わずか1日で収束を見た、民間軍事会社ワグナーを率いるプリゴジン氏の武装反乱。しかしプーチン政権にとってその影響は、とてつもなく大きなものとなってしまったことは間違いない事実のようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、刻々と変化するウクライナ戦争の戦況を取り上げ今後の展開を予測。さらに露軍内で始まったプリゴジンの乱の「協力者」に対する粛清が、「第2の武装蜂起」を引き起こすトリガーになる可能性を指摘しています。
プリゴジン反乱後の粛清
ウ軍は、本格的な攻勢のフェーズで、バフムト、ドネツク市北部、ザポリージャ州、ヘルソン州でわずかであるが前進している。前哨ロ軍陣地を抜け始めている。
ウ軍攻勢時に、ロシア国内でプリゴジンの反乱があり、ロシアはロ軍内の粛清を始めた。この影響も出始める可能性が出ている。
バフムト方面
ウ軍はバフムト北西郊外で最強ロ軍空挺部隊は、国内治安維持に回されたようであり、ロ軍はバフムトで攻撃しなくなった。ウ軍は、ザリジネンスクに攻撃して、ロ軍を引き付けて、M03号線をパラスコビウカ方向に攻撃している。
ウ軍は、高台にあるトボボバシュリフカへの攻撃をやめて、トボボバシュリフのロ軍を包囲するようである。ここのロ軍はボダニウカ方向に攻撃して、ウ軍をけん制している。
ウ軍はベルキウカやそれより東のパラスコビウカに攻撃している。
市内からはウ軍は撤退している。威力偵察で市内に入ったが、大きく前進して、市内中央部まで前進できたが、ロ軍砲撃があり、装備も脆弱であり、一旦後方に退いた。
バフムト南西のウ軍独立第24突撃大隊と第3突撃旅団はクリシチウカ方向に攻撃している。西側最後のロ軍陣地を制圧したことで、今後、市街戦に移ることになる。
ウ軍はクデュミウカの西側で反撃して、運河の西側からロ軍を排除した。ウ軍は運河が地下に入る地点で、運河を超えて、クデュミウ市内方向に攻撃している。
ベルカノボシルカ軸
東側のノボマイロスクやノボドネツクにウ軍が攻撃中であるが、前進できずにいる。
中央では、ウ軍はリビノヒリを奪還後、南に前進しているし、ストロマイオルスクとウロジョイナでも攻撃で前進している。
西側のプリュトネ付近でウ軍は攻撃してるが、前進できずである。
前線に、弾薬と食糧が届かない状況になり、兵士は不満を述べている。
フリアポール軸
フリアポールで、ウ軍は、後方のポリフィーの弾薬庫と補給のための鉄道駅を砲撃で破壊している。
オリヒウ軸
東のノボカルピウカとノボポクロフスクをウ軍が攻撃しているが、前進できていない。
中央のロボティネで、ウ軍は激しい戦闘後、前進している。このロボティネに、トクマクからロ軍は予備兵力を投入し続けている。
カムヤンスク軸
カムヤンスクでは、南にあるピアトハーティキーをウ軍は奪還して、次に南ジェレビヤンキーに向かって攻撃しているが、前進できず。
ヘルソン州方面
ドニプロ川の東岸、アントノフ橋付近のダウに、ウ軍は橋頭保を確保して、工兵隊、砲兵隊、機械化歩兵部隊を送り込む準備をしている。ウ軍特殊部隊は、ダウ村から南にあるコンカ川を渡河する準備をしている。
ロ軍は、これに対して、TOS-1攻撃やイスカンデル弾道弾攻撃をしている。これで、ロシア側は、ウ軍の30人を殺したという。それとコンカ川付近で逆襲をしたが、ウ軍に撃退されている。コンカ川の橋を破壊しようとしたが、できなかったことで、砲撃で橋の破壊を試みている。
それと、ヘルソン州へロ軍は部隊を移動させているようであり、他方面での戦力が不足する可能性もある。
クリミアからT-55/T-54を載せた列車が、ヘルソン州方面に向かっているという。
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その他方面
クリミア方面では、クリミアとヘルソン州を結ぶチョンガル橋をストームシャドーで破壊されて、ロ軍はポンツーン橋で代替している。この橋に対しても、ウ軍は対応するという。
