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なぜSNSやYouTubeに依存する人は「好きなもの」しか見えなくなるのか?気づかず罹る「エコーチェンバー」の悲劇

ついついSNSやYouTubeでおすすめされるがままに動画や情報を見てしまうことってありませんか? Google、マッキンゼー、リクルート、楽天の執行役員などを経て、現在はIT批評家として活躍されているメルマガ『尾原のアフターデジタル時代の成長論』の著者・尾原和啓さんは、その「エコーチェンバー」と呼ばれる現象について対処すべきものだと警鐘を鳴らしています。

つながりすぎる時代の副作用「エコーチェンバー」と、その対処法

教会や密閉された部屋の中に入ると、自分の声が反響して、いろんなところから戻ってくることがありませんか?教会のように、音が反響する閉じられた空間を「エコーチェンバー(残響室)」といいます。

つながりすぎる時代には、その副作用で、だれもがいつの間にか陥ってしまう「エコーチェンバー」という現象があります。どうすれば自分のいきすぎた行動を防げるのか?自分が偏りすぎないために大事なことなので、解説しておきたいと思います。

「エコーチェンバー現象」とは?

インターネット、特にSNSやYouTubeでは、プラットフォームの会社がユーザーに長くいてもらうために、見ている人が好きな情報だけを提示していきます。

ユーザーは多様な世界とつながっているつもりだけど、いつの間にか好きなモノばかりを見てしまっている。そして、「世界は自分が好きなモノだけで存在しているから、自分が考えていることは正しい」と思ってしまう。それを「エコーチェンバー現象」といいます。

3年前のTEDで、すごく話題になったトークがあります。そのトークの中で、ある社会学者が実験をした結果、YouTubeのユーザーは視聴時間の8割以上「自分が選択していない動画」を見ていることがわかりました。

ジーナップ・トゥフェックチー:ネット広告の仕組みが拓く ディストピアへの道 | TED TALK(日本語字幕付)

YouTube動画って、1本目はチャンネル登録した動画や検索して出てきた動画を見るケースが多いですよね。

でも2本目以降は、自動再生の動画を見ていることが多いです。自分で選択したような気になっているけど、1本目の動画を見たあとに出てくる5つくらいの関連動画の中から選んでいる。

これは、1日にウン十万上げられる動画のたった5つくらいの中からしか選んでいないことを示しています。

YouTube側は、「みんな自分の好きな動画を見たいだろう」と思います。だから「西野(亮廣)さんの動画を見たなら『えんとつ町のプぺル』の動画も見ておきませんか?」と、良かれと思って提示していくわけです。

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「エコーチェンバー」のリスク

今お話ししたパターンや、「ちょっと保守的な動画を見る」くらいだといいんですけど……。実験で何がみえてきたかを説明します。

例えばユーザーが「ちょっと人種差別的な動画」を見てしまった。するとYouTube側は、「この人、人種差別的な動画が好きなんだな」と思います。

それって見ている人の傾向が似ているモノを提示しているだけで、動画の内容を見て判断しているわけではありません。だから、もうちょっと過激な人種差別的な動画を見てしまうと、「あ、この人はこういう傾向の動画が好きなんだ」と、さらに過激な動画を見せる。

そうやっていると、ユーザーは気付かないうちに「世の中こういうふうになっているんだな」と思うようになって、YouTubeを開くと人種差別的な動画に包まれるようになってきます。その結果、より「世間はそういうものなんだ」と思うようになるわけです。

FacebookやTwitterも同じです。Facebookのポストは基本的には友人のモノが多いですよね。

特にアメリカでは地方で思考の色合いが似てくるので、同じようなことを考えている友人のポストを見るようになります。

たとえ友人と距離があって色合いが多様だったとしても、Facebook側はユーザーが「いいね」をしてくれるところから「長くいてくれるモノ」を多く出しがちです。例えばユーザーが「猫好き」「犬好き」の人だったら、「友人のそういうポストを出そう」となってしまう。というように、だんだん思考が激しい方向に寄っていってしまいます。

