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すべては麻生太郎の「筋書き」通りか?安倍派だけが地検特捜部に“狙い撃ち”された裏側

臨時国会も閉会し、いよいよ本格化する「安倍派パー券裏金疑惑」に関する捜査。岸田首相は政権からの安倍派議員追放を図りましたが、その背後にはどのような力学が働いているのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、岸田政権に対して強い影響力を持つ麻生太郎氏の思惑を紹介するとともに、安倍派の弱体化でどの勢力が得をするのかを解説。さらにそのような政局が、東京地検特捜部の本気度の高い捜査にも繋がっているとの見方を示しています。

政権から追放の安倍派。最大派閥の弱体化で自民党内で優位性を増す勢力

政治家に高い“志”を持てと願うのは、いまや非現実的なことなのかもしれない。パーティー券のセールスマンのような活動にあくせくし、せっせと裏金をためこんで、自分を磨くヒマもない。そんな国会議員が派閥の幹部にのしあがり、閣僚や党役員に登用されてゆく。それが日本政界の現実だ。

東京地検特捜部のリークが続いている。12月12日付朝日新聞は、自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)が直近5年間で所属議員にキックバックした裏金の総額は、なんと約5億円にも上る疑いがあると報じた。所属議員99人の大半が受け取っているとも書いてある。

各議員のパーティー券売上のうちノルマを上まわる分をキックバックし、収支報告書に載せないという派閥の慣行は、必ずしも安倍派だけの悪弊ではないだろう。安倍派が突出していたとしても、似たようなことが行われていたに違いない。

にもかかわらず、安倍派が東京地検特捜部のターゲットになっているのはなぜなのか。党内の権力争いがからむ国策捜査だという見方も根強い。

たしかに今回の裏金疑惑報道で、自民党の主要5派閥のうち、主流派といわれる宏池会(岸田派)、志公会(麻生派)、平成研究会(茂木派)についてはあまり取りざたされていない。宏池会のパーティー収入過少記載も今のところ、さしたる問題になっていない。

それはとりもなおさず、司法記者クラブのメンバーが夜討ち朝駆けで取材合戦を繰り広げるなか、検察幹部からリークされる中身が、もっぱら安倍派を中心としているということを物語っている。非主流派の二階派もやり玉に挙がっているが、キックバック分も収支報告書に記載されているので、ひとまず捜査対象から外れているようだ。

現下の政治情勢をながめると、岸田首相はレームダックの様相であり、麻生副総裁の支えがなければ、政権運営が不可能になっている。麻生氏はポスト岸田に茂木幹事長を担ぐハラで、すでに岸田首相を見限って、総理辞任への道筋を描いているとされる。来春、岸田首相が国賓待遇で訪米することになっているが、それを花道に退陣を迫る可能性がある。

そのような政局が、安倍派に対する東京地検特捜部の本気度の高い捜査につながっているのであろう。かつて検察の人事に介入した安倍元首相に対する不満を抱きながらも、検察は安倍氏の存命中には同派の問題に手をつけられずにいた。しかし今や、安倍派は会長も決まらず、小粒の実力者が乱立し、組織的なまとまりがない。メディアのいう「集団指導体制」は機能不全の状態だ。検察にとって、安倍派に斬り込むにはまたとないチャンスなのだ。

検察の強制捜査が安倍派に及べば、安倍派の弱体化は避けられない。それは、派閥の権力争いのなかで、麻生氏を中心とする勢力が党内で優位性を増すことを意味している。

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岸田首相に憎悪の炎を燃やす多くの安倍派所属議員

そのような情勢下、政権にかろうじてしがみついている岸田首相は一時、内閣と党三役から安倍派を一掃する考えを固めたといわれている。政権中枢に東京地検特捜部の捜査のメスが入る事態を避けたいためだろう。浅はかなことに、安倍派を追放すれば岸田政権のイメージが改善されると思ったのかもしれない。

安倍派の閣僚は松野官房長官、西村康稔経済産業大臣、鈴木淳司総務大臣、宮下一郎農林水産大臣だ。14日にも、この4閣僚を更迭するが、安倍派所属の副大臣と政務官については検討中のようだ。

22日には、萩生田光一政調会長や高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長も交代させる方向だったらしいが、萩生田氏は「出処進退は自分で決める」として14日中に辞表を提出するかまえだ。

萩生田氏の姿勢からは、安倍派幹部としての意地のようなものが感じられる。実のところ、安倍派の所属議員の多くが岸田首相に憎悪の炎を燃やしているのではないだろうか。これまで最大派閥の支持を得るために安倍派の幹部を政権の要所に配置してきた岸田首相が手のひらを返し、バッサリと彼らを切り捨てようとしているのである。

