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クーデターで「プーチン暗殺」の可能性も。今ロシアに起こりうる4つのシナリオ

誰もが実行に移すとは想像しなかった、民間軍事会社ワグネル代表のプリゴジン氏による武装反乱。ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介によりワグネルの進軍は停止しましたが、プーチン政権にとって大打撃となったことに間違いはありません。今後ロシア情勢はどのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、考えられる4つの有力なシナリオを紹介。軍幹部による「プーチン大統領暗殺」の可能性も指摘しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年6月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

宮廷クーデターでプーチン暗殺か。ロシア情勢4つのシナリオ

ロシア情勢は、とにかくワグネルの反乱という予想外の事態となり、アメリカ東部時間の土曜日はケーブルTVのニュース専門局などは、完全にブチ抜きの特番体制になっていました。土曜日24日の昼の時点では、とにかくワグネル軍が国道をモスクワへ向けて北上進軍を続けており、爆発する軍施設、ワグネル軍を歓迎する市民など、様々な映像が展開されていました。

一部には、プーチン大統領の専用機がモスクワを離れてサンクト・ペテルブルグへ向かったとか、更にはその機影がレーダーから消えたなどという、怪情報も飛び交っていました。また、ワグネルのプリゴジン代表が、ロシア南部の軍の要衝、ロストフ・ナ・ドヌを占拠したと伝えられた時点では、プリゴジンはロシアのショイグ(国防相)とゲラシモフ(参謀長)を呼び出したという情報も流れていました。

ちなみに、これも根拠のない話ですが、この時点では、以下のような陰謀論が流布されていたのも事実です。

「プリゴジンとプーチンは裏で繋がっており、今回の一件はショイグとゲラシモフを失脚させ、敗戦の責任を負わせるとともに、西側に戦犯としてこの2名を突き出して、一気にウクライナ停戦と、プーチン政権の延命を企図したもの」

いかにも、「まことしやか」な説ではあります。ですが、その後に事態は急展開して、

「プーチンは反乱に参加したワグネル構成員を起訴しない。プリゴジンは進軍を停止してベラルーシに向かう」

ということとなり、ワグネルの反乱はとりあえず終結した格好です。それとは別に、今回の動きですが、直前に「習近平=ブリンケン会談」が北京で行われていたのが気になります。

ブリンケンは、秦剛と王毅には会ったもの習近平に会えたのは最後だとか、折角、ブリンケンが習近平と会談できたのに、バイデンが「習近平は独裁者」などという不規則発言をしたために、中国としてはいつもの「強烈な不満」を表明せざるを得なくなっています。ですが、もしかしたら、こうした動きは「国際世論への目眩まし」であって、ブリンケンは北京に対して「ウクライナ戦争の出口戦略」について実務的な確認に行った可能性は否定できないと思います。

その内容ですが、

a)ロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナ軍の反攻、ロシア側の消耗により最終局面
b)ロシア政権内部に動揺。ショイグとゲラシモフの権力基盤揺らぐ
c)ワグネルの動向が不気味

といった点について情報交換が行われた可能性が否定できません。その場合ですが、公式ルート以外の情報収集力としては、やはり米国の方が勝っており、その情報を提供することで、中国にメリットを与えつつ「出口戦略」への協力を要請した可能性はあると思います。

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ブリンケンがこのタイミングで習近平に囁いた内容

あるいは、中国の場合は巨大な不動産の不良債権化に苦しむ中で、コロナ後の爆発的な成長力回復を実現して、不良債権処理を進めたいという意向を持っているのかもしれません。そう考えると、いつまでもプーチンによる原油高の継続という事態が続くのは困るはずです。

ですから、今回のロシア内部の動揺を絶好のタイミングとして、ウクライナ和平へと動いて欲しい、ブリンケンは習近平にそのように囁いた可能性はあると思います。この点に関しては、単純に考えると、バイデン政権としては、岸田政権と同じように「ウクライナ戦争が継続して、自分たちが自由と民主主義の正義の味方」という状態が続く中で、選挙をやりたい、つまり23年後半の日本の総選挙なり、24年11月の米大統領線の時点まで「戦争がくすぶっていたほうが有利」という判断をしている可能性はあります。

