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「プリゴジンではない」あの“ワグネルの反乱”は誰が計画を立てたのか?

7月8日で開戦から500日となったウクライナ戦争。その2週間ほど前には民間軍事会社ワグネルがロシア軍に対して武装反乱を起こしましたが、「計画したのはプリゴジン氏ではない」とのウクライナ高官の衝撃的な発言が世界を駆け巡りました。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ戦争の最新の戦況を解説。さらに「ワグネルの乱の首謀者」について語ったウクライナ大統領府長官顧問のコメントを紹介しています。

ウクライナ高官「乱を計画したのはプリゴジンではない」発言の真偽

ウ軍は、本格的な攻勢のフェーズで、バフムト、ドネツク市北部、ザポリージャ州、ヘルソン州で地雷原を抜けて前進している。

それと同時にウ軍は、ロ軍後方奥深くにある補給庫、燃料施設、司令部などを狙って、ストームシャドーで攻撃している。その効果が徐々に出いるようだ。

クレミンナ方面には、7万人から9万人のロ軍兵がいる。リシチャンスク方面は、1~2万人のロ軍兵、クピャンスクとスバトバ方面には、2~3万人のロ軍兵という配置であり、10万~15万人が配置されている。バフムト方面は5万人のロ軍がいる。

ドネツク・ザポリージャ方面には、20~25万人であり、ドネツク市が危機的になると、5万人規模のロ軍が配置されることになる。

一番手薄なのがヘルソン州であり、1万人以下の状態であり、ここをウ軍は狙っているように見る。しかし、ロ軍も増強するはずであり、本格的な渡河が遅れると、ロ軍の再配置が完了してしまう。

ロ軍の全体規模は、30万~35万と見込まれている。メドベージェフは、今年新規に18.5万人がロ軍と契約兵になったと。

また、ロ軍の戦車部隊の損害が大きく、とうとう、ウ軍が戦車保有台数でロ軍を逆転したようであり、今後もウ軍には戦車が供与されるので、その差は拡大することになる。

このため、ロ軍は古いT-54/55戦車を前線に投入して、防衛目的に利用するようである。

もう1つ、劣勢になり、ロ軍は化学兵器を使用し始めたようだ。

バフムト方面

ウ軍は、ザリジネンスクに攻撃すると同時に、M30号線沿いに南東パラスコビウカ方向に攻撃している。ロ軍は5万人の部隊でバフムト地域を防衛している。

ウ軍はベルキウカ貯水池の北側一部奪還して、ベルキウカに迫っている。ヤヒドネにも攻撃している。

ロ軍はボダニウカ方向に攻撃して、ウ軍をけん制している。

バフムト南西のウ軍独立第24突撃大隊と第3突撃旅団はクリシチウカ方向に攻撃しているが、第22機械化旅団を新規に投入して、クリシチウカの北側で活動している。そして、クリシチウカ市街に進行して戦闘になっている。

ウ軍はクデュミウカとオザリャニフカに対して攻撃している。

ウ軍砲兵隊は、オザリャニフカ南東にあるザイツェベ郊外にある砲兵陣地を破壊した。ウ軍は対砲兵戦を強化して、火砲の破壊を優先している。

ドネツク市北側

ウ軍は、クラスノホリフカとベゼルとオプトネの一部を奪還した。それと、ウ軍はドネツク市近隣のマキイフカの弾薬集積地と燃料倉庫を砲撃して、続いて、6日も爆発と火災が起きている。

