MAG2 NEWS MENU

過去最大の赤字「楽天グループ」の資金繰りは本当に大丈夫なのか?倒産リスクを徹底検証

2月14日に行われた決算発表で、過去最大となる3,729億円の赤字計上を報告した楽天グループ。モバイル事業が大きく足を引っ張っていると伝えられますが、同社の倒産はあり得るのでしょうか。今回、楽天の状況を事業全体とキャッシュフローの観点から考察しているのは。財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズ代表取締役で、iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授の村上茂久さん。村上さんは楽天が巨額の赤字となった理由を解説するとともに、今後の経営を左右するポイントについて考察しています。

プロフィール:村上茂久(むらかみ・しげひさ)
株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。

モバイルで赤字に陥っている楽天グループ。資金繰りは大丈夫なのか?

2月に発表された楽天グループ株式会社(以下、楽天)の2022年12月期の決算は、過去最大の赤字となる3,729億円の当期純損失となりました。前年度の21年12月期でも1,338億円の純損失と大きな赤字の計上となりましたが、22年12月期はその3倍弱となる赤字の計上です。

この赤字の要因は、すでに多くの報道でなされている通り、携帯事業である楽天モバイルによるものです。携帯事業(モバイル事業)の赤字はなんと4,928億円と巨額なものです。

世間ではこのモバイル事業の赤字ばかりに注目されがちですが、一方で楽天全体の事業構成はどうなっているのでしょうか。本稿では、楽天の事業全体とキャッシュフローの観点から2022年12月期の楽天の決算について考察をします。

楽天の3つの事業の柱

楽天の事業といえば、何をイメージしますでしょうか。ネットで買物をする人にとっては、祖業であるEコマースの印象が強いかも知れませんし、投資等をされている方にとっては楽天証券や楽天銀行などの金融事業のイメージが強いでしょう。

楽天の事業は、主にインターネットサービス、フィンテック、そしてモバイルの3つから構成されています。セグメント別で見るとそれぞれの事業の収益はどうなっているのかそれぞれ確認していきましょう。図表1は楽天のセグメントに係る売上収益とセグメント損益をグラフにしたものです。

出所:楽天の決算短信より筆者作成

セグメント別の売上収益において、最も大きな割合を占めるのが、全体の半分強を占めるインターネットサービスです。売上収益は1兆859億円で、セグメント損益は782億円となっています。楽天におけるインターネットサービスは、インターネット・ショッピングモール「楽天市場」をはじめとする各種ECサイト、旅行予約サイト、ポータルサイト等から構成されています。

売上収益で言うと二番目に大きな割合が占めるのが、フィンテックであり、6,634億円となっています。利益の面でいうと987億円も稼いでいて、インターネットサービスよりも稼ぎ頭となっています。このフィンテック事業は、具体的には、銀行、証券、クレジットカード事業等になります。これら2つの事業については、売上収益は増収をしていて好調と言えます。

最後は今回の赤字の主たる要因となったモバイル事業です。セグメント別収益における売上収益は3,687億円で全体に占める割合は17%程ですが、損益で言うと、インターネットサービスとフィンテックの合計1,800億円の利益を大きく上回る4,928億円もの損失を計上しています。

つまり、楽天全体で見ると、インターネットサービスもフィンテックも十分に利益を出している状況ですが、売上収益のわずか17%しかないモバイルが大きく損失を計上しているため、全体として赤字が大きくなっているということです。

モバイル事業により有形固定資産と減価償却費が膨らんだ楽天

では、楽天モバイルはなぜこんなにも赤字になっているのでしょうか。図表2は22年12月期の楽天モバイル株式会社のP/Lを滝チャートで表現したものです。ここからわかることは、楽天のモバイル事業において、最も大きな割合を占めるのがネットワーク費用ということです。なんとこのネットワーク費用は売上の2倍以上もあります[1]。

出所:楽天の決算データーシートより筆者作成

このネットワーク費用には、減価償却費やローミング費用が含まれています。そして、このネットワーク費用の中でもとりわけ大きいものが減価償却費です[2]。なぜこんなにも減価償却費が大きくなっているのでしょうか。図表3は、楽天の減価償却費の推移を示したものです。この図表から明らかなように、この6年で楽天の減価償却費は6倍以上に増えています。

