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誰もが発信できるという恐怖。ジャーナリストが伝授、ネット時代の情報はどう扱うべきか

ともすれば、人の命すら奪いかねないネットの力。誰もが情報発信可能な時代に生きる我々は、どのような自覚を持つべきなのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野さんが、若い世代に対して行った講座の内容を誌面に掲載。「情報」とは何か、そしてその情報をどう扱うべきかについての考察を紹介しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年1月29日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

ジャーナリストになりたい君へ《その1》/エンジン01 in 市原「中高生のためのハローワーク」での講演

1月27~29日に市原市の帝京平成大学キャンパスで開かれた「エンジン01 in 市原」では、プログラムの一環として「中高生のためのハローワーク」と題して32コマの1時間講座が組まれた。私はそのうち「ジャーナリスト〔になりたいと思うんだけど〕」のテーマを担当した。その内容は、中高生ばかりでなく大人にも、またジャーナリスト志望ばかりでなく広くリーダーシップを発揮しなければならない様々な仕事に携わる方にも役立つではないかと思うので、その要旨を多少補充しながら再現し、数回に分けて掲載する。

ジャーナリストとはどういう仕事か

一言でいえば、「報道」すなわち「情報を広く知らせる」仕事です。「情報」の「情」は、なさけ。その元の意味は「本心」すなわち本当の気持ち。そこから転じて「実情」すなわち「物事の本当のすがた」となります。

「報」は、むくい。「親のむくいが子にむくい」という怖い言い方がありますが、元は仕返し、報復、悪いことが巡り巡ってくるという仏教用語でしょう。そこから転じて、良いも悪いもなく、しらせ、告知という平たい意味で使われるようになりました。

情報と言えば中身はいろいろですが、ジャーナリストが扱うのは「日々の出来事」です。journalist の jour(ジュール)はフランス語の「日」。英語のdayですね。フランス語でBonjour(ボンジュール)と言えば「良い日」、今日はいい日ですねという挨拶です。日々の出来事は英語ではthe events of the dayないしcurrent events。それを日本語に訳し返すと「時事」です。currentの元の意味は「いま流れている、動いている」ことなので、まさに現在進行形で動いている日本や世界の出来事を素早く捉えて、その意味や背景、今後への影響などまで含めて広く伝えるのがジャーナリストの仕事と言えるでしょう。

その仕事にもいろいろな形があります。「記者」と言えばやはり「記す」ですから、文章を書いて人々に何事かを伝えようとする訳で、典型的には新聞記者や雑誌記者。コラムニストというと、新聞や雑誌などに定期的に署名入りの囲み記事を連載する場合で、私の場合、『日刊ゲンダイ』という新聞に毎週水曜日発売の号で「永田町の裏を読む」というタイトルのコラムを14年前から続けていて、今週で550回に及ぶ。この面から見れば私はコラムニストだが、それだけが私の表出スタイルではないので、そうは名乗りません。

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社員になるかフリーで生きるか

「リポーター」というと、訳せば「記者」なのですが、片仮名で言う場合のそれは普通、テレビの現場報告者のことを指すことが多い。現場に行かないで、テレビのワイドショーなどでスタジオに座ってどうだこうだ言っているのは「コメンテーター」で、訳せば「解説者」です。私は昔、リポーターもコメンテーターもずいぶんやりましたが、文章だと「推敲」と言って、読み直して手直ししたり書き直したりすることも出来るのに、テレビの生のリポートやコメントではそうはいかず、その場限りの瞬間勝負なので、自分の発する「言葉」の取り返しのつかなさという厳しさを味わいました。

文章や言葉ではなく写真や動画など映像で日々の出来事を報じる場合もあり、報道写真家やビデオジャーナリストがそれ。ビデオジャーナリストは1990年代にアメリカから出てきた報道スタイルで、たった一人で小型のソニーかパナソニックの小型ビデオカメラと三脚を持って現場に行ってカメラマン兼リポーターをこなします。まあ今ではユーチューブなどSNSを通じて誰でもそういうことが出来る時代になってしまいましたが。

さて、職業としてのジャーナリストということになると、大手のマスコミに就職してサラリーマンとして仕事をするのか、フリーランスとして特定のメディアには所属しないのかという違いがあります。私は約55年になるジャーナリスト人生のほとんど、50年間をフリーランスで過ごしていますが、これはなかなか悩ましい問題で、端的に言いますと、会社に就職すればメシを食うのに心配はないが思い通りの仕事が出来るかどうかの保証はなく、他方、フリーだと好きな仕事はできるかもしれないがメシを食うのは難しい――という矛盾です。

情報は「凶器」であるという自覚

近頃に起きている大きな問題は、「発信」するについてのプロとアマチュアの境界線はどこにあるのかということです。今時の若い皆さんは、生まれついた時から、あるいは遅くとも物心ついた頃にはすでに「ネット」があって、それで何もかも検索することが出来てこれほど便利なことがあるのかと思っておられるでしょう。しかし、このネットの恐ろしいところは、「受信」出来るだけではなくて「発信」出来てしまうというところにあるのです。

驚くべき長い年月を通じて、グーテンベルグの印刷術の発明以来600年と言えばいいのでしょうか、人々にとっての情報の自由とは「受信の自由」のことでした。ところが1995年インターネットの出現によって、いきなり「発信の自由」が解禁されて、誰もが「発信の自由」を謳歌することができるようになってしまった。それは素晴らしい情報の民主化の進展ではあるけれども、反面、ヘイトスピーチの乱発に見るような発信の自由の濫用が横行する。

そこで、ジャーナリストの仕事におけるプロとアマという問題が浮上します。誰でも発信できるというのは究極の情報の民主化であるには違いない。しかし、それを享受するにはそれなりの資格とは言わないけれども、或る試された知的水準によるチェックが求められるのは当たり前だとは思うけれども、そうはなっていないのです。

こういう風潮が恐ろしいのは、「情報は凶器である」ということの自覚を欠いていることにある。誰もが発信することが出来るのは結構ではあるけれども、その言論が簡単に他者を傷つけたり殺したりすることが出来ることの怖さを知るべきでしょう。〔続く〕

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年1月29日号より一部抜粋・文中敬称略)

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