MAG2 NEWS MENU

世界の分断にいっそうの拍車。G7広島サミットで分かった危機的な国際情勢

ゼレンスキー大統領の電撃来日を含め、岸田政権にとって想定以上の追い風となったG7広島サミット。一方でこのサミットは、国際社会におけるさまざまな「歪み」をも顕在化させてしまったようです。外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏は今回、広島サミットが世界の分断を進めることとなってしまった理由を解説。さらにこの先、G7自体が内部崩壊に行き着く可能性を指摘しています。

G7広島サミットから、国際情勢の「何が分かった」のか?

厳重な警備が敷かれる中、G7広島サミットが平和裏のうちに終わった。今回のサミットで最も印象的だったのは、言うまでもなくウクライナ・ゼレンスキー大統領の広島訪問だ。ロシアによる核使用の現実的脅威に直面するウクライナの大統領が、核を投下され壊滅的被害を受けた広島を訪問したことは、世界の歴史上も極めて象徴的な出来事となった。ゼレンスキー大統領が広島を訪問した理由は、正に“被爆地広島から被爆地になる恐れのあるウクライナの大統領として、被爆の加害者となる恐れのあるプーチンをけん制する”ことだった。

そして、もう1つの理由は、対ロシアで現在も態度を明確にしない国々に対して、ウクライナへの理解を求めることだった。広島に到着したゼレンスキー大統領はインドやインドネシア、ベトナムなどいわゆるグローバルサウスの国々と次々に会談し、対ロシアで協力するよう呼び掛けた。今回のサミットにはG7諸国だけでなく、こういったグローバルサウスの国々が多く参加しており、ゼレンスキー大統領にとっては短期間で多くの指導者たちと対面で会話できるというメリットがあった。今回の訪問には少なくとも上記2つの理由がある。

世界の分断をいっそう進めることとなった広島サミット

だが、今回のG7サミットは世界の分断がいっそう進んでいることも露呈した。まず、広島サミットの共同声明では、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの非難は当然として、中国へも強い懸念が示された。東シナ海や南シナ海における海洋覇権などに加え、中国が経済依存関係を武器化して経済的威圧を行っており、それに対抗するため新たな枠組みを創設していくことでG7が一致した。中国は一連のG7サミットに反発し、在北京の日本大使を呼び出して抗議し、米国へは半導体関連で経済的威圧を行った。

また、中国はG7と時を合わせるかのように、陝西省西安市で5月18~19日にかけて、中央アジア5カ国とともに「中国・中央アジアサミット」が開催し、習国家主席が5カ国と経済的関係を結束させていくことを表明した。さらに、その後ロシアの首相が北京を訪問して習国家主席と会談し、中露の協力を強化させていくことで一致するなど、G7は対中露包囲網のような様相を呈している。中露両国もG7に対抗していく意思を鮮明にしており、今回の広島サミットは世界の分断をいっそう進めることになった。

「大国間対立をグローバルサウスに持ち込むな」という怒り

また、広島サミットではG7とグローバルサウスとの乖離も鮮明となった。当然ながら、グローバルサウスといっても国によって考え方は異なり、中国寄りの国もあれば、欧米寄りの国もある。しかし、グローバルサウスで広く共有されているのは、大国間対立をグローバルサウスに持ち込むなという怒りの声だ。

広島サミット後、ブラジルのルラ大統領はG7サミットで「ウクライナ問題を議題にするべきではなかった、戦争の話は国連でするべきだ」との認識を示した。日本国内にいると驚くような声だが、こういった声は決して珍しくない。ブラジルは中国やロシアと農産物やエネルギーの分野で関係を強化しており、距離的にもウクライナ問題は対岸の火事であり、おそらく他の中南米諸国も同じような考えを持っていることだろう。ここに、G7とグローバルサウスの考えからの違いがある。

マクロンが中国で漏らした欧州の本音

また、G7諸国の中でも意見の違いがないわけではない。たとえば、フランスのマクロン大統領は中国に対する共同声明策定の際、中国との経済関係でリスクは低減できても切り離すことはできないとして、中国への懸念を抑える表現にするよう要請したという。G7サミットの直線、EUも切り離しを意味するデカップリングではなく、リスク低減を目指すリスキリングが現実的な選択肢だとの認識を示しており、中国に厳しい姿勢を貫く米国とは少なからず対中認識で距離がある。

ブラジルと同じように、日米と違い、欧州は中国の軍事的脅威に直面していない一方、中国との経済関係が極めて深い。サミット前、マクロン大統領は中国を訪問した際に国賓級の待遇を受け、緊張が高まる台湾問題についても、欧州は台湾で米中どちらにも追従するべきではないとの認識を示したが、これが欧州の本音とも言えよう。今回のサミットでは対中国でG7の中でも温度差があることが鮮明となった。

危惧されるG7の内部崩壊

以上のように、結果として広島サミットは世界の分断にいっそう拍車を掛けることになった。G7は以前、世界秩序を主導する立場にあったが、今日ではその姿はない。共同声明にあるのは対立国に向けての攻撃的メッセージであり、G7は既に対中露対抗網と化している。この姿は今後一層顕著になり、その存在意義は薄まり、最終的には内部崩壊しないかを筆者は危惧している。

image by: 首相官邸

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け