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東日本大震災13回忌を前に考える、被災地と他の土地の埋まらぬギャップ

数多の尊い命が奪われた東日本大震災から12年。多くの被災地に、その被害や教訓を伝える施設が設けられています。そんな伝承施設を訪れた際に考えさせられたことを綴るのは、自身も高校卒業までを宮城県で過ごし、震災直後から被災地の支援に関わってきたという、要支援者への学びの場を提供する「みんなの大学校」学長の引地達也さん。引地さんはメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で今回、気仙沼市と南三陸町の伝承館の展示内容等を紹介するとともに、これらの施設を活かすため必要不可欠なものについて考察しています。

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日本大震災-13回忌から考える2つの伝承施設

2023年3月11日で東日本大震災から12年になる。

仏教の考え方では干支が1巡したことにちなむ13回忌にあたる。

この13回忌は7回忌とともに区切りとされ、法要は7回忌や13回忌をもって終了することも多い。

その13回忌で東日本大震災がどう語られるか、またこれをさかいに忘れられていくのか、大きな節目かもしれない。

先日、来訪した被災地ではいまだに困難な日常や死者への悲しみや行方不明者への哀れみが日常的に存在しているから、忘れるわけはないのだろう。

被災地とそのほかの土地とのギャップは必然であろうが、それは大きくなるばかり。

先日、「忘れてはならない」地域の思いを形にした2つの施設、宮城県気仙沼市の「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」と宮城県南三陸町の「南三陸町東日本大震災伝承館・南三陸311メモリアル」を訪れ、距離を超えて震災の教訓を共有し、そこから得た叡智を形にする難しさを考えさせられた。

やはり距離を埋めるのは「対話」しかない、のだと。

気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館は2019年3月にオープンしたもので、気仙沼市の海岸に近い気仙沼向洋高校の校舎を被災したそのままの姿を残して展示している。

来訪者はその生々しい展示を見る前にシアターで3月11日当日の津波が気仙沼を破壊する様子を生々しい映像で視聴する手順となっている。

市民が撮影した動画の迫力は今も衝撃的だ。

私は震災発生後のテレビニュースを見て、すぐに現地に向かおうと考えたと同時にメディアからの映像の衝撃を避け、離れたため、あまり目にしていないし、これまでも避けてきたように思う。

それが、伝承館では否応なしに見せられてしまった。

その映像の衝撃のまま、遺構と化した校舎をめぐる。

廊下、階段、校長室、教室―。

誰もが親しんだ学校は、答案用紙も何かで表彰されたトロフィーも、パソコンも、あの日のままで動かない。

当たり前の日常が破壊される悲劇を感じることは、やはり「忘れないこと」になる。

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南三陸町東日本大震災伝承館・南三陸311メモリアルは建築家、隈研吾さんのデザインがひときわ目につく施設で2022年4月にオープンした。

震災のシンボル的な存在となった防災庁舎を遺構とした公園には、店舗が並ぶさんさん商店街やかつてのJR志津川駅跡もある。

この施設は「東日本大震災の経験を共有し“自然とは、生きるとは”に思いを馳せ、語り合う場」と説明する。

こちらは被災者の語りから実体験を伝えることに重きを置いているようで、コンテンツとしてラーニングプログラムを用意してあり「その避難が生死を分ける」「助かった命を守る」「住民同士の助け合い」がテーマだ。

「自然とは、生きるとは」という問いは、自然現象の災害とともに生きることの決意を示しているようにもみえる。

このテーマは考えれば、考えるほど哲学的な思考になっていくが、より自覚的な「生きる」につながっていくとすれば、施設の存在の意味合いは深くなる。

気仙沼市と南三陸町は東日本大震災の支援で直後から関わってきた地域であり、毎年のこの地を訪れ、1年毎の変化を感じてきた。

今回、初めて目にする311メモリアルは、骨組みだけとなった防災庁舎と一体化した公園にあり、その庁舎とともに震災を伝える覚悟を示したと受け止めたい。

震災1年後あたりから、防災庁舎を解体するか、遺構として残すかの議論が交わされ、地元の賛否も聞いてきたし、実際にその庁舎で亡くなった遺族の思いにも触れてきた。

その過程を踏まえれば、遺構にするからにはそれなりの決意を持って、「活かす」べきなのであろう。

そう考えた時に、この施設を活かすのは行政や地元任せではなく、外部との対話や生の声で構成されるつながりなのだと思う。

気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館では語り部の若いボランティアが誠実に説明し、1階のホールではイベントも開催されていた。

その動きは、この施設が生きている、ようにも思えた。

311を見つめながら、私たちは対話から新しい未来を考えていきたいと思う。

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image by: 一般社団法人南三陸町観光協会 - Home | Facebook

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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