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イヌイットの遺伝子を持たない日本人も「高脂肪食で心配ない」は本当か?

糖質制限食においては、高タンパク・高脂質食を実践しますが、そうした食事で体に悪影響はないのか、心配する人が少なからずいるようです。イヌイットが高タンパク・高脂肪食で問題ないのは、特有の遺伝子が関係しているからとの論文について、見解を求められたのは、糖質提唱医として知られる江部康二医師。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では、論文の仮説も一つの見識としたうえで、日本人についてはオメガ3不飽和脂肪酸(EPA)の効果は認められていると主張。700万年間の人類の進化と食事の関係について補足的に説明しています。

イヌイットと高脂肪食への適応-人類と肉食

Question

イヌイットの高タンパク、高脂肪食への適応について、このような論文があります。
Greenlandic Inuit show genetic signatures of diet and climate adaptation | Science

「脂肪代謝、身長、体重、コレステロールの制御に関わる多数の遺伝子が、おそらく選択圧によって、イヌイット集団をタンパク質と脂肪(特にω-3ポリ不飽和脂肪酸)を多く含む食事で生きられるようにしたことが判明した」

とあります。遺伝子レベルで適応しているので可能と言うことであれば、適応していない日本人を含む他の民族では高タンパク、高脂肪食は不適応であり、コレステロールの制御ができないということにならないでしょうか?

これは、「食品中のコレステロールは血中コレステロールに影響しない」ということと矛盾しているように思えますが、いかがでしょうか?

ドクター江部からの回答

サイエンス誌に掲載された論文ですね。「イヌイットは、ω-3不飽和脂肪酸を大量に摂取してもいいように遺伝的に変異して適応している。従って、大量のω-3不飽和脂肪酸を、イヌイット以外の民族が摂取しても意味があるかどうかわからない」という趣旨です。

つまり、「イヌイットは長期間、アザラシなどの海獣や魚を多く摂取していて、それに含まれているω-3不飽和脂肪酸(EPA)が、心血管系疾患を予防する効果があるので、心筋梗塞が極めて少ない」という今までの定説(EPAの心血管疾患予防効果)に対して、この論文は、「イヌイットの特殊性(遺伝的に変異して、ω-3不飽和脂肪酸大量摂取に適応)を考慮する必要がある」という仮説を提唱しています。

即ち、例えばEPAを沢山摂取あるいは内服しても、イヌイット以外の民族には意味がないかもしれないと著者は述べています。これはこれで、一つの見識であり、仮説としてはあり得ます。

一方、すでにEPAは、日本でも健康保険に収載されていて、脂質異常症と閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感に対して適応がとれています。健康保険に収載されているということは、日本人における研究において、上記疾患に対して、EPAの有効性が確認されているということです。従って、イヌイットのように、特殊な遺伝的変異を有していなくても、少なくとも日本人には、EPAは有効であると言えます。

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最後に、人類全体の進化の歴史を考察してみます。約700万年前にチンパンジーと分かれて以降、多くの人類が生まれては消えて、現在残っているのは、我々「ホモ・サピエンス」だけです。

最後に絶滅したネアンデルタール人は、ヨーロッパを中心に13万年前から3万年前まで生存していました。10万年前は、ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人、ホモ・フロレスエンシスが生存していました。

多くの人類が生まれては消えていきましたが、脳が急速に大きくなったのはホモ・ハビリスやホモ・エレクトゥスからです。ホモ・ハビリスは、約200万年前に生存していて、脳の容量は800ccくらいです。ホモ・エレクトゥスは、約190万年前に生存していて、脳の容量が950ccと大きくなっています。700万年前に人類が誕生して、450万年間は脳は大きくなりませんでした。ちなみに、チンパンジーの脳容量は、350~400ccくらいです。

ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人・旧人)の脳容量は1600cc、ホモ・サピエンス(現生人類)の脳容量は1500ccです。脳はエネルギーを多く使うので、エネルギー効率の良い肉を多く食べるようになって脳が大きくなったと考えられます。

脳組織の50から60%は脂質が占めていますので、肉食による高タンパク・高脂肪食が必要だったと考えられます。従って、700万年間の人類の進化の歴史のなかで、当初は植物食が主だったと思われますが、250万年前頃から、動物性食品摂取が増えていき、ホモ・ハビリスもあるていど肉を食べていたと思われます。

190万年前のホモ・エレクトゥス以降は、肉をしっかり食べて、高タンパク・高脂肪食で、脳が大きく発達していったと考えられます。

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image by: Shutterstock.com

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(財)高雄病院および(社)日本糖質制限医療推進協会 理事長。内科医。漢方医。京都大学医学部卒、同大胸部疾患研究所等を経て、1978年より医局長として高雄病院勤務。2000年理事長就任。高雄病院での豊富な症例をもとに、糖尿病治療、メタボ対策としての糖質制限食療法の体系を確立。自らも二型糖尿病であるために実践し、薬に頼らない進行防止、合併症予防に成功している。

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【著者】 江部康二 【月額】 ¥660/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火・金曜日

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