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韓国でも悩みのタネ?定年退職したあとに私たちは何をすべきか

定年退職したあとに何をするか、日本でもたびたび話題にあがることであり、定年が近い人たちにとっては気になることでもあります。今回、無料メルマガ『キムチパワー』の著者で韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者が、韓国の貿易協会を定年退職した金ハクソ氏が語った定年後のありかたについてのインタビューを紹介しています。

定年退職したあと、何をする

約10年前の2014年4月、金ハクソ氏(67)は32年間通っていた韓国貿易協会を定年退職した。満58歳。一か月ぐらいは本当に良かった。ソファーで寝っ転がって世の中を全部牛耳ったように気持ちがよかった。しかし、そこまでだった。体がむずむずして、少し痛みもあるような感じがして気がついた。「退職後には何でも学び、新しく仕事を始めなければならないんだ」ってことが。

「OECD保健統計(2023)」によると、0歳の韓国人の期待寿命は83.6歳、65歳になった人の期待寿命は86.6歳に達する。反面、法定退職年齢は60歳、民間企業の非自発的退職年齢は49.5歳で、退職後20~30年が宿題のように残ることになる。

「一生で今が一番楽しく生きている」という金さんは、この10年間、どのような過程を経たのだろうか。13日、彼が運営するシニア読書会に行ってみた。ソウル江東区に位置するソウル市民大学東南圏キャンパスのある教室。シニア男女10人が丸いテーブルの前に集まって話の花を咲かせている。本の質問紙で討論する読書会。自分たちは「おしゃべり人生学校」とも呼ぶ。

おしゃべりの話題は、キム・ハクソさんが新作随筆集から選んできた9つの質問。例えば、・嫌いな人 ・生計 ・田園生活 ・ぼーっとする ・新しさと向き合う勇気、などがこの日の質問、すなわち話題だ。質問ごとに参加者たちは順番に話をする。話題が多様なので、普段考えもしなかった記憶や経験が思い浮かんで、思わず話が大いに弾む場合が多いという。

金さんは2年前、偶然本の質問紙の作り方を学び、質問紙読書会の企画家として活動している。多くの本から抜粋した文章と共に投げかける質問が、人々が自然に話を持ち出す呼び水の役割をする。構成員は作文や読書に関心が高いシニアたち。現在は55歳から78歳まである。自分の話をすると、すっきりして楽しくなることを体験した人たちだ。

あるメンバーは「10年間一人で過ごしていた生活から抜け出し、人々に会いに出てくる過程自体が勇気が必要だった」とし「今は毎週この時間を待つことになった」と話す。構成員は「去る人は追わず、来る人は拒まず」コンセプトで、テーマを少しずつ持ち出し8~10人規模で2年近く維持している。

一人で長く話したり、雰囲気を壊したりする人がいたらどうします?

「自然にフィルタリングされるんですよ。討論の時は2分以上発言禁止、他人の話に対する論争禁止。こういう原則があります。行き過ぎた場合、制止したりもします」

各自の些細な事情は自分には大切だが、他人には関心を引くことは難しい。そのような点で、この場では一種の社会契約が作動する感じだった。他人の話を大切に聞き、それを通じて自分の話ができる勇気を得る。

金ハクソ氏が生涯携わっていた貿易協会は、中小貿易会社の輸出入業務を支援する機関。彼は中国室長、上海支部長などを歴任した中国専門家だ。退職後、まずは履歴を生かすことができる働き口探しに積極的に乗り出した。このため、創業コンサルタントなど専門家課程を履修した。

翌年から2年間、光云(グァンウン)大学で兼任教授として「中国経済」を講義した。2016年からは韓国貿易協会の輸出専門委員に委嘱され、江原地域の中小企業の輸出活動を支援し、中小ベンチャー企業振興公団、大中小農漁業協力財団、ソウル市創業フォーラムなどで諮問と評価業務に参加した。

「退職後5年程度は各種機関と団体で上げる募集公告に積極的に申請しました。現職で身につけた経験と知識、ノウハウを必要な人々に伝えるという使命感が大きかったです」

いろんな仕事を兼職すれば収入もある程度は確保されますか?

「とんでもないですね。教授は一科目の講師料が全てで、各種委員の場合、月に一度会議に参加して交通費を受け取る程度です。退職後にお金のことを考えると楽しく働くことができません。やりたいことをしながら人生を楽しむという方向にアプローチしなければなりません」

経済的に支障はありませんか。

「大きな問題はありません。一生サラリーマンだったので、家一軒に国民年金、個人年金程度ですけど、ベビーブーム世代は皆似ていると思います。たまにニュースに出てくる老後夫婦の最低生活費(月200~300万ウォン)程度なら無理なく暮らせると思います」

彼によると、このような公的領域での活動はちょうど65歳までだ。65歳を過ぎると、いくら経験や知識が多くても社会活動を中断しろという公式的な圧力を肌で感じる。

「国際労働機構(ILO)統計が満64歳までを生産活動人口に入れてるからでしょうか。ほとんどの仕事で最初から志願資格がなくなりました。100歳時代なんてことばだけですかね。

実際、60歳を過ぎてから徐々に社会から排除される感じを受けていた。街やスーパーマーケットでよく出会う同年代の人々が職場では見られなかった。

「いつからか会議があって行ってみるといつも私が最高齢者でした。寂しいという考えを超えて、これをずっと続けて出てこなければならないのか悩みました」

自治体などで運営する「老人雇用」はあると思いますが。

「名目は『働き口』ですが、月30万ウォンのお金をばら撒くことです。その方々が一生積んできた経験や知識とは関係のない、福祉の対象になるのです。問題は、これをやろうという人が並
んでいることです」

