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プーチン失脚は近い?自国の民間軍事会社トップに「じいさん」呼ばわりされる独裁者

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者・プリゴジンが、プーチンに対してとんでもない発言をしたそうです。もともとプーチンと親交の深かった彼がなぜ?無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが解説します。

プリゴジンがプーチンを【完全な下衆野郎!】と呼んだ

ウクライナ侵攻がはじまる前、日本の一般人は、「ロシアの政治家」で知っている人は、「プーチンだけ」だったでしょう。その次がメドベージェフ前大統領でしょうか。

ところが、ウクライナ侵攻が長引くにつれ、ショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長などの知名度も上がってきました。

しかし、最近、日本のニュースにもっとも頻繁に登場するのは、民間軍事会社「ワグネル」の創立者プリゴジンでしょう。

プリゴジンとは何者か?

エフゲニー・プリゴジンは1961年、レニングラード(今のサンクト・ぺテルブルグ)で生まれました。生まれは、プーチンと同じ場所です。1980年代は、強盗、詐欺などの容疑で、ほとんどの期間刑務所にいたそうです。

1990年、ホットドック販売を開始し大成功。90年代初めには、こういう意外な商売で成功する人がたくさんいました。たとえば「クレムリンのゴッドファーザー」といわれたベレゾフスキーは、「ジーンズ販売からはじめて富を築いた」といわれています。

ちなみに、ソ連時代「ホットドック」というのは、存在しませんでした。ソ連崩壊後、めずらしさもあって大流行したということでしょう。

プリゴジン、その金を元手に、スーパーチェーン、カジノ、水上レストランなどを設立していきます。プーチンは1992年サンクト・ペテルブルグ市の副市長になっていました。プリゴジンは90年代に、プーチンと知り合ったのでしょう。

プリゴジンの水上レストラン「ニューアイランド」は評判がよく、プーチンが、フランスのシラク大統領や、アメリカのブッシュ大統領を連れてくるほどになりました。それで、今に至るまで、プリゴジンのあだ名は、「プーチンのシェフ」(ポーヴァル・プーティナ)です。

プリコジンは、プーチンとの個人的な関係をフル活用して富を蓄積していきます。プリコジンの会社は、学食やロシア軍に食事を提供する権利を獲得して、大儲けしました。

しかし、プリコジンを世界的に有名にしたのは、民間軍事会社「ワグネル」の創立者としてです。彼が「ワグネル」を設立したのは2014年。この年の3月、ロシアはウクライナからクリミアを奪いました。

4月になると、ルガンスク、ドネツクの親ロシア派が独立を宣言。ウクライナ政府は当然これを容認せず、内戦が勃発しました。プリゴジンはこの年、ワグネルを作り、ルガンスク、ドネツクに戦闘員を送り込んだのです。もちろん、プーチンの命令で作ったに違いありません。

ちなみにロシアで民間軍事会社は違法です。そのため、ウクライナ戦争がはじまるまで、大っぴらにその存在が語られることはありませんでした。しかし、ワグネルはその後、中南米やアフリカ諸国、シリアなどにも傭兵を送るようになった。それで、ロシア研究者や世界中の諜報機関は、その存在を知っていたのです。

2022年2月24日、ロシアがウクライナ侵攻を開始。ロシアの国営メディアは、「2~3日で首都キーウを陥落させて特別軍事作戦は終わる!」とはしゃいでいた。ところが、戦争はプーチンの予想を裏切って長期化し、世界中の人が、「ロシア軍は軍事力世界2位というが、案外弱い」ということを知ったのです。

ロシアの正規軍はだらしない。そんな中、ウクライナ軍を苦しめているのが、プリゴジン率いる「ワグネル」です。

プリゴジンは、正規軍のだらしなさに対する憤りと、自分が大活躍しているという驕りから、次第に増長するようになっていきました。

昨年の11月には、「ゼレンスキーは現在ロシアに敵対する国の大統領だが、ゼレンスキーは強く、自信があり、現実的で、いいヤツだ」と発言しています。これは、ロシアの「公式見解」とは全然違います。

ロシア政府や国営メディアは、ゼレンスキーについて、「ネオナチの麻薬中毒者」と定義している。ところが、プリゴジンは、「強く、自信があり、現実的で、いい奴」といっている。この発言から、プリゴジンが、プーチンへの恐怖心を失っていることがわかります。

戦場で活躍するプリゴジンとワグネル。その一方で、ロシア軍の弱さとだらしなさを批判するプリゴジン。ロシアの支配者層は、プリゴジンを恐れ、疎ましく思っているようです。そして、彼からバカにされているロシア軍との関係も、また悪いのです。

プリゴジン、プーチンは【完全な下衆野郎】! 

そんなプリゴジン、最近ついに【プーチン自身】を非難するようになってきました。以下の映像は、ドイツの国際放送DWのニュースです。

● Пригожин против Путина и Шойгу: кого основатель ЧВК считает “дедушкой” и “му**ком”. DW Новости
https://www.youtube.com/watch?v=VYimjrLQc8U

この5分30秒頃からプリゴジンの発言が流れます。何をいっているのか?

<国をどうするのだ?俺たちの未来の子供たちや孫たちをどうするのだ?どうやって、戦争に勝つんだ?もし、たまたま、私はただ仮定するだけだが、このじいさんが、【 完全な下衆野郎 】だったら。>

プリゴジンは、プーチンのことを「じいさん」と呼んでいます。そして、「【 完全な下衆野郎 】だったらどうするんだ」といっています。この【 完全な下衆野郎 】という部分、ロシア語では、「ザコンチェンニー ムダック!」と呼んでいます。

これ【 完全な下衆野郎 】と訳していますが、本当は、この訳で「正確」とは言えないんです。私は、28年のモスクワ生活で、一度も言ったことも言われたこともない言葉です。日本語には存在しないほど、ひどい言葉だからです。

プーチンは、プリゴジンのこの言葉を聞いたら、きっと大いに激怒することでしょう。

ロシアの勢力図を見ると、自由、民主主義、人権、言論の自由などを重視するナワリヌイなどリベラル派は壊滅状態です。戦争推進派がロシアを支配している。

しかし、これまでプーチンを支持していた戦争推進派が、幻滅しています。それは、プーチンが、ウクライナに勝てないからです。そして、プーチンに愛想をつかした極右勢力が、最前線で勇敢に戦うプリゴジンを支持するようになっています。

ただ、そんなプリゴジンも、ロシアの現システムの中にいる。プーチンを直接罵倒した彼は、これからどうなっていくのでしょうか?

「ワグネル」は、バフムトで唯一まともに戦っている勢力なので、今はお咎めなしかもしれません。しかし、戦争が終われば、プリゴジンは粛清対象になるでしょう。

ですが、「その前にプーチンが失脚する」という可能性もかなりあります。モスクワからは、プーチンと、実質ナンバー2パトルシェフ安全保障会議書記が「対立している」という声が聞こえてきます。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年5月11日号より一部抜粋)

image by: Harold Escalona/Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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