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「武器支援」ができない岸田首相の功績は?G7広島サミットは成功だったのか

21日に閉幕したG7広島サミット。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、「G7広島サミットは成功だったか?」をテーマに、自身の見解を述べています。「核なき世界」は実現するのでしょうか?

G7広島サミットは成功だったか?

今回は、G7広島サミットについて考えてみましょう。

「核なき世界」について

サミット、表のテーマは「核なき世界」でした。G7の首脳が、原爆資料館を訪れ、慰霊碑に献花し、核軍縮に関する「広島ビジョン」が発表された。

世界の現状を考えると、一見「無意味なこと」にも思えます。

プーチンが、核使用の可能性に言及し、ウクライナと欧米を脅迫している。こんな状況で、G7の核保有国アメリカ、イギリス、フランスが核軍縮できるとは思えません。

とはいえ、長期的に見れば、「とても意味あること」かもしれません。

1800年にアメリカで、「黒人奴隷はいなくなりますよ」といえば、「愚かな夢」と思われたでしょう。しかし、奴隷はいなくなりました。

1900年に「植民地をなくしましょう!」といえば、「ありえない!」とバカにされたでしょう。しかし、植民地はなくなりました。

1919年、日本はパリ講和会議で、「人種差別撤廃」を訴えました。国際会議でこういう主張をしたのは、日本が初めてです。当時、誰が「人種差別のない世界」を想像できたでしょうか?しかし100年経った今、人種差別は、かなり減りました。

黒人と白人のハーフがアメリカ大統領になる。黒人と白人のハーフが、イギリスの王子と結婚する。

だから、「核兵器のない世界」を夢見るのもいいことです。

今は難しくても、50年後、100年後には実現できるかもしれません。その時、広島サミットでG7の首脳がそろって原爆慰霊碑に献花した写真が、歴史の教科書に載っているかもしれません。

私たちは、リアリストですが、ただのリアリストではありません。「『理想を目指す』リアリスト」です。だから、「核なき世界」をG7のテーマに掲げてもいいでしょう。

裏メインテーマはウクライナ

しかし、実質的メインテーマはウクライナでした。

世界には現在、3つの大問題があります。

1つは、ウクライナ―ロシア問題。2つ目は、台湾―中国問題。3つ目は、北朝鮮問題。

しかし、この中でウクライナ―ロシア問題は、別格です。リアルな戦争が1年以上も続いているのですから。

そして、ウクライナ問題は、「台湾問題に巨大な影響を与える」という意味で重要です。どういう意味でしょうか?

ロシアがウクライナに勝利したら、どうなるでしょうか?習近平は、「プーチンは、日本、欧米から支援を受けるウクライナに勝った。それなら、中国が台湾に侵攻しても勝てるだろう。日本、欧米恐れるに足らず!」と考え、台湾侵攻の可能性が高まります。

逆に、ウクライナがロシアに勝ち、プーチンが失脚したらどうでしょうか?習近平は、「日本と欧米の支援によって、ウクライナはロシアに勝った。中国が台湾に侵攻すれば、勝てないかもしれない。俺も、プーチンのように失脚するかもしれない」と考え、台湾侵攻の可能性が減ります。要するに、

・ロシアが勝てば、台湾侵攻の可能性が高まる
・ウクライナが勝てば、台湾侵攻が減る

ということで、日本は、ウクライナを助けることで、「台湾侵攻を阻止する戦い」をしているのです。

日本は、なぜウクライナを支援しつづけるのか?日本が、中国との戦争を回避するためなのです。

一枚岩ではないG7

G7は、自由、民主主義、言論の自由、信教の自由、人権などの価値観を共有しています。そして、「ウクライナ支持」で一体化しているように見えます。

しかし、内実を見れば、「一枚岩」とはいえない状況がある。たとえば、ドイツ、フランス、イタリアなどは、「多少ウクライナの領土をロシアに譲っても、はやく停戦に持ち込みたい」と考えがち。

ドイツは、戦争が始まる前、天然ガスの55%をロシアに依存していました。それを1年で、「依存度ほぼゼロ」まで持っていった。すごいことです。

しかし、ロシア産の安いガスが買えなくなったことで、高いLNG(液化天然ガス)を輸入することになった。結果、ドイツ国内のエネルギー価格が暴騰しました。国民の中には、「なぜ俺たちは、ウクライナのために、ここまで犠牲にならなければいけないのだ!」と不満を持つ人がいます。

そして、ロシアと陸続きの大陸欧州の国々は、ロシアが世論工作をしやすいのです。

ウクライナ支援の中核は、アメリカとイギリス。アメリカは、どうでしょうか?トランプさんは、大統領に返り咲いたら、「最優先でウクライナ支援を止める」と宣言しています。テレ朝ニュース3月5日。

<「アメリカ・ファースト」を強調するトランプ前大統領が演説を行い、大統領に返り咲いたら真っ先にウクライナ支援を停止するなどと述べ、自身への支持を訴えました。>

トランプさんは、よくも悪くも「有言実行」の人。だから、彼が再び大統領になれば、本当にウクライナ支援を止める可能性が高いです。ゼレンスキーに残された時間は、長くないのかもしれません。

すばらしかった岸田外交

さて、岸田さんは3月、ウクライナの首都キーウを電撃訪問しました。その時、「ウクライナの美しい大地に平和が戻るまで、日本はウクライナと共に歩んでいきます!」と決意を語りました。そして岸田さんは、約束を守ったのです。

ゼレンスキーが訪日した。そして、G7の首脳たちとリアルに会談することができた。バイデンは、戦闘機F16をウクライナに供与することを、容認することにしました。つまり、欧州の国々がウクライナにF16を供与することに反対しない。ウクライナにF16が入ってきます。

また、ゼレンスキーはインドのモディ首相と会談しました。二人ががっちり握手した姿は、インド首相官邸ツイッターで世界に拡散された。「中国とインドがいるから孤立していない」と主張するプーチンは、衝撃を受けたことでしょう。

ゼレンスキーは5月21日、岸田さんと会談した時、以下の発言をしました。

「今回は総理の招待で初めて対面で(G7サミット)に参加することができて大変うれしく思っている」

「ウクライナの主権と領土の一体性、ウクライナの人たちに対する支持を表明してもらい、一生忘れない」

「一生忘れない」そうです。

平和主義を掲げる日本は、ウクライナに武器支援ができません。しかし、岸田さんは、G7の国々が、一体化してウクライナ支援を継続する決意を固める場を創ったのです。実にすばらしい活躍でした。一日本国民として感謝したいです。

ウクライナでは、反転攻勢がはじまっているようです。ウクライナが勝利し、習近平が「やはり台湾侵攻は無理だ」となる未来を願いましょう。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年5月24日号より一部抜粋) 

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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