ゼレンスキーを支持率稼ぎに利用した岸田の強か
…そんなわけで、リモート参加の予定だったウクライナのゼレンスキー大統領の訪日によって、完全に主役の座を奪われてしまった岸田文雄首相でしたが、岸田首相も十分にゼレンスキー大統領を支持率稼ぎに利用できたと思います。それは、岸田首相らしからぬ強気の発言の数々から伝わって来ました。
議長の岸田首相は、「G7とウクライナの揺るぎない連帯を示すとともに、法の支配に基ずく自由で開かれた国際秩序を守り抜く決意を新たにするとのメッセージを力強く示せた」などと、ウクライナとの連携、つまり、ロシアとの対決姿勢を強調したのです。閉幕後の会見でも、「対ロシア制裁を維持・強化し、その効果を確かなものとするために、(ロシアによる)制裁の回避・迂回防止に向けて取り組みを強化していく」と、ロシアを名指しで敵対視しました。しかし、本当にこれで良かったのでしょうか?
ゼレンスキー大統領としては、G7の強い援護射撃を再確認できただけでなく、バイデン大統領から「EUの同盟国からのF16戦闘機の供与を容認する」という言質が取れたのですから、これだけでも大成功でした。その上、グローバル・サウスを束ねるインドのモディ首相と対面できたのですから、これも棚ボタです。
ロシアとのパイプも大切にしているモディ首相ですから、「紛争の解決方法を見出すために協力する」、つまり、「ウクライナの味方をする」ではなく、あくまでも「和平の仲介に寄与する」と述べただけですが、G7という場がなければ実現できなかった対面ですから、これは大きいです。
ま、インドの外交は、ヒンドゥー教の最高神シヴァの三面神のように、1つの顔はアメリカや日本を始めとした西側諸国の方を向きながら、別の顔はロシアの方を向いており、3つめの顔が周辺のグローバル・サウスに向いているのです。これが一番賢いやり方でしょう。
しかし、G7以外の招待国がどのように動こうとも、主役はG7であり、所詮は「西側諸国の西側諸国による西側諸国のためのサミット」なのです。議論は西側諸国の利益を最優先したシナリオに沿って進められ、その結果、「休戦や和平のための橋渡し」を模索したのではなく、ロシアを名指しで煽って火に油を注いだのです。「ドラクエ4」の作戦コマンドで言えば、「いのちだいじに」ではなく「ガンガンいこうぜ」を選択したわけです。そして、岸田首相が掲げた「核なき世界」というご立派なお題目とは、完全に正反対の方向へ進んでしまったのです。
2016年5月の「G7伊勢志摩サミット」の時、当時のバラク・オバマ大統領は、現職のアメリカ大統領として、初めて被爆地の広島を訪問し、広島平和記念資料館などを視察しました。そして「歴史的な出来事」だと報じられました。しかし、オバマ大統領が広島平和記念資料館に滞在したのは僅か10分だけ。それも、東館の「導入展示」を見ただけで、本館の「被爆の実相展示」は見なかったのです。
しかし今回は、イギリスのスナク首相が、3歳で原爆の犠牲になった鉄谷伸一ちゃんの焼けた三輪車やボロボロになった学生服などを見たと明かし、「ここで起きたことを忘れてはならない」と述べました。これは本館の「被爆の実相展示」なので、今回の各国首脳らは、本館へも足を運んだようです。この点だけは、表面を取り繕うだけの安倍晋三元首相とは違い、きちんと仕事をした岸田首相を評価したいと思います。
ただし、「被爆の実相展示」を見たのに、それでも核軍縮への具体的な道筋を示せなかったどころか、自分たちの核だけを正当化してロシアを挑発する始末。絶対に逆らえないバイデン大統領がいるだけでなく、ゼレンスキー大統領の訪日で舞い上がっちゃったのかもしれませんが、今回、終始コーフン気味の岸田首相を見ていたら、ジャイアンの後ろに隠れて相手にケンカを売るスネ夫の姿が重なりました。
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