それと、近隣ヤシヌバタの鉄道貨物の操作場も砲撃されて大きな被害が出ている。ウ軍はドネツク市の奪還を目指しているようだ。

ロ軍は、アウディーイウカ要塞とプレボマイスクを攻撃したが撃退されている。

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ザポリージャ州方面

1.ベルカノボシルカ軸

東側のノボマイロスクやノボドネツクにウ軍が攻撃中であるが、ノボドネツクを迂回して南側の道路を制圧した。しかし、まだ、ノボドネツクは陥落していない。

中央では、ウ軍はストロマイオルスクとウロジョイナでも攻撃で前進している。ロ軍もウロジョイナからダトネの方向に逆襲をしているが、ウ軍に撃退されている。

西側では、ウ軍はプリュトネを奪還しようとしているが、まだ、ロ軍は粘っている。

2.カムヤンスク軸

ウ軍はピアトハーティキーを奪還後、南東にジワジワと前進して、ジェネビヤンキーの北で激しい戦闘が起きている。

ヘルソン州方面

ドニプロ川の東岸、アントノフ橋付近のダチに、ウ軍は橋頭保を確保して、工兵隊、砲兵隊、機械化歩兵部隊を送り込んで300人体制になっている。戦車も数両、送り込んだようである。ダチの南側に拡大させている。オレシキの1kmのところにウ軍は迫っている。

しかし、まだ形成作戦段階であり、本格的な機械化部隊の渡河作戦を行っていない。

これに対して、ロ軍が機械化部隊をコンカ川の橋からダチに向けて逆襲をしたが、橋上で砲撃されて失敗した。

ロ軍は、イスカンデル弾道弾で再度攻撃したが、ウ軍の橋頭保を潰すことができないでいる。

その他方面

スバトバ方面では、ロ軍はノボセリフスク付近やカルマジニフカ西側ののウ軍陣地を攻撃したが、撃退されている。

ウ軍はノボボジャネからセレブッツ川の西側に撤退したことで、ロ軍が占拠した。

クレミンナ方面に、ロ軍は人員を集めている。リマン攻略を目ざすのかどうかであるが、セレブリャンスクの森を大規模攻撃したが、結果が出ていない。

リシシャンスク方面でも、ロ軍はビロホリフカへの攻撃をしているが、撃退されている。

ロ軍は、マリンカとノボミハイリフカに攻撃したが、ウ軍に撃退されている。

トネツク市周辺の爆薬庫が破壊されているが、ルハンスク州スホドリスクのロ軍弾薬庫も破壊された。ルハンスク市クラスノドンスキーでも大きな爆発があり、ここにも弾薬庫か燃料庫があったようだ。

ロシア中部サマラ(Samara)州の爆薬工場で爆発があり、6人が死亡している。占領地やロシア領内の多数の箇所が攻撃されている。火災も多い。軍需工場は、労働不足の上にフル生産であり、事故が発生しやすくなっているようだ。

逆に、ロ軍は、リヴィウへの夜間ロケット弾攻撃で、ウの民間人の死者5人が出ている。キーウ以外では防空体制が脆弱であり、どうしても損害が出てしまう。

また、ロ軍はドネツク州ライマンの町を砲撃し、少なくとも8人が死亡、13人が負傷した。

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ウクライナの状況

ゼレンスキー大統領は、進まない攻勢の解消のため、米国製の長距離兵器が必要だと述べた。しかし、米国は、7/7発表のウクライナ支援最新パッケージに、クラスター弾の供与を明記したが、ATACMSの供与はなかった。具体的には、155mmDPICM(対人・対装甲クラスター砲弾)である。

クラスター弾は広範囲に「子弾」をまき散らす。このため、塹壕でウ軍反攻に備えるロ軍に対して効果的だ。一発でサッカー場30個分を焦土化できる。

昨年2月の侵攻以降、ウクライナ、ロシア両国ともクラスター弾を使用しており、最近ではウクライナがトルコから供与されたクラスター弾の使用を開始している。

サリバン米大統領補佐官は、「ウクライナが十分な砲弾を保持できずにロシアが進軍し領土を奪ってウクライナ国民を支配すれば、一般市民に被害が及ぶリスクが大きい」とし、かつ「ウ軍に都市部で使用させない」ことを条件としたと表明した。ウクライナが自衛を目的としてクラスター弾を使うのは正当化できると言及した。

ウ軍としては、ATACMSの供与が欲しかったが、バイデン政権は、ATACMSでウ軍がロシア領内を攻撃する危険性を考慮して、クラスター弾の提供でお茶を濁したようである。