出所:楽天の有価証券報告書及び決算短信より筆者作成

楽天は当初はインターネットサービスが主力で、その後フィンテック事業も行うようになりました。このような背景もあり、もともとそれ程固定資産を多く抱えるようなビジネスモデルではありませんでしたし、減価償却費もそれ程多くはありませんでした。実際、10年前の減価償却費は211億円と直近の1/10以下でした。

一方でモバイル事業は従来のインターネットサービスやフィンテック事業とは異なり、物理的な投資が多くかかるビジネスです。

会計を学んだ方はご存知のように、設備投資をしたとしてもこの投資金額はすぐにP/Lには反映されません。例えば、100億円の設備投資をしたとして100億円が費用に計上されるわけではなく、減価償却といって減価償却期間に応じてP/Lに費用計上されるようになるのです。ここでは、単純化して、例えば償却期間を10年とすると、ある年に100億円の投資をしたとしても、費用計上できるのは10億円(100億円÷10年)となるのです。

楽天の赤字がこれだけ増えている理由としては、楽天がモバイル事業を開始したことで、設備投資がかさみ、減価償却が多くなったというB/Sの構造及びビジネスモデルが変わったことがあげられます。事実、楽天Gが携帯事業に参入したのは、2017年ですが、その頃と比較すると、有形固定資産は5年間の間で17倍、総資産にしめる有形固定資産は5倍以上にも増えています。このように、楽天はモバイル事業に参入したことで、P/L構造に加えて、B/Sの構成も大きく変化したのです(図表4)。

出所:楽天の有価証券報告書及び決算短信より筆者作成

[1]セグメント別の営業損益の詳細は開示されていないため、ここでは楽天モバイル株式会社のP/Lの数字を用いている。そのため、図表1のモバイルのセグメント損益とは数字が少し違っている。

[2]なお、参考までに営業利益 + 減価償却費 + 無形資産償却費で計算されるEBITDAは、3,251億円のマイナスになっています。

赤字続きだが、キャッシュは増えている楽天

冒頭にも見たように、楽天は今期過去最大の赤字を計上しました。ここ数年を見ても営業利益ベースで赤字が続いています(図表5)。これだけ赤字が続くと「財務の健全性は大丈夫か」「倒産するのではないのか」と感じる人もいるのではないでしょうか。

出所:楽天の有価証券報告書及び決算短信より筆者作成

以下では、キャッシュの観点から楽天の倒産のリスクについて見てみましょう。企業が倒産をするのは、手元のキャッシュがなくなったときです。見方を変えれば、キャッシュがあり、資金繰りさえ対応できれば企業は倒産しないのです。最近でいうと、メガベンチャーやスタートアップ企業は多くの赤字を計上しながらも、成長を続けていますが、その理由は、成長することを前提として、投資家から資金の調達が出来ているからです。

では、楽天の場合はどうでしょうか。企業の資金繰りを見る際には、キャッシュフロー計算書を確認します。楽天のキャッシュフロー計算書をみると、ここ数年はキャッシュが増えていて、直近では4.7兆円近くもあります。その理由は、財務キャッシュフローでの調達を多くしているためです。

出所:楽天の有価証券報告書及び決算短信より筆者作成

これだけ見れば、資金をきちんと手当していることから、すぐに資金繰りで窮することはなさそうです。ただし、ここで気をつけることがあります。楽天はフィンテック事業において、銀行や証券会社を傘下に抱えていますが、これら金融事業の預金等は当然ながら、インターネットサービスやモバイル事業に使うことは出来ません。

例えば、2022年12月期において、楽天は営業活動によるキャッシュ・フロー(以下、営業CF)において、銀行事業の預金の増減額で、約1.6兆円増えていますが、このお金は銀行事業でしか使うことが出来ないものです。

