多くの企業が取り入れ始めているデジタルトランスフォーメーションですが、メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、これからはさらに踏み込んで消費者主導のDXを考えていくべきだとしています。
消費者主導DXのファッションビジネス
1.消費者主導のDXストーリー
これまでのデジタルトランスフォーメーションでは企業活動の改善からスタートすることが多いようです。既存の業務をデジタル化することによって合理化するという発想です。
しかし、デジタル化によって消費者がまず変化するという発想があってもいいではないか、と思っています。消費者がデジタル化によってトランスフォーメーションするとどうなるのか、ということです。
例えば、消費者が自分自身のアイデンティティ戦略を立て、それに基づくワードローブ計画を立て、合理的な買物やレンタルを行うという一連の流れをAIの支援を受けて実行するというストーリーです。
このストーリーを実現するには、まず消費者が自分自身のアイデンティティを理解し、自分のスタイルや好みを明確に把握する必要があります。これには、AI、ビッグデータ分析などのテクノロジーが活用できそうです。
例えば、SNS上での投稿や購入履歴、検索履歴などから、消費者の好みやスタイルを把握することができます。
次に、消費者がワードローブ計画を立てていきます。自分のライフスタイルや季節、イベントなどを考慮して、必要なアイテムを選択する必要があります。これにもAIやビッグデータ分析などのテクノロジーが活用できるでしょう。
例えば、天候や気温、スケジュール、予定などを考慮して、AIは自動的に最適なアイテムを提案することができるようになるでしょう。
最後に、消費者が合理的な買い物やレンタルを行うためには、デジタルテクノロジーを活用したサービスが必要です。
例えば、AIによるスタイリングアドバイスや、仮想試着、レンタルサービスなどがあります。これらのサービスは、消費者がより合理的にファッションを楽しむことができるよう支援します。
このような消費者中心のDXは、今後ますます進化していくことが予想されます。消費者のスタイルや好み、ライフスタイルに合わせたパーソナライズされたサービスや商品の提供が増えることで、消費者の満足度が高まり、ファッション業界全体の発展につながることが期待できます。
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2.AIが支援する個人のアイデンティティ戦略
AIによる自身のアイデンティティ戦略を立てる場合、「どんな人物像を目指すのか」、「周囲の人にどんな人だと思われていのか」などを確認する必要があります。その目的を達成するための設問を設定します。
例えば、以下のような設問です。
・あなたが尊敬する人や憧れる人を教えてください。その人物はどのような特徴を持っていると思いますか?
・あなたが大切にしている価値観を3つ挙げてください
・あなたが好きなファッションブランドやスタイルを教えてください。そのブランドやスタイルが持つ特徴は何ですか?
・あなたが普段着る服の特徴を教えてください。好きな色や素材、デザインなどがあれば教えてください
・自分自身について、どんな印象を持たれているかを教えてください。周囲の人がどのように思っているかを考えると良いでしょう
以上の設問に回答することで、自分自身についてより深く理解することができますし、AIが支援することで、アイデンティティ戦略を立てることができるでしょう。
3.AI支援パーソナルスタイリングサービス
上記の設問とその分析から発展させると、新しい消費者中心のファッションサービスが可能になると思います。
例えば、以下のようなサービスです。
1.パーソナライズされたスタイリング提案
AIが分析した消費者のアイデンティティや好みをもとに、パーソナライズされたスタイリング提案を行います。消費者は、自分自身のスタイルに合わせたアイテムを提案されるため、購入意欲が高まることが期待できます。
2.トレンド予測に基づく商品提案
AIがリアルタイムでトレンド情報を収集し、消費者に合わせた商品提案を行います。これにより、消費者が常に最新のファッショントレンドにアクセスできるようになります。
3.フィッティングルームの省略
消費者は、AIが提示するパーソナライズされたスタイリング提案に基づいて購入することができます。そのため、実際に試着する必要がなくなり、フィッティングルームを省略できるため、時間と手間を削減できます。
4.レンタルやリユースによるサステナブルな取り組み
AIが消費者のアイデンティティや好みをもとに提案するアイテムは、消費者にとって長く愛用できるものになる可能性が高いです。そのため、レンタルやリユースのサービスを提供することで、消費者が持続可能なファッションにアクセスできるようになります。
5.オンラインショッピングとオフラインショッピングの融合
AIによるパーソナライズされたスタイリング提案を受けた後、消費者はオンラインで注文し、自宅や店舗で受け取ることができます。また、店舗での購入時には、AIが提示するパーソナライズされたスタイリング提案に基づいてアイテムを提供することで、消費者のショッピング体験をより充実したものにすることができます。
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4.AI支援サービスの収益モデル
こうしたAI支援型のサービスの収益モデルについて考えてみたいと思います。
1.販売代理収入:サービス内で提案された商品が購入された場合、販売代理店としての収入を得ることができるでしょう。
2.広告収入:ファッションサービス内に広告を掲載することで、広告主から収益を得ることができるでしょう。
3.有料会員制:バーチャルフィッティング機能など、一定の機能を有料会員限定とすることで、有料会員から収益を得ることができるでしょう。
4.データ分析・販売:ファッションサービスを利用するユーザーから得られるデータを分析し、販売することで収益を得ることができるでしょう。もちろん、サービス契約時に確認を取ることが必要になります。
5.提携企業とのコラボレーション:提携企業と共同で商品開発やイベントなどを行い、その収益を得ることができるでしょう。
これらの収益モデルを組み合わせることで、より多様な収益源を確保することができるはずです。
但し、これをビジネス化するには、AIを活用することで高い精度での推薦や分析が可能になるため、専門的な知識や技術、そして多額の資金が必要になるでしょう。
あるいは、複数の企業が連携してプロジェクトを進めることで、資金力や技術力の共有が可能となり、効率的な開発ができるかもしれません。
また、投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達も一つの手段として考えられます。ビジネス化に向けた多様な選択肢を検討し、最適な方法を見つけることが重要になります。
編集後記「締めの都々逸」
「AIがあるなら 何でもできる もっと上へと 飛び上がる」
単純にチャットGPTに質問しても、新しいものは出てきません。質問の前に新しい概念を整理したり、アイディアを出して、それをぶつけると面白いものが出てきます。
今回は、企業のDXではなく、個人のDXという発想に基づいてまとめてみました。というのも、企業がお金儲けのために考えるより、消費者が自分の楽しみとしてAIを活用した方がはるかに面白いと思うからです。企業はますます大変ですね。個人の発想についていけるのでしょうか。(坂口昌章)
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