このクラスター弾供与に対して、ドイツ外務省、スナク英首相と国連事務総長が反対を表明した。

もう1つ、ウ軍が望むものはF-16の供与であるが、まだ、パイロットの訓練も始まっていないことがわかっている。

その訓練であるが、ルーマニア国防最高評議会は「ロッキード・マーティンや同盟国と協力して設立されるF-16訓練センターはウクライナや同盟国のパイロットにも解放される」と明かしたため、ウ軍パイロットの訓練はルーマニアで行われる見込みのようである。

やっと、訓練が開始される見込みがついた段階で、11月以降しかF-16はウ軍に提供されないことになる。今回の攻勢には間に合わないか、攻勢を冬場まで続けて、F-16を活躍させるよう長丁場にするかだ。

ウ軍の前線で、攻撃ヘリを撃ち落すための携帯式地対空ミサイル「スティンガー」が不足している。この不足がウ軍反攻の足を引っ張っている。このため、製造元の米レイセオンではウクライナにスティンガーを送るため、引退した技術者たちまで駆り出して増産しているという。

それと、ゼレンスキー大統領は、トルコを訪問して、エルドアン大統領と会談した。エルドアン大統領は、ウクライナはNATO加盟に値するした。また、ロシアが拒否する黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)の延長について、話し合われたようである。また、トルコにいるアゾフスタールを守った5人のウ軍アゾフ連隊司令官を祖国に連れ帰った。

NATOのストルテンベルグ事務総長は、「ウクライナが将来的にNATOのメンバーとなるという見解を再確認し、NATOは結束し、ロシアの侵攻は許されないという明確なメッセージを送る」と言明した。NATO首脳会談が7月11日~12日にリトアニア・ビリニュスで開催される。日本の岸田首相も参加する予定である。

このように、ウ軍は着実に前進していることで、ゼレンスキー大統領は、ズィミーニー島(蛇島)に上陸訪問した。戦争開始500日に、奪還したこの島は、クリミア奪還を象徴しているからだ。

ポドリャク大統領府長官顧問は、「ウクライナとロシアの戦争は何年も続かない。ロシアの資源は徐々に減少している。敵は戦前に持っていたものをほとんど使い果たしており、新たな武器やミサイルを生産する必要があり、その材料を集める必要があるが、制裁で苦労しているので、量を確保できない」

ということで、勝利後のウクライナは戦後の体制を考え始めている。経済復興のために、ウクライナは、TPP加盟申請を行った。農業生産物の多いウクライナは、日本などの食糧自給の少ない国への輸出が必要であるからだ。もう1つが、日本が戦後復興事業で中心となるので、それとの見合いであろう。

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ロシアの状況

プリゴジンの乱は、ルカシェンコ大統領の仲介で、大きな内戦にもならずに終結したが、プリゴジンはベラルーシには居ないで、サンクトペテルブルグにいると、ルカシェンコ大統領は述べている。この件を質問したが、ロシア大統領府のペスコフ報道官は6日、事実の認否を避けた。

そして、衝撃的な発言があった。ポドリャク大統領府長官顧問は、「私の理解では、計画したのは(創設者)プリゴジン氏ではない」「軍参謀本部の将校らが計画したと思う。(大統領の)プーチン氏が連邦保安局(FSB)などに賭けて失った物を、取り戻したかったのではないか」と話し、FSBの情報を信じてウクライナ侵攻に突き進んだプーチン氏への反発が軍の将校らにあった可能性を指摘した。

ロシア軍事ブロガーは、ロシア政府の兵器増産努力について、主力の戦車工場が2022年秋から完全3交代制の24時間操業になるなど、生産力を増強しているという。しかし英国国防省は「ロシアの戦車生産は増えていない」と評価するが、弾薬使用量を見ると、ロ軍の砲撃数は、落ちていない。イランからの輸入もあるとは思うが、軍需企業の生産は増加しているようである。

