日本の年金制度は試行錯誤を経て現状に至っていますが、過去には年金制度が乱立していた時代もありました。人気メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、そんな時代の年金制度のお話と、老齢基礎年金という年金の計算事例を紹介しています。
昭和61年4月前までは年金制度が乱立してしまった原因と、共通して受給する基礎年金計算事例3つ
1.昭和29年の厚生年金再建以来、年金制度が乱立した
65歳になって年金をもらう時に、基本的には全員に受給権が発生する年金があります。
このメルマガを長い事お読みくださってる読者様にはお馴染みだと思いますが、それは国民年金からの老齢基礎年金です。
誰もが共通の老齢基礎年金を受給した上で、上乗せで老齢厚生年金や基金やその他の年金をもらう形となっています。
逆に老齢基礎年金を貰う権利はないけど、老齢厚生年金などは受給できるという事はありません。
あくまで老齢基礎年金が受給できる人が過去の給料に比例する老齢厚生年金を上乗せとして受給できるという事です。
なお、基金などは積立の年金なので、老齢基礎年金などの公的年金を貰う権利がなくても受給できたりします(基金による)。
保険料払うタイプの国民年金が始まったのは昭和36年4月1日からですが、この老齢基礎年金というものが始まったのは昭和61年4月1日からです。
何が違うのかというと、昭和61年4月1日前の年金制度は旧制度と呼ばれますが、その旧制度の時の国民年金からの老齢の年金は基礎年金という呼び方をしていませんでした。
国民年金からの老齢年金と呼んでいました。
ちなみに国民年金に加入する人というのは主に農家の人や自営業者、無業の人などの会社に雇用されていない人が加入するものというイメージでした。
ところが昭和の中期から末期の間は日本の工業化により農業から飛び出して、会社に雇用されるという人が急増していったので徐々に国民年金の保険料を支払う人が減少していき、国民年金の財政は苦しくなっていきます。
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また、他の問題として、あまりにもいろんな年金制度が乱立していたため(国年、厚年、船員保険、国家公務員共済、公共企業体共済、農林共済、地方公務員共済、私学共済など)、昭和50年代からは年金制度を一元化していこうという動きになっていきました(昭和61年4月以降はそんな乱立していたものを全て国民年金の被保険者にして、65歳からは全員共通の老齢基礎年金を貰うように改正しました)。
旧時代、それぞれの年金が独立しておりましたが、年金制度の中では立ち行かなくなる制度が出てきました。
共済組合などは企業が独自に作ったりしますが、その産業が斜陽化していくと年金制度が続けられなくなってしまいます。
それが顕著だったのが国鉄共済であり、農林共済も同じく危機的になりその後に厚生年金に統合されていく事になりました。
どうしてこんなに年金制度が乱立してしまったのかというと原因の一つとしては、厚生年金の給付の低さでした。
厚生年金は昭和29年5月に再建されてからは昭和40年改正までは、せいぜい現役世代の給与の2割程度の給付でしたので、その頃から「厚年はあまりにも給付が低いから自分たちで共済作って高い年金にしよう!」として厚年から脱退して独自に共済を作る動きが加速していきました。
それが農林共済(昭和34年1月)、昭和31年7月からの公共企業体共済(たばこ、電電公社、国鉄)、昭和34年10月の新国家公務員共済、昭和37年12月の地方公務員共済、昭和29年1月からの私学共済へと繋がりました。
さらに中小企業団体が厚年から脱退しようという動きも出てきました(900万人の厚年被保険者のうち700万人が脱退しようとする)。
そうなると厚生年金がもう空中分解してしまいかねないので、なんとか魅力的な給付にするために昭和40年から急激に給付を上げ始めました。
本当は昭和29年の大改正の時に給付を上げたかったのですが、保険料上がるのはイヤ!っていう経済界からの抵抗に負けてしまって給付の改善ができませんでした。
どうしても給付を改善するという事は保険料も高くなるので、半額負担してる会社側としては抵抗するわけです。それにその頃は退職金もやってんのに、厚年の保険料も払うなんて二重保障だ!っていう事で抵抗されてしまったのです。
そのため、厚生年金は低い水準にならざるを得なくなり、それがいろんな年金制度を乱立させてしまう事に繋がってしまいました。
ただ、前述したように独自の産業が共済組合を作っても、時代の経過とともに斜陽産業になって年金制度を続けられなくなる危険があるわけで、いろんな共済組合が乱立する事は良い事ではありません。
よって、昭和59年4月に年金を平成7年までに一元化しようという事が閣議決定され(結局、平成27年10月にようやく一元化)、まずは第一段階として国民年金をどんな職業であれ全ての20歳から60歳までに適用するという事になりました。
どんな職業であれ全ての人がまずは国民年金に加入して、給付はみんな同じく基礎年金を受けるという事にして、その上乗せは過去の給料に比例した老齢厚生年金を受けるという形になりました。
冒頭で話した事に、国民年金の財政の危機がありましたが、国民年金は主に農業や自営業といった人が加入して支える制度でしたが、昭和61年4月1日からは全ての人が国民年金に加入する事により、全員で国民年金を支える制度へと変貌しました。
そのため、国民年金の財政は安定する事になります。