クピャンスク・スバトバ・クレミンナ方面では、反乱でロ軍の部隊を国内治安維持に回したが、徐々に戻ってきているために、攻撃が復活してきたが、まだ攻撃力は大きくない。
リシシャンスク方面でも、ロ軍はビロホリフカへの攻撃をしている。ウ軍は、ヤコブリフカ方向に攻撃している。ロ軍はロズドリフカに攻撃をしているが、ウ軍に撃退されている。
アウディーイウカ方面で、ロ軍は要塞に南側から攻撃したが、撃退されている。逆にウ軍砲兵隊は、ドネツク空港のロ軍基地を砲撃で破壊した。
ロ軍は、マリンカとノボミハイリフカに攻撃したが、ウ軍に撃退されている。
トクマク、メリトポリで複数回の爆発が毎日のように続いている。ロ軍の弾薬庫、司令部、武器庫が次々と破壊されているため、前線への補給が滞っている。
このため、ウ軍の反撃に直面しているロ軍兵士は、自分たちは指揮官たちから「子猫のように見捨てられ」、軽火器、少ない弾薬、対砲射撃でウ軍戦車や大砲に立ち向かい、多くの死傷者を出し、医療搬送も用意されていなかったと語る。
それと、ロシアのタタルスタン共和国の石油・ガス生産施設で貯蔵施設が爆発した。ロシア国内での石油・ガス施設も狙っている。パルチザン活動であり、ウ軍工作員がロシア国内で活躍している。
ロ軍はトクマク郊外でトクマック川を堰き止めるダムを建設した。ウ軍の反撃に備えて天然の障害物=氾濫地帯を作り出そうとしているようである。
ロ軍はザポリージャ原発からロスアトム職員やロ軍部隊の多くを移動させているし、契約ウクライナ要員に対して7月5日に退去するよう通告。すでに爆薬を原子炉近くに設置している。何をしようとしているのか疑問である。
そして、ロ軍は東部ドネツク州の主要都市クラマトルスク中心部で27日、ショッピングモールをミサイル攻撃して、少なくとも市民ら11人が死亡、61人が負傷した。死者には子供3人と外国人が含まれていた。
ウクライナの状況
ゼレンスキー大統領は、「勝利への道のりは険しい。私たちがそれをいつ完了できるかは誰にもわからない。しかし、目標が明確で公正であれば、そこに至る道のりがいかに茨の道であろうと関係ない。ウクライナは勝利への道を歩むだろう!そして、これはもはや夢物語ではなく、現実なのだ」というが、米国の方が急いでいる。
米国は、今まで躊躇していたATACMSの供与を検討し始めた。
ウ軍ザルジニー総司令官は、「私たちは、戦略的優位を得ることに成功しており、ウクライナの安全保障・防衛戦力は攻勢行動遂行を続けており、前進している」とした。
さらに同氏は、ロ軍は強力な抵抗をしているが、同時に多大な損耗を出しているとした。また、敵は一面に地雷を敷設することで陣地を維持しようとしていると指摘。加えて、米欧に対し戦闘機や弾薬の支援を加速するよう訴えた。
ウ軍の反転攻勢の進展が予想よりも遅いとの欧米指導者からの指摘に対し、武器が必要だと反発した。この中には、当然のごとく、F-16、A-10などの航空機やATACMSが含まているとみる。
現状の苦戦の大きな理由は、航空勢力の差が大きい。F-16を攻勢前にウ軍に供与すれば、もう少し楽に攻勢を進めることができたはずである。
このため、日本も殺傷兵器をウ軍に供与できるように法律を改正している。日本の弾薬や退役するGMLRSなどをウ軍に供与することになるようだ。
もう1つが、EUは6月29~30日、ブリュッセルで首脳会議を開き、EU内で凍結したロシア資産31兆円をウクライナ復興費用に活用する方向で検討するようである。
フォンデアライエン欧州委員長は、「ロシアによるウクライナの大規模な破壊行為を目の当たりにしている。加害者は責任を負わなければならない」と述べた。
もう1つが、ストルテンベルグNATO事務総長は、すべての同盟国が、戦争後にウクライナがNATO加盟国になることに同意することを保証したという。
戦後の復興や戦後体制を考えるフェーズになってきたようだ。