ウ軍の後方破壊で、食糧や弾薬が不足している上に、給与も6ヶ月も未払いで、前線の部隊交代もなしで、ロ軍の部隊では戦闘作戦への参加拒否の数が増加している。例として、ザポリージャ州のロジウカ地域では、約20人のロ軍兵が前線での戦闘任務の遂行を拒否した。

ベラルーシ駐留ロ軍動員兵も、年初は最大1万8,000人いたが、1ヶ月前には2,000人になり、現在は、ほぼ「戦術核」要員以外ゼロとなり、前線での兵員不足を隠しきれない状態になっている。

ここでも負け戦の様相をロ軍は呈している。

このように戦争に負け始めていることを感じているのか、メドベージェフ安全保障会議副議長は、ウクライナ侵攻に関し「全ての戦争は即座に終わらせられる。平和条約を結ぶか、1945年に米国が核兵器で広島と長崎を破壊したのと同じことをするかだ」と述べ、核兵器が使用される可能性に触れて威嚇した。

この発言は絵空事ではないかもしれない。英紙デイリー・スターは、「プーチン大統領が核爆撃機2機を緊急発進させて12時間飛行し、第3次世界大戦が起こるのではないかという恐怖を引き起こした」と報じた。

一方、クリミア半島とロシア本土を結ぶクリミア大橋で、避暑に向かうロシア人観光客が交通渋滞を引き起こしている。このため、軍事物質の輸送にも支障をきたしている。このため、プーチンは、観光客を迂回させるよう地方当局者に命じたという。

戦争中にもかかわらず、ロシア人がクリミア半島で休暇を過ごしたがっていることを、ロシア政府は正しく分析していなかったようであり、ウ軍の攻撃危険性をロシア政府は周知していない。

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世界情勢

ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、スウェーデンのNATOへの加盟を支持するとした。残すはトルコのみであるが、コ-ランの毀損を許すスウェーデンのNATO加盟に反対するとトルコは述べている。

イエレン米財務長官が8日に北京を訪問し、中国の李強首相などと会談した。米中対立を緩和するために、ブリンケン米国務長官に続き、イエレン米財務長官も訪中した。

しかし、中国はイエレン米財務長官をどう扱うのかが見物である。

このイエレン訪中と同時に、習近平国家主席は6日、台湾方面を管轄する人民解放軍東部戦区の将兵に対し、「恐れずに戦い、うまく戦うすべを知り、国家の主権と安全を断固守らなければならない」とし、さらに「今や世界は混乱と変化の新時代に入り、わが国の安全保障情勢は不安定さと不透明さを増している」「戦争と戦闘の計画を深め、実戦に備えた軍事訓練に集中し、勝利する能力を加速的に向上させる必要がある」とも述べた。

そして、キーバで開催したBRICS+は、24カ国の閣僚しか参加しなかったが、米ドルに対抗するために、金を裏付けとした新しい通貨を導入する予定だという。ペトロダラー崩壊で、ドル基軸通貨制度は崩壊していくが、その代替通貨をグローバル・サウスが作るという。

それも、為替市場での取引禁止であり、貿易だけに新通貨を利用するという。通貨の在り方が変化して、金本位制に近い通貨制度になるようである。固定相場であり、金にリンクするので、価値も固定になる。

今の基軸通貨制度は、ドルの金リンク停止から崩壊過程に入り、とうとう、ここまで来た。そして、今後はまた、元に戻すことになる。

変動相場制の崩壊も近いことになる。金融資本主義も終焉を迎えることになるようだ。すべては金にリンクされるので、両建て経済はありえないことになる。

国が国債を発行・借金をして、その分、企業や国民の富が増える構造は、何かがおかしい。このため、バブル生成も起きてしまい、時々バブル崩壊で経済が破綻するのである。実物経済にシフトするべきなのであろう。

しかし、この通貨の中心にいるべき中国経済は、崖っぷちである。人民元の国際化も十分ではなく、その上に、新しい通貨は実現可能かどうか、疑問ではある。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2023年7月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Andrey Sayfutdinov / Shutterstock.com

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