実は10年くらい前まで、アメリカの大統領選挙は「共和派」か「民主派」かで、その時その時にシェアリングしているアジェンダがありました。

そのアジェンダに関して「今の時代、どの知事に投票すべきか?」という議論が進んで、どちらかが選ばれることが多かったんです。けど、ここ10年ほとんどの州で「こっちの州は民主(党)です」「こっちの州は共和(党)です」というのがほぼ決まっていて。

そのため、フロリダやミシガンやペンシルバニアなど「いくつかの、どっちに倒れるかわからない州」のみの結果で大統領選が決まってしまう状況が起きています。

これは、「空の上には何があるのかわからない世界」ではありません。決まったものしか見えていない、僕たちはある種、限られたバブル(泡)の中で暮らしています。これを「フィルターバブル」と言います。

だれも自分から人種差別派になろう、と思ってなっていない。プラットフォーム側がよかれと思って選択したモノを見ているうちに、自然と染まっていってしまうものなんです。私たちは、そこに気を付けないといけません。

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「エコーチェンバー」の対処法

つながる時代だからこそ、自分の好きなモノしか見えなくなりやすい性格があることを、ちゃんと自分で認識する。偏った情報をちょっとした好奇心で見たときは、必ずその逆の方向を見るという習慣が大事です。

昔、アメリカなどでは新聞の中に「バイオプト」という記事がありました。バイオプトとは「ある記事を反対派の意見で書いたら、それに対して賛成派はこう言っていると書く」というように、常に両方の角度からみたものはどうなっているかを新聞の中で誇りを持って載せていたんですよね。

それがだんだん「一方向からみたほうがうける」となり、物事を両方の角度からみる習慣を失くしてしまったニュースメディアが多いです。それに、今はほとんどの人がニュースをソーシャルメディア経由で見るようになっています。

そうすると、「エコーチェンバー」という他の人の意見を聞いているようで、「自分が見たい世界」「自分が好きだと思っているモノ」を見ているだけになってしまう。これは本当に気を付けたほうがいいです。

ある情報を見たら、その反対側の意見の検索キーワードをYouTubeで入れてみる。例えば「気象問題はない」という動画を見た時には、「気象問題はやっぱりある」と検索する。そうやって、常に自分が囲われている環境の情報をバランスを取るようにしてみる。

あと僕自身やっているんですけど、FacebookやTwitterもアルゴリズムに全部委ねず、自分がお気に入りにしているリストを時々変えていく。そうすることによってバランスを取る。

あともう1個、FacebookやTwitterを見る時も「ふだん自分がぜんぜん使わないキーワード」を入れてみる。

そうすると、「こういう世界があるんだ」と気が付く。そこでおもしろいことを言っている人、「この人の意見は参考にしたほうがいいな」って人をフォローする。このように、常に洗い替えをしていくことによって自分の中のバランスを取ることが大事です。

オンラインサロンの中でも、いろんな人のコメントが付きますよね。そのコメントの中で、ついつい自分が好きなコメントを見てしまうんですけど、たまには遠いモノを見る。それを習慣化してみるといいと思います。

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というわけで

今日の話を聞いて、「自分から遠い、こういうキーワードでYouTubeを見てみようと思った」など、自分の中で自分のエコーばかりを聞かずバランスを取るために、どうやって情報を接種していくかコメントをいただけたらと思います。

■エコーチェンバー対策

それでは、繋がる時代を楽しみましょう!

(2020年11月4日サロン向け動画を記事化しております)

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image by: Kaspars Grinvalds / Shutterstock.com

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IT批評家、藤原投資顧問 書生 1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用システム専攻人工知能論講座修了。 マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタート。 NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援を経て、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業立ち上げに従事。 経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。 現職は14職目。シンガポール・バリ島をベースに人・事業を紡ぐカタリスト。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。

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【著者】 尾原和啓 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 月・木曜日 発行予定

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