ですが、それはあくまでバイデン周辺だけの計算であって、もっと強力な民主党政権を期待している向き、つまりバイデン路線を一旦崩壊させて、もっと若い世代でもっと現実的な民主党政権を作りたいという思惑は、党内には静かに拡大しています。

例えば、カリフォルニアのニューサム知事を担ごうという思惑もまだありますし、最近バイデンの次男のスキャンダルが大きく報じられるのと並行して、ハリスのメディア露出が強化されているのも事実だと思います。そして、仮にハリスへの禅譲が起きた際には、ハリスはウクライナ戦争を継続しつつ選挙に臨むよりも、戦争を終結させて改めてトランプ周辺とロシアの癒着を断罪する方向を選びそうな気配もあります。

そんな中で、ブリンケンは自身の大局観の延長で、習近平と「ウクライナ和平戦略」を協議した可能性はあると思います。タイミングが全てを物語っています。6月のこの時期に、急遽ブリンケンが訪中したということは、この話題がなければ考えにくいからです。

一方で、米中の国防相同士の閣僚級会談については、中国は頑強に拒否しているようです。これは、表面的には米国が中国軍幹部に対して個人的な制裁を解除しないので、中国側はメンツの問題として不可能としています。ですが、この問題の背景には、中国軍の中枢がプーチンの調略を受けている可能性があり、アメリカとしては譲れないのかもしれません。ロシア=ウクライナ問題への中国の関与ということでは、あくまで「トップ外交による和平仲介」と、巨額な資金投下による「戦後復興への引きずり込み」という2点に絞っての話と見ておくのが良さそうです。

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プリゴジン暗殺は確実か。ロシアに起こりうる4つのシナリオ

話を直近の情勢に戻しましょう。ちなみに、本号につきましては、配信はいつも通りですが、原稿の締切を編集体制の中で繰り上げざるを得ない事情がありまして、配信の5時間前(編集部注:日本時間27日午前1時50分)以降の動向は反映できていません。従いまして、配信直前に情勢が大きく動いた場合は、皆さまの方で補完しつつお読みいただければと思います。

当面のシナリオとしては、4つが考えられます。

1)プーチンは、とりあえずロシア正規軍がワグネルに寝返るのは止めることができた。その絶妙なタイミングで、ルカシェンコと共謀してプリゴジンに進軍を諦めさせ、ベラルーシ亡命とワグネル兵士への恩赦という「手打ち」をした。だが、当然反逆者のプリゴジンを生かす訳はなく、早々に暗殺する。ただ、プーチンのショイグ、ゲラシモフへの信頼も更に揺らぎ、プーチン政権はゆっくりと崩壊へ向けて進む。その中で、タイミングを見極めて習近平が和平を仕掛ける。

2)これは 1)のバリエーションで、プリゴジンは暗殺。プーチン政権は延命する中で、ショイグとゲラシモフが「身の危険」を感じて、「朴正煕暗殺のようにプーチンを宮廷クーデタで葬る」または「これを察知したプーチンが2人を処刑」あるいは「ゲラシモフがプーチンに忠誠を誓ってショイグを暗殺」というような宮廷内部の抗争が具体化する可能性。

3)プリゴジンの進軍を停止させたのはルカシェンコの深謀遠慮で、ルカシェンコは「ポスト・プーチン」の切り札として、プリゴジンを利用する計画。改めて、北からのウクライナへの攻勢を強化して、プリゴジン=ルカシェンコは、ウクライナを痛みつけつつ、時間を稼いでプーチンを隠居へ追い込む(二人は犬猿の仲とはいえ、昨日の敵は今日の友、になるのかも)。