そういえば、彼が指した壁に貼られているソウル市民大学の「中高年進路探索ワークショップ」ポスターは募集対象を「40~64才の中高年誰でも」と限定されていた。

「65歳以上はすべての垣根から外れています。「あなたたちは勝手にしろ」ってことですよね。結局、当事者たちが声を上げるか勢力化して世論と政治家たちを動かしてこそ改善されていくと思います。私はそのようなことを始めるには遅すぎます」

それでも約20~30年はもっと何かをしなければならない。それなら自分で道を探そう。彼が見つけた仕事は二つ。一つ目は随筆家としての登壇だ。

「本格的に文章を書くことが100歳時代を楽しむ道の一つだと思いました。文化センターに登録して熱心に学び、昨年1月に随筆作家として登壇しました。習作として書いた文章を集めて「人生の温度は暖かいですか」という随筆集も出しました」

これに先立ち2020年に退職後6年間の考えを整理した「終わりではない新しい始まり(マイブックハウス)」を、翌年には電子書籍「中高年、新しい夢を広げよう(楽書堂)」を出した。

彼が探した2番目の仕事がこの日見せてくれた質問紙読書会だ。

「書いている間は一人で楽しく過ごせます。でも、同年代の人たちが目に入ったんです。私たちの集まりに出てくるお年寄りが78歳ですが、出席率が一番高いです。お話を聞いてみると、「この歳になると呼んでくれる人が誰もいない」ということです。集まりに来て話もしたり、また年配の人たちの話を聞いたりしながら、とても楽しいと言っています」

シニア層の中でも特に70代の男性が一番行くところがないそうです。敬老堂(キョンノダン=おじいさん、おばあさん方が集まるコミュニティを支える場所。あちこちに存在する。日本でいえばコミュニティセンターみたいなものに該当するだろうか)は早すぎるし。

「そうですね。これからも多くのシニアと質問紙の集まりを共にしたいと思います。近いうちにこの方々の名前が共同で入った結果を作るつもりです。紙の本や電子書籍、動画にもなるでしょう。私はやることが多すぎます」

ベビーブーム世代の退職と高齢者層の進入が順次行われています。この方々、生きる道を探して各自が生き残るか、世の中で片足を抜いて静かに傍観者として生きるか、大体この二択のようです。

「私の考えでは、ごく少数の退職者が何かをしようとしていて、ほとんどの人はただ人生をぼーっと生きています」

なぜでしょうか。

「何かに新しく挑戦するという考えが簡単にできないせいだと思います。私はそんな方々に『生産者の立場で考えてみろ』といつも言います。消費者の立場で歌を聞くだけでなく、歌であれ何であれ面白いならそれを直接やってみろということです。誰でも何かを約2~3年地道に続けていけば、上手にもなるし稼ぎにもなると思うんです。すると反応が『その間は何を食べて生きているのか』ときます。しかし、何をするにせよ、その3年はあっという間に過ぎます。何もせずに暮らせば、ただ過ぎ去るだけですが何かをすれば成果物が少しずつ蓄積されるのです」

彼は最近の世の中の変化をオープンカカオトークで学ぶと話した。

「最近、オープンカカオトークを見ると、小さいものは100人単位、大きいものは1200人程度加入しているものもあります。私は誰でも1000人程度だけ私の顧客を持っていれば、食べていけると思います。それで事業をするなら、みんな1人企業にな
るんです。事業も昔は組織に依存していたとすれば、今は個人ができる環境が作られています。だから自分のものを確実に持って何かを気遣う人が勝者です。楽しみながら上手な人が一番強くならざるを得ません。これから人間は自分の好きなことば
かりしなければなりません」

どういうことか。

「退職してみるともっとはっきり分かりました。好むと好まざるとにかかわらず義務に従って働くサラリーマンは、やってみると結局ただのサラリーマンです。彼らはあまり悩みません。それに比べて1人企業はそれが自分のものだから悩んでいました。雪だるまに例えると、最初はうまくまとまりませんが、自分の悩みとか考えをそこにどんどん注ぎ始めると、ある瞬間雪だるまが大きくなるんです。そうなれば、私たちが考えられなかった経済的な部分も自動的に弾みがついてくることになるでしょう。スタートアップもユーチューブチャンネルもそういう過程を経るんですよね」

「私は今でも何かを学ぼうと努力しています。最近は人工知能(AI)を勉強しています。2か月前、動画作りの講義を聞きに富川(ブチョン)まで行きました。8万ウォンを払って8時間授業を受けたんですが頭だけ痛かったです。しかし、どうにか動画を作れ
るようになりました。勇気を出すのも習慣です。習慣はその次からは繰り返されるので、簡単に転がるんです」

彼は質問用紙を作ることがとても面白くて、それを同僚と分かち合うことでやりがいを感じる。それで最近「一生の中で最も情熱的」に生きているという。

「何でもいいので、『本当に』やりたいことを探して始めてみてください。念入りに自分のものにした後、人々と分かち合うことができればもっといいです。100歳の人生後半の30~40年を自分が好きなこと、少しでも上手なこと、関心のあることの中で一つずつ掴んでいけば何かを成し遂げることができます。最近は人工知能が発達していて、少しでも助けを受ければ専門家の境地に入るのも難しくありません」

全部いいですが、随筆も読書会もお金になることではないですよね。

「今はそうですね。あれこれ勇気を出して試してみて、自分がやりたいことをすること、その過程で他人の役に立つこと。こういうのが私にはもっと大切です。他の誰がわかりますか、やってみたら、自分にもどんな機会が来るのか。ははは。」

(東亜日報参照)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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