そのため、楽天のキャッシュフロー計算書を分析するにあたっては、金融事業であるフィンテック事業とそれ以外の非金融事業を分けてキャシュフローを見る必要があるのです。

非金融事業ではキャッシュが減っている

それでは、セグメント別にキャッシュフロー計算書を見てみましょう。図表7は、楽天が開示している非金融事業のキャッシュフロー計算書をまとめたものです。この非金融事業というのは実質的にインターネットサービス事業とモバイル事業のキャッシュフロー計算書と考えられます。

出所:楽天の決算データーシートより筆者作成

キャッシュフロー計算書全体で見れば、キャッシュは約2,800億円増えていましたが、非金融事業のキャッシュフロー計算書では、キャッシュは4,427億円減少しています。

もう少し詳しく見てきましょう。非金融事業における営業CFについては、キャッシュアウトしない減価償却費および償却費において、2,661億円のプラスがあるものの、全体としては3,154億円のマイナスとなっています。

投資活動によるキャッシュフロー(以下、投資CF)はマイナス4,328億円と大きな投資をしていることがわかります。その中でも有形固定資産への投資は2,897億円と3,000億円近くになっています。これら営業CFと投資CFのマイナスを、楽天は財務活動によるキャッシュフロー(以下、財務CF)で補っています。具体的には、借入金と社債により返済分を考慮に入れてネットで3,000億円強調達をしています。

そのため、ざっくりいうと、インターネットサービス事業とモバイル事業のキャッシュについては、営業CFでマイナスの3,100億円、投資CFでマイナスの4,300億円、そして財務CFで3,000億円調達をして、トータルでは4,400億円強のキャッシュが減ったということになります。

関連で、金融事業であるフィンテック事業も同様に確認してみると、営業CFは441億円のプラス、投資CFは5,196億円のマイナス、そして財務CFは1.18兆円のプラスで、トータルでは7,057億円のプラスになっています。

金融事業で投資CFが5,000億円以上もマイナスになっているのは、銀行事業の有価証券の取得による支出が1.4兆円近くもあるからです。つまり、金融事業における投資というのは、設備投資等ではなく、銀行事業による有価証券の取得によるものなのです。

非金融事業で今後いかに資金を手当できるかが鍵となってくる

ここまでの話をまとめましょう。楽天のキャッシュフロー計算書を事業全体で見ると、昨年度の4.4兆円から4.7兆円とキャッシュは3,000億円近く増えています。これだけ見ると、キャッシュは十分に確保しながらモバイル事業への投資を進めているように見えます。

しかしながら、このキャッシュが増えた要因は、金融事業によるものであり、非金融事業としてはキャッシュが4,400億円強も流出している状況でした。そして、先述したように、銀行等の金融事業において調達したキャッシュはモバイル等の非金融事業に基本的には使うことは出来ません。

換言すると、非金融事業だけで見ると、営業CFと投資CFのマイナスを財務CFでまかないきれていない状況です。

モバイル事業は、現在はまだ積極的に投資を行うフェーズであり、キャッシュを生むようになるのはもう少し時間がかかりそうです。引き続きモバイル事業には投資が必要なことを考えると、今後は非金融事業でいかにキャッシュを確保できるかがポイントとなってきます。ここで企業がキャッシュを手当する方法は基本的には3つしかありません。具体的には事業からキャッシュを得る(営業CF)、固定資産等を売却してキャッシュを得る(投資CF)、そして株式や借り入れ等を通じて資金を調達する(財務CF)の3つです。

引き続き楽天としてはモバイル事業については、財務CFを通じて、資金を調達することになると予想されますが、もう一つ重要なのが営業CFからのキャッシュの獲得です。すなわち、稼ぎ頭のインターネットサービス事業等の非金融事業からいかにキャッシュを得られるかがポイントになります。

今回はモバイル事業で大きな赤字を計上した楽天について、楽天の事業全体とキャッシュフローの観点から考察を行いました。多くの事業を行っているコングロマリットである楽天の決算を見る際には、P/Lに加えて、キャッシュフロー、とりわけ非金融事業のキャッシュの動きにも是非着目してみてください。

image by: Guillaume Paumier, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

村上茂久

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け