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ロシアの状況
プリゴジンの乱は、ルカシェンコ大統領の仲介で、大きな内戦にもならずに終結した。
このプリゴジン氏と密接な関係があるスロビキン露航空宇宙軍総司令官が拘束されて、尋問されているという。またスロビキン将軍の副長であるアンドレイ・ユーディン大佐がロ軍から解任された。
プリゴジン氏と関係あるGRUやFSBの関係者も取り調べを受ける可能性があり、プーチンに忠誠を尽くすジョイグ国防相を中心に、取り調べを行うようであり、国防省とFSBやGRUとの関係も緊張した状態のようである。
ロシア大統領府と緊密な関係を持つ政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏は「大規模な調査が始まった」とし、「プリゴジン氏やワグナーと関係のあった全ての軍幹部、当局者は聴取されるだろう」と語った。
このため、ジョイグ国防相を辞任させようとする動きもあり、政権内での緊張が大きくなっているようだ。第2の反乱が起きる可能性もある。
ロシア国内には、重装備のロ軍がいないことも、この反乱で判明した。ということは、ロ軍内で反乱がおきて、モスクワに向かうことになると、阻止するのは、軽装備の国家親衛隊や治安維持警察隊やチェチェン軍しかいないことになる。
このため、次の反乱で、前線に近い重武装部隊の反乱がおきると、ロシアは継戦能力を失うことになる。前線部隊をモスクワまでの道に配備する必要があり、ウ軍との戦闘をする余裕がなくなる。
この中、ウ軍ブダノフ情報総局長は、ロ傭兵集団「ワグナー軍」の戦闘員は今後、ウクライナで戦闘を行わないと発言した。ワグナー軍は解体されて、一部はベラルーシに移り、多くはロ軍と契約や退役になるのであろう。ロ軍の戦闘能力の低下にもなっている。
ロシア国内の戦争体制は、大きく毀損することになる。このため、ロシアでは移民の大量逮捕が毎日続いている。クレムリンは戦争遂行ために、彼らをウクライナ戦地に送る予定だという。
しかし、毎日500名以上の戦死者、その3倍の負傷者を出しているので、月6万人程度の戦線離脱者が出ている。今年1月から6月までに新規志願兵は11万人であるから、2ヶ月で使い切ることになる。このため、前線の兵員不足は大きくなり、第2次大規模部分動員が、7月下旬から8月上旬に実施という噂で、ロシア出国準備をする若者が急増している。徴兵拒否者も多く、兵員不足は慢性的になる。
そのように、プリゴジンの乱は、大きくロシアの国内情勢を変化させている。このため、プーチンは、国内引き締めのために、地方都市の国民に熱烈歓迎を受ける姿を公開し、人気健在ぶりをアピールした。反乱後でも、人気が高まるプリゴジンに対抗するためとみられる。
そのプリゴジンは、ベラルーシとロシアを往復している。ベラルーシには、ワグナー軍野営地と思われる場所に約300のテントがある。そこに約8,000人が収容できる。
この人員で、アフリカでの権益をどう守るかが、次の課題なのであろう。まだ、プリゴジンは、何かを行う可能性がある。
このプリゴジンに対して、ロシア連邦保安局FSBが抹殺する指示を受けたようだと、ウ軍ブダノフ情報総局長は言う。
どちらにしても、ウロ戦争は終盤に近い。ウ軍が戦闘で徐々にでもロ軍を打ち負し続けると、どこかでロ軍で反乱がおきて、プーチン政権は崩壊する。戦争を続けることができずに、ウクライナが示す停戦条件を受け入れるしかない。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2023年7月3日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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