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Pension book, (Future pensions after retirement)

年金のプロが解説。老齢年金と遺族年金を重複受給してしまった時はどうなるのか?

年金を受給している時に別の年金受給ができることになった場合、重複してもらえるのでしょうか?今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 年金の重複について詳しく解説しています。

既に何らかの年金を受給中に別の年金が発生して重複した場合と、年金が過払いされた時

1.違う種類の年金受給の期間が重複してしまう事がある

年金は偶数月のその月の15日に前2ヶ月分が支払われる事は基本中の基本であります。

年金額を6回で割ったものが支払われるとすれば、おおよその振込額が予測できます。

しかし、支払われると思っていた額となんだか違う!という事は相談現場では実際はよくあって、そのたびにどうして金額がおかしいのかという相談がよくあります。

振込額が変化する理由は様々ではありますので、個別に記録を確認してみないと原因とその金額はどのように導き出されたのかはわかりません。

例えば在職老齢年金の停止がかかったとか、税金や社会保険料天引き額が変わったとか、失業手当を貰ったからとか、加給年金がはずれたとかいう事で変化する事はよくあります。

あと特殊なものの一つとしては、税金や社会保険料の滞納で突然年金から差し押さえがあったりというような事もあります。

細々としたものも存在するのでその都度確認が必要ではあります。

大体は機構のオンラインシステムを見れば原因は判明する事が多いですけどね(原因コードというのがあるので)。

さて、年金振込額がなんだかおかしくなる原因として、よくあるのが「内払調整」というのがあります。

え?なんか難しそうな言葉が出てきた…と思われたかもしれませんね^^;

聞きなれない用語ではありますが、年金の世界ではよくある事であります。

例えば年金を貰う時に、大原則としては1人1年金しかもらえないですよね。

どういう事かというと老齢の年金を貰える人が障害厚生年金を貰う権利を持っていたとしても、どっちか一つの種類しか貰っちゃだめですよという事ですね。

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人によっては老齢年金、遺族年金、障害年金の3つの受給する資格を持ってる場合もありますが、どれか有利なのを選択して1つの種類の年金を受給してもらうしかありません(一部例外はありますが)。

昭和61年3月31日までは1人で複数の種類の年金が貰える場合もありましたが、昭和61年4月1日以降は社会保障の過剰給付を是正する意味でも1人1年金が原則となりました。

年金というのはどの種類においても、受給者の生活保障を目的とするものなので、生活保障を目的としたものを複数貰ったら過剰給付になりますよね。

それを避ける上でも複数の種類を貰うのは一部のケースを除いて禁止とされました。

しかしながらどうしても、複数の種類の年金が発生する事もあるので、そういう時は有利な年金を選択してもらう必要があります。

この時に例えば特別支給の老齢厚生年金を貰ってた人が、遺族年金を請求したとします。

遺族年金のほうが総額が多ければ、遺族年金を選択するでしょう。

「これからは老齢厚生年金ではなく遺族年金のほうの支払いをお願いします」と。

ところが新しく年金(上述の遺族年金)を請求してからすぐに翌月から年金支払いが始まるわけではなく、請求から振込までは概ね3ヶ月ほどはかかります。

あと、受給権が発生した(遺族年金なら死亡日が受給権発生日)からといってすぐに請求手続きに入る人ばかりではありません。

例えばもし6月死亡なのに、遅れて遺族年金を8月くらいに請求をしたとします。そうすると8月に請求なので、そこから3ヶ月くらい経ってようやく初回振り込みになります。という事は11月15日(初回振り込み時は奇数月振込になる事がある)あたりにようやく遺族年金が貰えるという事ですね。

ちなみに、請求が遅れても遺族年金は受給権発生日である死亡日の翌月分の7月分から支払いになるので、遅れたとしても遡っての支払いとなります(5年以内の時効分は遡って支払い。5年を超える分は時効消滅)。

遺族年金の初回振り込みは奇数月の11月15日とすれば7月、8月、9月分の3ヶ月分の支払いですね。

それにしても、年金は前月までの分を支払うから11月15日支払いならば、7月、8月、9月、10月分なのでは?と思われたかもしれませんね。

これは、11月15日の分は10月15日に支払うのが遅れた場合の振り込み日となります(随時払という)。なので、その後は偶数月に前2ヶ月分の支払いとなります(12月15日に10月分と11月分)。

