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Winny開発者の日本人天才プログラマーを訴えた、日本という国の根本問題

ファイル共有ソフト「Winny」の開発者が訴えられた事件は、最近になって映画化されたことで再び話題を呼んでいます。この若き開発者は7年以上も裁判に時間を費やすことになり、42歳という若さでこの世を去ってしまいました。メルマガ『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』で土井英司さんが紹介するのは、 この天才プログラマーが作った「Winny」が訴えられてしまった理由と、日本のあまりにも時代遅れな法整備と本質的な問題について語った一冊です。

誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか?⇒『国破れて著作権法あり』


国破れて著作権法あり

城所岩生・著 みらいパブリッシング

こんにちは、土井英司です。

本日ご紹介する一冊は、2023年3月10日公開の映画、『Winny』に合わせて出版された、注目の一冊。

サブタイトルに、「誰がWinnyと日本の未来を葬ったのか」とあるように、この国の発展を阻害する、重大な問題について論じられています。

その重大な問題とは、「著作権」。

日本は実力でGAFAに負けたと思われているふしがありますが、実際には、ITをリードする優秀な技術者および技術は存在していました。

ただ、それをそれを生かすための法整備がなされていないこと、そして利権を守るために日本の発展を阻害した組織があったのです。

本書の著者、城所岩生さんは、著作権法に精通した、国際IT弁護士で、現在国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)の客員教授も務めています。

本書の冒頭で、今回映画で取り上げられたWinny事件の本質を表した言葉があったので、紹介させていただきます。

2012年4月、幕張メッセで金子勇氏の講演を聴いた私は、質問の冒頭で、「金子さんは日本人に生まれて不幸だったかもしれない。なぜなら欧米版ウィニーを開発した欧米の技術者は、金子さんのように後ろ向きの裁判に7年半も空費させられることなく、その後、無料インターネット電話のスカイプを開発して、億万長者になったからです」と述べた

Winnyの技術は、ビットコインやNFTなどに利用され、最近脚光を浴びているブロックチェーン技術の先駆けとも言われていますが、なぜそれを開発した天才プログラマーが訴えられなければならなかったのか。

なぜ日本は、ITでここまで遅れを取ってしまったのか。

時代遅れの司法と、遅れを取った日本の立法府の対応、裏側に隠された利権の存在に斬り込み、これからの日本に必要な改革を提案した、じつに興味深い一冊です。

 

さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

金子氏を栄光なき天才にしてしまい、世界の最先端を走っていたP2P技術の商用化を遅らせる国家的損失を招いた元凶として、厳しい日本の著作権法とそれをさらに厳格に適用する法執行機関の対応があげられる。ウィニー事件で地裁の有罪判決を覆した高裁判決を支持し、無罪を確定した最高裁判決は、法執行機関の性急な捜査・起訴を戒めた

オラクルとグーグルのスマホ向けOSアンドロイドをめぐる著作権侵害訴訟で、最高裁はオラクルの1兆円の損害よりも社会全体の利益となるイノベーションを優先させ、グーグルのフェアユースの主張を認めた(2021年の米最高裁判決)

シリコンバレーに味方した「信頼のあるビジネス法」の極め付きはなんといっても著作権法である。米著作権法には利用目的が公正であれば、著作権者の許諾なしの利用を認めるフェアユース規定がある

ユーチューブが世界的にヒットした要因にはフェアユースもあるが、1998年に制定されたデジタル・ミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act, 以下、「DMCA」)も強力な援軍となった。DMCAの大きな特徴が、検索エンジン、動画サービスなどのサービス・プロバイダーは著作権侵害の責任を負わなくてもいいという条項である

対照的に日本のプロバイダー責任制限法はDMCAほどプラットフォーマーに好意的ではないが、裁判所もそれを厳格に適用する傾向があるため、プラットフォーマーが育たず、米国勢に日本市場まで草刈り場にされてしまっている

「金子勇との7年半」に寄せられた、ひろゆき氏のコメント

LINEでの動画共有とかビットコインなどの仮想通貨とか、P2Pといわれる技術が使われています。その最先端がWinnyでした。金子さんがいれば、日本で発展した技術が世界で使われて、世界中からお金が入ってくるみたいな世の中にできたかもしれなかったんですけどね

技術開発への萎縮効果を招かないためにも、わが国の司法に求められるのは、米国の裁判所のような司法府の役割を十分わきまえた対応である。具体的には新技術に対して、罪刑法定主義の観点からだけではなく、イノベーションが著作物の市場を変えることも想定して、判断を立法府にまかせた対応である

ご存知の通り、金子勇氏は、7年半後に無罪を勝ち取りますが、その間、日本は欧米にIT分野で大きく遅れを取ることになりました。

そして悲劇的なことに、本来なら日本を率いるはずだったこの天才プログラマーは、2013年7月に、42歳の若さで亡くなってしまうのです。

この事件を風化させないためにも、また衰退する日本の本質的問題を知るためにも、本書は読むべき一冊だと思います。

映画、『Winny』と併せて、ぜひ読んでみてください。

 image by: Shutterstock.com

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Amazon.co.j立ち上げに参画した元バイヤー、元読売新聞コラムニスト、元B11「ベストセラーBookV」レギュラーコメンテーター、元ラジオNIKKEIレギュラー。現在は、ビジネス書評家、著者、講演家、コンサルタントとして活動中の土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介。毎日発行、開始から既に4000号を超える殿堂入りメルマガです。テーマ:「出版/自分ブランド/独立・起業」

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【著者】 土井英司 【発行周期】 日刊

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