これで岸田首相は、来年秋の総裁選に出馬しても安倍派のまとまった支援は得られないだろう。ただでさえ内閣支持率が最低水準に達し、求心力が衰えている。泥船となって沈みつつある政権を麻生氏や茂木氏がいつまでも支えてくれるはずもない。それを覚悟のうえでこの人事を断行するとしたら、もはや総裁選での再選をあきらめているということか。

それにしても、この問題でメディアに追いまわされている政治家たちの見苦しい対応ぶりには辟易する。誰もが「捜査中なので」という理由を金科玉条のようにあげて、口をつぐむのだ。

内閣のカナメである松野官房長官は、1,000万円を超える裏金キックバックの疑惑について国会で追及された。松野氏は、想定問答ペーパーにいくつかの答弁パターンを用意し、どのような質問に対してもその中から選んで読み上げた。

「政府の立場としてはお答えは差し控える」「派閥への告発が行われ、関連して捜査が行われていることを踏まえて適切に判断する」「私の政治団体についても精査して適切に対応したい」。

延々それを繰り返して、恥じるところがないのだろうか。キックバックを受け取ったのか、受け取らなかったのかという単純な質問にさえ答えない。やましいところがなければ、きっぱり否定できるはずだ。

要は、刑事訴追されるのが怖いだけのこと。キックバックをもらったことを「イエス」とは言いたくないが、「ノー」と言えば、嘘をついたことになる。何も言わないのが賢明だから、意味のない答弁で時間をつぶすしか手がなかったということか。実にあさましい。

キックバックされた裏金の額が直近5年間で1,000万円をこえるとみられている安倍派幹部は、松野氏、世耕参院幹事長、高木国会対策委員長の3人である。朝日新聞によると、このほか、安倍派座長の塩谷立氏が数百万円、萩生田政調会長も数百万円、西村経産相が約100万円とされる。

ただし、共同通信によると、同じ期間に9,000万円超のキックバックを受けて裏金にしていた議員が1人いることがわかっている。これだけ多額の裏金を受け取ったとすれば、特捜部が逮捕の対象者としてみている可能性が高い。

このほか、派閥から直近5年間で5,000万円超~4,000万円超の裏金のキックバックを受けた疑いがある議員が3人いる。「頭悪いね」発言で注目度急上昇の谷川弥一衆院議員、大野泰正参院議員、それに安倍派の“パー券営業部長”こと、池田佳隆元文科副大臣だ。橋下聖子氏も1,000万円以上で名が挙がっている。

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終焉を迎えつつある日本政治を支配してきた安倍派の時代

彼らの誰もが、記者に説明を求められ、「捜査中なのでコメントを差し控える」「説明責任をいつかは果たしたい」などと、横並びの逃げ口上を述べたのは、お笑いでしかない。要するに、誰かが“先行自白”をしないようにするための組織的な口裏合わせであろう。

12月9日放送のTBS「報道特集」で、安倍派に所属する国会議員がキックバックについての取材にこう答えていた。

「派閥から政治資金収支報告書に書くなと言われたと事務所の会計責任者が言っていた」

「20年ぐらい前から続けられてきた。本来であれば、正式な手続きを経なければいけなかったものが、ある時点から『それはいいじゃないか』となおざりになっていった」

キックバック分を収支報告書に記載しないという派閥の方針を会計責任者が議員サイドに伝達したことが上記の証言でわかる。会計責任者に指示した「派閥」とは、事務総長とか会長を指すのだろうか。

20年前というと、2001年5月から06年10月まで森喜朗元首相が清和会の会長をつとめた時代である。安倍派では約20年にわたり、裏金作りが組織的に行われてきたということになる。

東京地検特捜部は安倍派所属の議員秘書や会計責任者を中心に事情聴取を続けているという。直近5年間で5億円もの政治資金が裏金化したという報道が事実ならば、額が大きいだけに、会計責任者だけでなく、直近5年間に事務総長をつとめた松野官房長官や西村経産相らの責任も問われるのではないか。

臨時国会の閉会後に閣僚級の議員が逮捕されるという噂も飛び交い、彼らはひたすら貝のように口を閉ざして自己防衛につとめてきた。2012年以来、日本の政治を支配してきた安倍派の時代は終焉を迎えつつあるようだ。

岸田政権も、あと何か月延命できるかという状況に陥っている。問題は、次の首相にふさわしい人材が自民党内に見あたらないことだ。麻生副総裁と茂木幹事長のシナリオ通りになるようだと、この国が暗闇から脱出する日はさらに遠ざかるだろう。

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