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「ノルドストリーム破壊に米関与」報道を無視して気球で騒ぐ日本メディアの害悪ぶり

2月上旬の国際ニュースで、トルコ・シリア大地震とウクライナ戦争以外で日本メディアが挙って報道したのは、中国のものとされる気球の話題でした。世界で注目された伝説のアメリカ人ジャーナリストによる「ノルドストリーム破壊に米国関与」の調査報道は無視。こうしたメディアによる“切り捨て御免”が横行することを問題視するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、パイプラインを破壊したのが本当に米国なら、「そこまでする国」としてアジアの問題を考え直す必要があると、このニュースの重要度を伝えています。

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ノルドストリーム破壊の調査報道を無視して中国気球で1週間大騒ぎした日本の報道で何が分かったのか

今週、日本の中国関連の報道は気球の話題でもちきりだった。国際ニュースの衝撃度という意味では、間違いなく「ノルドストリーム海底パイプラインを破壊したのはアメリカ」の方が勝っているはずだ。しかし日本は、例によってアメリカに不利なニュースだからか、ほぼ完全にスルーしてしまったようだ。

英語で検索するとインドからフィリピンまで、とりあえず報道はされているようなのだが。日本のメディアが信用できない特徴の一つだ。まだ確定的な話ではないとか、言い分はいろいろあるのだろうが、もし破壊をした疑惑の主がアメリカではなく中国だったら、どうだろうか。確たる証拠などなくとも凄まじい勢いで報じたのではないだろうか。

前例なら、ここ数年だけでも枚挙にいとまがないほどある。ファーウェイのバックドア疑惑や新型コロナウイルスの武漢ウイルス研究所流出説。1年前には、「中国がロシアに軍事支援」とか、「ウクライナ侵攻を事前に知らされていた中国が、プーチンに延期を打診」とか、疑惑ですらないのに大々的に報じられてきた。その後、こうした報道はどこに決着したのだろうか。証拠が示されたなど寡聞である。

もちろん公平に見れば、中国のメディアが西側の基準から遅れていることも、自由度の低さなど大きな問題も抱えている。しかし、日本にはそれとは別種の問題がある。無自覚なのか、数字を追いかけた結果なのか、切り捨て御免が横行する。しかも、癖が悪いことに受け手にメディアリテラシーが薄いため、まともに影響を受けるのだ。

今回、ノルドストリームの破壊問題を報じたのは、ロシア発メディアではない。アメリカのスクープ(?)である。それも数々の実績を誇るニューヨークタイムズの伝説の記者、シーモア・ハーシュ氏だ。無視して良い話ではない。

日本でも外国語の発信にアクセスできる一部から、「これが本当なら恐ろしい」といった反応が出ていた。しかし、本当に恐ろしいのは工作そのものではない。仮にアメリカの仕業だと判明しても、アメリカを罰する術がない、という冷酷な現実を突きつけられることではないだろうか。

ノルドストリームはずっとアメリカにとっての目の上のたん瘤であり続けた。ドナルド・トランプ大統領は訪欧の度に、ドイツに中止を求め、圧力をかけてきた、またウクライナ侵攻後にロシアからヨーロッパへの天然ガス供給が滞り、それで利益を得たのはアメリカだった。つまり破壊工作をする動機は多々見つかるのだ。しかし、やはりそれでも世界は「そこまではしないだろう」と信じてきたのだ。もし、「そこまでやる」のなら、世界の秩序は大きく後退するだろう。

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考えなければならないのは、「そこまでする」国がアジアで何をやるのか、である。当然、米中の争いが深刻なレベルに達し、アメリカが手段を選ぶ余裕を失ったときの選択肢のことだ。中国とアジアの関係を断つために何をするのか。日本や台湾を捨て駒とすることなど朝飯前ではないだろうか。

この話題に比べたら、1週間のんびりとアメリカ大陸を横断した気球の話に拘泥する日本は、どうなのだろうか。この話にスパイ合戦という裏があったとして、どちらかが正義でどちらかが悪という話に行き着くことなどありえない。

ブッシュ・オバマ両政権で統合本部議長を務めたマイケル・マレンが「お互いをスパイし合うことはいまに始まったことじゃない」と米ABCテレビのインタビューで語っているように、サイバー攻撃同様、そもそもはお互いさまという話だからだ。ここで大騒ぎしても新しい発見はない。

少し情報を整理すると、今回、中国の気球はアラスカに入ってからカナダを経て再びアメリカの上空に現れ、モンタナ州、ミズーリ州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州から東の海に抜けたところでF-22戦闘機の空対空ミサイルで撃墜された。

この問題が明らかになると米中間の緊張は高まり、2月5日に予定されていたアントニー・ブリンケン米国務長官の訪中は、「急遽、延期」となってしまった。ただ不思議なのは、当初アメリカ側もこの問題で目くじらを立てる様子はうかがえなかったことだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年2月12日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:rarrarorro/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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