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「反スパイ法」施行の中国で日本人の拘束・逮捕が減っている現実。なぜ法律を今になって整えたのか?

日本の原発「処理水」に猛抗議を続けているお隣・中国ですが、今年7月から「反スパイ法」が施行されたことで、在中日本人の不安はますます募っているようです。しかし、そんな中国において、日本人の拘束・逮捕のピークは2015年だったという事実をご存知でしょうか? 今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、「反スパイ法」について日本人は「考えすぎ」だと一蹴。中国が公表したイタリアと日本の「スパイ摘発事例」を2つ挙げています。

反スパイ法で見えてきた中国が狙う一番のターゲット

福島第一原子力発電所に溜まった処理水の排出が24日午後1時ごろに始まった。日本側は12年間の懸案に道筋がついたと胸をなでおろしたが、この問題で日本に再考を求め続けてきた中国は即座に反応。中国税関総署は日本を原産地とする水産物の全面禁輸を発表し、対決姿勢を鮮明にした。

北京に来てみて分かったことは、中国の人々の処理水排出への嫌悪が日本で報じられている以上に強いことだ。普段は日本贔屓の友人でさえ「なんでそんな愚かなことをするのか」と眉を顰める。北京の日本大使館も、「大声で日本語を話さないように」と中国に暮らす日本人に注意を呼びかけた。

だが、このメッセージに鼻白んだ在華日本人は少なくなかったという。

「こんな時だけ気を使われてもねえ。拘束されたって何もしてくれないのに」

と不満を口にするのはメーカーに勤務する30代の男性だ。

「中国の人々は処理水の問題に本当に怒ってますが、街中で日本語を聞いてすぐに何かされるという恐怖を感じることはありません。それよりも怖いのは拘束や逮捕。日本人が気にしているのは、むしろそっちです」

日本人を見る目が厳しくなって中国で、ひょんなことからスパイ扱いされてしまうのではないかということだ。

法律が恣意的に運用されるとまでは言わないものの、日中関係の悪化が厳しい取り締まりの空気を作り出すと考えるのは自然だ。

こうしたことへの懸念は、中国で仕事をしている日本人に限らず高い。

日本人が拘束されるケースで、その根拠となる主な法律は「国家安全法」と「反スパイ法」だ。とくに2023年7月の「反スパイ法」の実施から、メディアが過剰反応したため観光旅行を計画する者まで強い警戒感を持つようになったが、これは考え過ぎだ。

まず「国家安全法」も「反スパイ法」も中国だけにある法律でもなければ、スパイの取り締まり自体も世界各国で行われている。アメリカには「スパイ防止法」があり、スパイ天国とまで呼ばれた日本でさえ、いまは「特定秘密保護法」がある。

ちなみに中国の「反スパイ法」はアメリカの「スパイ防止法」を参考にしたものだ。

中国で法律違反になるような行為は、たとえ西側の国であっても何らかの法律に触れる可能性があるし、中国がこうした法律を改正・制定する以前には取り締まられてなかったかといえば、むしろ逆だ

日本の拘束・逮捕が最も多かったのは2015年からの数年間で、当時と比較すればここ数年はむしろ減っているといえるのだ。

つまり、普通に生活するのであれば、あまり特別なことだと考える必要はない。

だが、中国がなぜこの時期にわざわざ法律を整えてきたのか、という動機の点については理解しておくべきだろう。

象徴的なのは、8月に中国当局が公表した二つのスパイ摘発ケースだ。一つはイタリア、一つは日本が関係している。

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前者は11日、米中央情報局(CIA)に軍の機密情報を提供した疑いで52歳の「曾」という中国人が摘発されたケースだ。曾は中国の軍事産業で働いており、重要な機密情報にアクセスできる立場にあったという。研究留学先のイタリアでアメリカ大使館関係者から接触を受け、「夕食会や旅行、オペラ鑑賞などを通じて徐々に親密な関係になった」(CNN)とされる。見返りは、多額の金銭や家族の米国移住だったという。

後者は「カク」という中国政府の幹部職員の摘発ケースだ。カクは1984年1月生まれ。「日本に留学中にアメリカ大使館にビザの申請に行き、そこでテッドと名乗る人物と知り合い、食事の招待やプレゼントから研究論文を手伝う仲になった後に同僚のCIA職員を紹介されたという。彼らはカクに、帰国後は中国の中核組織で働くことを薦め、契約書を交わし訓練を施した」(香港『TVB』8月22日)という。

これらのケースは、ある意味で中国が狙うスパイの本丸。CIAの協力者の摘発だーー(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年8月27日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:michaelshawn/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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