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なぜ、遺族年金は男女で貰えるケースにここまで差が生まれたのか?

配偶者が亡くなってしまった場合に支給さえる遺族年金。しかし、受給する側が女性か男性かによって制約が異なってくるようです。人気メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、遺族年金について詳しく解説しています。

妻が受給する場合とは違う夫の遺族年金の性質と役割

1.男性が受給する場合の遺族年金は制約が厳しい

世間では遺族年金を受給するのは女性というイメージが強いものですが、確かに男性が遺族年金を受給してるケースというのはあまり見かけるものではありません。

要因の一つとして、男性が遺族厚生年金を受給する場合は少なくとも60歳以上の人でなければ受給できないからです(女性は年齢制限は無し)。

さらに平成26年3月31日までの年金法では、国民年金から支給される遺族基礎年金は男性は受給する資格はありませんでした。

なので男性が受給する年金とすれば遺族厚生年金のみでした。

60歳から受給できるとはいえ、その頃には男性自身の老齢厚生年金が受給できるようになる年齢でありますが、読者の皆様も大抵はもうご存知かと思いますけども、60歳から65歳までの年金というのは複数の種類の年金受給権があっても一番有利な方を選択するしかありませんでした。

そうすると遺族厚生年金が受給できても、男性自身の老齢厚生年金が多いのなら老齢を選択するケースが多く、結局は遺族厚生年金は受給しないという事になっていました。

男性が遺族厚生年金を受給するというのはほとんどが妻が死亡した場合ですが、どうしても過去の給与はまだまだ女性の方が男性より低い事が多いから、遺族厚生年金が発生しても金額的に低額となってしまい、結局は男性自身の老齢厚生年金を貰った方がいいよねっていう事になっていました。

よって、男性が遺族年金を受給するケースというのはほぼ見かける事はありませんでした。

受給する権利はあるけども、自分自身の老齢厚生年金を選択してるがために停止されてるという形をよく見かけたものです。

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更に夫が妻死亡による遺族厚生年金を受給する場合は55歳以上でなければならないという制約もあり(実際の支給は前述した60歳から)、55歳未満の時に妻が死亡したりすると遺族厚生年金そのものが発生しませんでした。遺族給付が出るとすれば、国民年金から掛け捨て防止の死亡一時金が出る程度でした。

なお、55歳以上の時に妻が死亡した場合に、夫が60歳になったら支給開始ですよという制約は、一般的にはまだ男性は働いてる最中であり、60歳の定年までは働くからそこまでは遺族厚生年金を停止しとこうという考えからです。

また、男性は40代前後なんていうのは大抵は働いてるものだから、妻が死亡しても遺族厚生年金は必要ないと考えられたから55歳未満は年金受給権を発生させないのでしょう。

女性の場合はどうしても男女格差が解消されてなくて、給与が低くなりがちである事、非正規雇用の割合が高い事(妊娠出産子育てからまた再就職しようとしてもなかなか厳しい)、中年になってしまうと再就職が非常に厳しくなる事などの面があるので妻に関してはそういう制限は付けていないと考えられます。

このように男性が遺族年金を受給するのは厳しいものですが、平成26年4月1日からは国民年金からの遺族基礎年金が男性にも受給可能となる改正が行われました。

遺族基礎年金は元々は「子のある妻」もしくは「子」のみが貰う権利が発生しましたが、平成26年4月1日からは「子のある妻」→「子のある配偶者」となりました。

これにより男親にも遺族基礎年金が支給されるようになったのです。子がいないと貰えない年金なので、子育て支援の意味合いが強い年金でもあるからですね。

なお、前述したように遺族厚生年金の場合は妻死亡時に夫が55歳以上でなければならないという年齢制限がありますが、こちらの遺族基礎年金を夫が受給する時は夫には55歳という年齢制限はありません。

よって、その平成26年改正からは死別して、子を持つ夫であればどんなに夫が若くても遺族基礎年金を受給してる事がちらほら見られるようになりました。

とはいえ、夫が遺族年金を受給する際は妻の場合とは結構違うので、夫特有のケースを2つ見ていきましょう。

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2.死亡した妻にはほとんど厚年期間が無かったけど、全体で有効な年金記録が300ヶ月以上

ア.昭和43年6月17日生まれのA夫さん(令和5年は55歳)

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20歳になる昭和63年6月から平成3年3月までの34ヶ月間は大学生だったため、国民年金に強制加入する必要はなく任意加入もしませんでした(カラ期間)。

平成3年4月から平成28年9月までの306ヶ月間は厚生年金に加入しました。

なお、平成3年4月から平成15年3月までの144ヶ月間の平均給与は45万円で、平成15年4月から平成28年9月までの162ヶ月間の平均給与(賞与含む)は54万円でした。

退職して平成28年10月から平成30年6月までの21ヶ月間は退職特例免除による全額免除(世帯主の所得を省いて免除審査する退職による特例免除は退職日の翌々年の6月まで使える。老齢基礎年金の2分の1に反映)。