…でも、その間に特別支給の老齢厚生年金が10月15日までに7月分、8月分と9月分の3ヶ月分が支払われていたとします。

遺族年金は7月分から遡って支払うのに、老齢の年金がすでに7月分~9月分まで支払われてしまった。期間が重複になっていますね。

こういう状況になったらどうするのかという事です。

つまり、遺族年金を遡って7月、8月、9月と貰えるのだけども、その振り込みがあるまでにそれまで受給してきた老齢の年金が7月、8月、9月分と支払われてしまっていた形ですね。

というわけで、事例を用いて考えていきましょう。

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2.夫の生死が3ヶ月不明だが、死亡したと推定して遺族年金が発生

〇昭和41年5月1日生まれのA子さん(今は57歳)

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20歳になるのは昭和61年4月30日なので4月分から国民年金保険料を支払う必要がありました。平成2年7月までの52ヶ月間は国民年金保険料を納付していました。

その後は平成2年8月から平成6年7月(月末退職)までの48ヶ月間は厚年加入。この間の平均標準報酬月額は26万とします。

なお、A子さんは仕事や家庭内のトラブルなどの様々なストレスが重なり、抑うつ状態になる事が多かったため診療科に通っていました。

初診日は平成6年2月10日。

初診日から1年6ヶ月経過した日(障害認定日)である平成7年8月10日ごろは完全に引きこもり状態となっており、希死念慮などもひどく時々入院もしていました。

退職してからの平成6年8月以降の国民年金保険料は納付しておらず、平成10年7月までの48ヶ月間は未納でした。

それでも徐々に症状も回復傾向にあり、日常生活にもそこまで支障はないほどまでに回復しており、平成10年頃から非正規雇用で働いていました。平成10年8月分からは国民年金保険料を納付し始め、平成12年5月までの22ヶ月は納付。

平成12年6月にサラリーマンの男性と婚姻し、平成23年2月までの129ヶ月間は国民年金第3号被保険者。

その後、平成23年3月に東日本大震災で夫が仕事中に行方不明になり、亡くなったのかどうかもわからないままとなりました。

3ヶ月経ってもその生死がわからなかったため、死亡したものと推定されるとして平成23年3月11日を死亡推定日としてその翌月分から遺族厚生年金をA子さんは請求する事になりました。

船舶、航空機の事故で3ヶ月生死がわからない場合は事故日に死亡したものと推定して、事故日を死亡日として遺族年金を発生させますが、東日本大震災も対象となりました。

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A子さんの夫の平均標準報酬額は平成15年度前はとりあえず30万円の100ヶ月とし、平成15年4月から平成23年2月までの95ヶ月間は45万円とします。子はいないものとし、A子さんは夫死亡推定時45歳とします。

〇死亡日平成23年3月11日推定。

3ヶ月間生死がわからない、もしくは遺体が見つかってもいつ死亡したかわからない場合は事故日に死亡したものと推定します。

・平成23年4月分からの遺族厚生年金→(30万円×7.125÷1,000×100ヶ月+45万円×5.481÷1,000×95ヶ月)÷195ヶ月×300ヶ月÷4×3=(213,750円+234,313円)÷195ヶ月×300ヶ月÷4×3=516,995円

・夫死亡時の中高齢寡婦加算(妻は夫死亡時に40歳以上の場合)→596,300円(令和5年度価額)

よって、遺族年金総額は516,995円+中高齢寡婦加算596,300円=1,113,295円(月額92,774円)

事故日の3月11日から3ヶ月のgに請求可能になるので、その請求により遡って事故日の翌月分からの支払いになります。

※ 参考

死亡を推定している(恐らく死亡したと考えられる…)だけなので、もし生存が確認された場合はそれまで受給してきた遺族年金は返済する必要があります。ただし、年金の時効が5年なので最大でも5年分の年金を返済する事になります。

10年間貰ってきて、その時に夫の生存が確認されたら死亡の推定を取り消して、時効の5年分約500万円ほどを返済。

あと、中高齢寡婦加算額は老齢基礎年金満額795,000円の4分の3の額596,250円を100円未満四捨五入した額―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年5月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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