻から強い団結力を見せていた米欧だが、ここにきて欧州側からアメリカに対する不信の声が相次ぐようになったからだ。

不満のポイントは主に2つだ。1つは、バイデン政権が昨年8月に成立させた4300億ドル規模の「インフレ抑制法案」である。気候変動対策に加え、薬価引き下げや一部の法人税引き上げ、そして国内に拠点を構えた企業に対し補助金を出すといった項目が並ぶ。

法案のなかでも米欧間の摩擦となったのは北米産の電気自動車(EV)を税制で優遇する保護主義的な政策だ。グローバル化の旗振り役だったはずの米国が自国優先に転じ、露骨な保護主義へと向かっているのではないかと、EU(欧州連合)側が不満を爆発させたのだ。

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欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、17日の講演で、「欧州の産業の力を維持するため、EU域外で得られる支援や奨励金と競争する必要がある」と対抗策を打ち出すことをにじませた。

インフレ抑制法については、フランスのエマニュエル・マクロン大統領も度々不満を口にしてきた。昨年11月30日の訪米時には、米連邦議会議員や財界関係者に招待された昼食会で、アメリカ政府の産業補助金は競合するフランスの企業に対して「極めて攻撃的だ」という批判も展開したほどだ。

そして、2つ目のポイントは、米中競争をアメリカが有利に進めるために欧州を巻き込み、中国とのデカップリングを求めていることに対する不満だ。マクロンは、ダボス会議中に受けたインタビューで「欧州はアメリカや中国のどちらかに従属する必要はない」(『環球時報』2023年1月20日)と、アメリカか中国かを選べと迫るアメリカへの不満を露わにした。

また、同じくフランスのブリュノ・ル・メール経済・財務大臣も、「アメリカは中国に反対することを求めるが、われわれはむしろ中国と関わってゆきたい」(『環球時報』2023年1月20日)と発言している。

コロナ禍や米中対立を背景に、欧州における対中感情は悪化したままだ。またロシアを警戒する国々のトップの間にも、中国を警戒する傾向は顕著だ。しかし、ドイツ、フランス、イタリアなどの有力国のトップは、中国と関係を切り離すことの非現実性を認識している。昨年11月のドイツのオラフ・ショルツ首相の訪中は、その典型的な行動だ。

半導体の輸出を制限することで中国の先端技術をコントロールしたいアメリカから協力を求められるオランダも、惑いを隠さない。バイデン政権が同盟国・友好国に求める中国とのデカップリングは、実現すれば中国には一定のダメージを与えることになる。だが、その一方で同盟国・友好国側もその返り血で大きく疲弊することは火を見るより明らかだからだ。

現在のインフレは、切っ掛けこそコロナ禍だと考えられるが、まさにそうした関係性を顕在化させた典型例だ。そしてロシアのウクライナ侵攻後の対ロ制裁によるエネルギー・食糧不足は、さらに世界のインフレを加速させてしまったのだ。この上、さらにインフレ加速させるようなデカップリングに、なぜ突き進まなければならないのか。EUがそう考えるのは、ごく自然なことだろう。

そうしたなか、中国は明らかに対米関係の修復のシグナルを発し始めた。誤解のないように書いておけば、そもそも中国は現段階でアメリカと対抗しようなどと考えたことはなく、この選択はあくまでマイナーチェンジであり──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年1月29日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Boris-B/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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