なんで厚年加入してる自分まで国年を支えるんだっていうふうにも言われたりしますが、国民年金は雇用者の親が受給してる事も多いので、彼らの親を支える意味で国民年金を支える事は当然であると考えられました。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は老齢基礎年金の計算事例をいくつか考えてみましょう。
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2.ほとんど国民年金のみの人の老齢基礎年金
◯ 昭和33年6月12日生まれのA子さん(令和5年に65歳になる人]
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20歳になる昭和53年6月から国民年金に強制加入となり、昭和59年5月までの72ヶ月間は国民年金保険料を納付しました。国民年金保険料とともに付加保険料も同時に納めました。
昭和59年6月にサラリーマンの男性(昭和28年10月生まれ)と婚姻したため、昭和61年3月までの22ヶ月間は国民年金に任意加入となりましたが加入しませんでした。任意加入できるのに加入しなかった期間はカラ期間となります。
昭和61年4月からはサラリーマンの配偶者の扶養に入ってる場合は国民年金第3号被保険者となり、夫が在職していた平成27年6月までの351ヶ月間でした。
なお、A子さんは60歳になる平成30年6月11日の前月である5月分までは国民年金保険料を支払う必要があったので、国民年金第1号被保険者として平成27年7月から平成28年6月までの12ヶ月は保険料納付し、平成28年7月から平成30年5月までの23ヶ月間は未納にしました。
さて、A子さんの65歳からの年金額はいくらでしょうか。
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まず記録をまとめます。
・国民年金第1号被保険者として納付した期間(納付済み期間)→72ヶ月(付加あり)+12ヶ月=84ヶ月
・国民年金第3号被保険者期間(納付済み期間)→351ヶ月
・未納期間(国民年金第1号被保険者期間)→23ヶ月
・カラ期間(これは何の被保険者期間にもなりません)→22ヶ月
なお、昭和61年4月以降はどんな人でも国民年金の被保険者になったので、農業や自営業や学生などの人は国民年金第1号被保険者期間として定額の国民年金保険料を支払い、サラリーマンや公務員は厚生年金加入と同時に国民年金に同時加入してるので国民年金第2号被保険者となります(保険料は厚生年金保険料から拠出金として国民年金分を支払う)。
国民年金第2号被保険者に扶養されている20歳から60歳前月までの配偶者は国民年金第3号被保険者となります。
このように昭和61年4月1日以降は全ての人は国民年金の被保険者になったために、「国民年金第◯号被保険者」と呼ばれるようになりました。
じゃあ年金年度がバラバラだった昭和61年3月31日までの記録はどうなるのかというと、国民年金第◯号被保険者という概念はありませんでした。
しかし、昭和61年3月31日までの期間も、A子さんの記録の昭和53年6月から昭和59年5月までの72ヶ月間の国民年金の期間は「国民年金第1号被保険者とみなす」期間となります。
「みなしている」から、そのまま構わず老齢基礎年金の計算に使います。
・老齢基礎年金→795,000円(令和5年度に67歳到達年度までの人。昭和31年4月2日以降生まれの人)÷480ヶ月×435ヶ月=720,468円
・付加年金→200円(月単価)×72ヶ月=14,400円
よって、年金総額は734,868円となります。
なお、国民年金支払った期間などに応じて年金生活者支援給付金や、配偶者の加給年金から振り替えられた生年月日に応じた振替加算33,619円(令和5年度価額)が老齢基礎年金とともに支払われる事があります。
これらは老齢基礎年金が支払わなければ支払われる事はありません(付加年金も老齢基礎年金とセット)。
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3.免除期間と厚年期間がある人の老齢基礎年金
◯昭和63年7月1日生まれのB男さん(令和5年は35歳)
18歳年度末の翌月である平成19年4月から平成20年2月までの11ヶ月間は厚年(国民年金第2号被保険者)に加入。
平成20年2月から平成20年5月までの4ヶ月間は何も加入しません。
平成20年6月30日になると20歳に到達するので(月の1日生まれは前月からとなるので注意)、6月分から国民年金第1号被保険者として強制加入して保険料を納める義務が発生。
平成20年6月から平成23年3月までの34ヶ月間は大学生だったため、学生納付特例免除を利用(将来の老齢基礎年金には反映しない)。
平成23年4月からは非正規雇用として引き続き国民年金第1号被保険者となったものの、支払うのが大変だったため国民年金を平成26年8月までの41ヶ月間は全額免除とします(老齢基礎年金の2分の1に反映)。
平成26年9月から令和6年9月までの121ヶ月は厚生年金に加入。
令和6年10月から令和8年12月までの27ヶ月間は国民年金納付。
令和9年1月から令和12年6月までの42ヶ月間は若年者納付猶予による国民年金全額免除を利用しました(老齢基礎年金には反映しません)。
令和12年7月から60歳前月の令和30年5月までの215ヶ月は国民年金保険料を納付。
さて、B男さんはいくらの老齢基礎年金を受給できるでしょうか―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年9月6日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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