4)改めてロシア正規軍に合流した元ワグネル兵士(相当数が流刑者など)が、厭戦気分を正規軍に伝染させて、戦況が更にロシアに不利に。そのタイミングで、習近平が和平仲介。

どれも可能性はありそうです。例えばですが、プリゴジンを即時に暗殺して、プーチンが正規軍を強化し、改めてウクライナ戦線を立て直すというのもゼロではありませんが、これは可能性としては低いのではと思われます。

いずれにしても、動きが急ですので注意して見て参りたいと思います。

それはともかく、この間の動きによって仮にウクライナ情勢が和平に向かうとして、そう簡単に安心はできません。もう少し大局的な観点から考えると、この1年強の戦争によって、第二次大戦後の国際平和をある程度は維持してきた「枠組み」や、当面の国際社会の安全を保障する仕掛けが、壊されているからです。

6点、問題提起をしておきたいと思います。

1点目は、戦時国際法と戦争犯罪の問題です。今度という今度は、戦闘の極めて初期の段階から、戦争犯罪に関しては証拠の保全に成功しているわけです。この証拠を利用することで、正しい断罪、つまり責任を果たすべき人間には果たしてもらうことで、将来への抑止力となるような透明性と説得力のある戦争法廷が必要です。

2点目は、核不拡散という問題です。人類社会はIAEA(国際原子力機関)を作り、核拡散防止条約の枠組みを運用してきました。今回の核兵器のベラルーシ配備は、この体制を真っ向から否定するものであり、撤回させることが必要です。ここで既成事実を重ねることは、北朝鮮への悪しきメッセージにもなるわけで、かなり優先順位の高い話になると考えます。

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実は加盟国から歓迎されていない岸田のNATO接近

3点目は、ロシアの「国のかたち」問題です。最低でも、旧ソ連の独立共和国は独立を確定しないといけません。ウクライナ、ジョージアの主権をより強固に確認すること、バルト三国の地位を更に強固に保全すること、ベラルーシとロシアの合邦も止めさせることが必要です。

4点目は、改めて脱化石燃料を加速する必要性です。ドイツがロシアの天然ガスに依存してしまう問題があり、日本もサハリンのLPGプロジェクトから「抜けられない」というのは、やはり原子力の平和利用を精度を高めつつ強化する努力を怠って来たからです。この点を反省するタイミングと思います。

5点目は、西側として「自身の行い」を反省すべきということです。そもそも、正規軍だけでは戦争遂行に支障が出る場合に「民間軍事会社」などを活用するというのは、アメリカが本家であり(フランスも)、例えばイラク戦争当時のハリバートンなどの例があるわけです。また、劣化ウラン弾にしても、米を中心に既成事実化しており、今回は英国がウクライナに供与するなどという話にもなっています。こういうことを続けていると、ロシアの非人道性を批判する論拠が崩壊してしまいます。西側としても、このタイミングで猛省すべきです。

最後に6点目としては、西側同盟の結束という問題があります。現在は情勢があまりに流動的なために、同盟に動揺が生まれています。例えば、岸田総理はNATOの事務所を誘致する、あるいは自分がNATOの会議に出席するという動きをしていますが、決してNATOの加盟国からは歓迎されていません。

どうしてかというと、日本がNATOに接近しすぎると、アジアでの戦争に欧州が巻き込まれるからで、そうした事態を懸念するのは当然のことです。では、どうして岸田総理が欧州の戦争であるウクライナ戦争に肩入れするのかというと、自由と民主主義という「正義の側」につくことが安全を高めるという直感があるからです。

とにかく、日本の場合は日本から見た西側同盟というもの、またアメリカの民主党政権から見たら西側同盟をどうしたいのか、あるいは共和党は何を考えているのか、そしてマクロンやスナクはどう考えているのか、もっともっとホンネの部分での同盟の結束強化ということに取り組む時期であると思います。

いずれにしても、プリゴジンが進軍中止とベラルーシへの亡命を宣言した以降は、消息を絶っているという中で、事態は相当に速いペースで進展してゆくことが考えられます。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年6月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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