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居直った韓国。機密文書流出で「バランス外交の優等生」に生じた“変化”

米国の軍事・情報機関から機密文書が流出したことによる影響が、成果を上げ続ける習近平政権の外交にも影を落としているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、「バランス外交の優等生」と言われた韓国に生じた変化に言及。ロシアとの距離を意識し、否定し続けていたウクライナへの武器供与を認めざるを得なくなった韓国が、一気に米国との関係強化に舵を切って「居直る」のは、中国にとって少々厄介な状況と解説しています。

一難去ってまた一難 中国が頭を悩ます韓国・尹錫悦政権が中ロを売って手に入れたい核の抑止

フランスのエマニュエル・マクロン大統領とEUのフォンデアライアン欧州委員長が訪中し、そろってデカップリングに反対した。さらにドイツで対中強硬派として知られる「緑の党」のアナレーナ・ベアボック外相も中国を訪れたが、従来の厳しい批判は明らかにトーンダウンした。

続いて上海を訪れたブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領(ルーラ大統領)は、新開発銀行(NDB)の本部を訪れた際に「自国通貨で決済しよう」とBRICS諸国に呼び掛け、実質的な「脱ドル」宣言をして見せた。今春、サウジアラビアとイランの外交関係の正常化を北京で発表するという「ウルトラC」で世界を驚かせて以降、習近平外交の存在感は高まる一方である。

しかし、ここにきて中国にとって少々厄介な問題が持ち上がってきた。舞台は朝鮮半島である。これまでバランス外交の優等生であった韓国が、にわかに対米従属へと大きく舵を切ったと感じさせるシグナルを発し始めたからだ。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の外交は、この少し前から中国を警戒させてきた。その一つが性急な対日接近である。これは国内にも戸惑いと動揺をもたらし、政権の支持率を下げる結果にもなった。ライバル政党との争いのなか、内政を固めたいはずの尹大統領がなぜそんな選択をするのか理解できなかったのだ。その韓国がここにきていよいよの危機感を刺激する選択をし始めたのだ。

きっかけはこのメルマガでも書いてきた米国防総省の機密文書流出事件だ。マサチューセッツ州に住む21歳の空軍州兵、ジャック・テシェイラ容疑者が招待制チャット・グループ「ディスコード」にさらした文書は数100点とされ、そこにロシア・ウクライナ戦争に大きな影響を及ぼす内容が含まれていたことから、バイデン政権へのダメージが大いに話題となった文書だ。

この問題では、ウクライナの陰に隠れて目立たないもう一つの焦点があった。アメリカによる同盟国・パートナー国への監視とスパイの問題だ。文書には韓国、イスラエル、エジプト、そして国連のアントニオ・グテーレス事務総長の会話を盗聴するなどの行為が明確に記されていたのだ。

アメリカが同盟国やパートナー国をターゲットに通信傍受などを行っていることは、今更驚くべき話ではない。問題は秘密にしておきたい内容を、突然、不本意ながら表に出されてしまった各国の政権だ。

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尹政権にとって極めて不都合だったのは、ウクライナ問題に関し、155ミリ砲弾を迂回支援しようとした疑惑が、流出した資料によって白日の下にさらされてしまったことだ。韓国はこれまで、殺傷兵器をウクライナに提供しないことによって、ロシアとの距離を調整してきた。それだけに、従来の姿勢とは異なる内容を暴露され、困惑が隠せなかった。

文書では、アメリカが傍受した韓国政府内部のウクライナ支援に関する話し合いが詳細に描かれている。砲弾を送る方法を話し合うなかで、韓国政府の高官らが殺傷兵器供与禁止の原則の変更について触れているという内容だ。

韓国大統領府は当然のこと、これを即座に否定した。だが、その言い訳は「該当する文書のかなりの部分で偽造されているという見解でアメリカと一致した」というだけで説明力を欠いた。そのため地元メディアは「では、いったいどこがどんなふうに改ざんされたのか」と、政府を突き上げ、結局苦しい沈黙に終始せざるを得なくなったのだ。

苦境に立たされた尹政権は、本来であればアメリカの情報管理の杜撰さに苦言を呈しても不思議ではなかった。ところが韓国政府はかえって、「韓米同盟を通じてさらに関係を強化する」と両国の結びつきをアピールしたのである。ある意味「居直った」とさえとれる尹政権の背後には当然のこと意図があった。韓国にはもはやウクライナへの武器供与を隠す必要がなくなったのではないか、という背景だ。

実際、尹大統領自身も「虐殺など深刻な戦争犯罪があれば人道支援にこだわるのは難しい」(『KBSテレビ』4月20日)と、半ば武器供与に道を開くような発言もしている。実際、これ以前にも疑惑はささやかれていた。例えば昨年10月、『ウォール・ストリート・ジャーナル』は韓国がアメリカに送った砲弾は、最終的にはウクライナに届けられているのではないかと、その疑惑を報じている。

当時、韓国政府は「エンドユーザーがアメリカだということを確認して出した」とあくまで武器支援を否定していた。その韓国がなぜ、ここにきて急に武器供与を実質的に認めるかのような発言をするようになったのか──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年4月23日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Belish/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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