平成30年7月から60歳前月の令和10年5月までの119ヶ月間は国民年金保険料納付。

イ.昭和52年4月2日生まれのB子さん(令和5年は46歳)

高校卒業した月の翌月である平成8年4月から平成14年8月までの77ヶ月間は厚年に加入しました。平均給与は20万円とします。

平成14年9月にA夫さんと婚姻した事で退職し、専業主婦になって平成28年9月までの169ヶ月間国民年金第3号被保険者となりました。

夫が退職したので平成28年10月から平成30年6月までの21ヶ月間は夫と同じく退職特例免除を使い、平成30年7月から令和4年12月までの54ヶ月間は国民年金納付しましたが、令和5年1月から令和5年9月までの9ヶ月間は滞納していました。

その後、令和5年9月6日に死亡。

さて、B子さんは国民年金加入中に死亡していますが、遺族年金は残された家族には支給される可能性はあるでしょうか。

まず、死亡したのは滞納中ですが国民年金強制加入中には変わりないので、国民年金加入中の死亡。

そして、年金記録を見ると厚年期間77ヶ月+3号期間169ヶ月+国年納付54ヶ月の合計300ヶ月の有効な記録があります。滞納期間はカウントしません。

死亡時に全体で有効な年金記録が300ヶ月以上(25年以上)ある場合は、よくやる死亡日の前々月までに未納期間が全体の3分の1以下である事という判定は原則としてはしません(する場合もあります)。

よって、死亡までの年金記録は満たしていますので、一定の遺族がいれば遺族年金が支給されます。

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次に妻のB子さん死亡時点に生計維持されていた遺族はA夫さん(年収700万)と、子4人(22歳、19歳、17歳、15歳)。

なお、生計維持されていたというのは死亡時点で生計を同じくしていて(住民票が同じ等)、遺族の前年収入が850万円未満(もしくは前年所得が655.5万円未満)の事を言います。一時的な所得は除きます。

15歳年度末未満の義務教育終了前の子は所得確認不要ですが、高校生の17歳の子は在学証明書か学生証のコピーが必要。

また、子は18歳年度末までの子(障害等級2級以上は20歳到達日まで)をいうので22歳と19歳の子は対象外。

よって、A夫さんは18歳年度末未満の子が2人いる「子のある配偶者」になるので、遺族基礎年金が受給できます。配偶者が受給中は子への遺族基礎年金は全額停止。

次に遺族厚生年金を受給できる遺族の範囲は、配偶者、子、父母、孫、祖父母の順で最優先順位者となります。この中で「夫、父母、祖父母」が受給する場合はB子さん死亡時に55歳以上でなければいけません。

A夫さんはB子さん死亡時の令和5年9月6日時点では55歳以上なので満たしています。ただし原則として遺族厚生年金は60歳からの支給となります。

よって、生計維持関係やB子さんの保険料納付要件(25年以上あり)、A夫さんの年齢は満たしていますので遺族基礎年金や遺族厚生年金がA夫さんに支給されます。

ちなみに原則としてA夫さんの遺族厚生年金は60歳からですが、遺族基礎年金が支給される場合は55歳から60歳になるまでの間に例外として支給されます。

・令和5年9月6日受給権発生の翌月分から遺族厚生年金→20万円×7.125÷1000×77ヶ月÷4×3=82,294円

・遺族基礎年金→795,000円(67歳までの人の定額)+子の加算金228,700円×2人=1,252,400円

・遺族年金生活者支援給付金→0円(A太さんの所得が令和5年度4,721,000円を超えているので停止)

よって、令和5年9月6日の翌月分から遺族厚生年金82,294円+遺族基礎年金795,000円+子の加算228,700円×2人=1,334,694円(月額111,224円)

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その後、17歳の子が18歳年度末を迎えると228,700円減って1,105,994円になり、一番下の子が18歳年度末(令和8年3月とします)を迎えると遺族基礎年金は消滅し遺族厚生年金82,294のみとなりますが、令和8年4月分からA夫さんが60歳になる令和10年6月まで遺族厚生年金が全額停止となります(消滅ではなく停止)。

令和10年6月の翌月から65歳到達月分までまた遺族厚生年金が再開して支払われます。

なお、A夫さんの生年月日だと65歳前からは通常では老齢の年金が受給できない人なので、65歳までは遺族厚生年金を受給し続ける事になるでしょう。ただし65歳からの老齢の年金を繰上げしたり、障害年金などの他の年金が発生すると、遺族厚年との選択になります。

65歳になるとA夫さん自身の老齢厚生年金と老齢基礎年金が発生しますが、この時はA夫さんの老齢厚生年金よりも遺族厚生年金が多ければ差額が遺族厚生年金として受給できますが、老齢厚生年金が多い場合は遺族厚生年金を貰う余地はありません。

例えばですがA夫さんの老厚が5万円なら遺族厚年82,294円から引いて、遺族厚年32,294円の支給となります。A夫さんの記録を見たらなかなか厚年期間があるので、遺族厚生年金は全額停止になりそうですね――(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年9月20日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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