韓国では「外国人選手にチョコパイを渡す」という行為が何を意味しているのかご存じですか? 今回、無料メルマガ『キムチパワー』の著者で韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者が、チョコパイに込められた韓国人の気持ちと、チョコパイの歴史について紹介しています。
外国選手にチョコパイを渡すことは「気に入った」「食事を欠かすなよ」という韓国人の情を表す行為
チョコパイは韓国好きになった人に贈る印でもあるが、この文化はパク・チソン選手(サッカー選手)がイギリスの舞台でプレーし始めた頃に生まれた。ソン・フンミン選手の所属チームのトッテナムが2年前に団体で来韓した時も、決まってチョコパイが渡され、ソン・フンミンのタックルで足首を怪我したアンドレ・ゴメス(エバートン)もチョコパイボックスをもらった。「食べて頑張れ」という意味だった。
外国選手にチョコパイを渡すということは、「あなたが気に入った」あるいは、「食事を欠かすなよ」という韓国人の情を表す行為だ。直径7センチで重さ30グラム余りの丸いお菓子、適度に甘くて食べるとお腹もいっぱいになる「国民おやつ」だ。その形自体が人間同士の温情のようなものを象徴する珍しいおやつ。韓国農水産食品流通公社の食品産業統計情報によると、チョコパイは昨年も国内小売店で最も多く売れたパイ部門1位。国内占領に続き、約60か国に進出し、世界の舞台を駆け巡る。今年で誕生50年、全盛期は現在進行形だ。
1970年代のはじめごろ、韓国の東洋製菓(現オリオン=チョコパイの生みの親会社)研究所の職員たちは韓国食品工業協会の主管で欧米先進国を巡回していた。そして米国のあるカフェで牛乳と一緒に出た「チョコレートコーティング菓子」(ムンパイ=Moon Pie)を味わった後、味覚を魅了する強烈な衝撃に包まれた。帰国して2年間開発に取り組んだ。
1974年4月、チョコパイが生まれた。カステラ、あんこ、クリームなど似たような味で綴られていた韓国市場にチョコレートとマシュマロという新しい版図を開いた瞬間だった。累積売上7兆ウォン。460億個が売れた。並べれば地球130周を回ることができる量だ。
最初は1個当たり50ウォンだった。ラーメン1袋が20ウォンの時だ。チョコパイはパンではない。パイ、だからお菓子だ。菓子にしては決して安い価格ではなかった。それでもうまくいった。おいしいから。需要が急増し、ひと月の生産規模が1977年17億ウォン、1978年26億ウォン、1979年83億ウォン、1980年122億ウォンに跳ね上がった。1996年には製菓業界で初めて単一製品の月売上が50億ウォンを超えた。
ライバルが現れた。1978年ロッテ製菓(現ロッテウェルフード)、1986年にはヘッテ製菓、1989年にはクラウン製菓がチョコパイのラインナップに飛び込んだ。もはや対決は宿命だった。
ブランド名からぶつかった。クラウン製菓は「チョコパイ」の「チョ」のハングル表記を点をもう一つつけて100%同じではないものにしたが、ロッテは100%同じだった。名前も味も形も似ているので、ナーバスにならざるを得ない状況だ。
オリオンは「ロッテ側の商標登録を取り消してほしい」と訴訟を提起した。2001年、最高裁判所の判決が出た。「チョコパイは商標として認識されているというよりは、円形の小さなパン菓子にマシュマロを入れてチョコレートでくるんだ菓子類を指す名称」とし「チョコパイは原告が創作した造語であることに相違ないが希釈化され、該当商品の普通名称ないしは慣用シンボルになっていて商品の識別力を喪失した」と。
このようにチョコパイは個人所有になれない「普通名詞」の運命を受け入れざるを得なかった。不本意ながら「国民商標」になってしまったわけだ。悔しいオリオンとしては、差別化戦略が必要だった。そこで考えられたのが「情」の漢字をパッケージに入れることだった。1989年に導入したが、それからは本格的に感性に触れる「『情』マーケティング」に集中した。
2011年、地上波テレビ広告としては初めて2分間の映像を広告として流した。ほぼ長編映画に相当するレベル。韓国人の情緒を表現するには15秒は短すぎるということだった。家族・友人・隣人の価値を前面に出す戦略は的中した。単なるお菓子ではなく、「気持ち」の証として認識されたのだ。関連論文まで出るほど独特な事例として挙げられる。現在、チョコパイ市場では元祖が勝機を握っている。オリオンの関係者は「発売50年を迎え、顧客への恩返しのためのイベントを企画している」と話した。
ロシアでは前大統領(メドベージェフ)がおやつとして楽しみ、マンゴー、チェリー、ケシなどチョコパイの種類だけで14種類。ベトナムでは祭祀の膳に上がるほど絶対的に愛されている。いずれもオリオンがしっかり握っている国々だ。
しかし、インドに限っては事情が違う。ロッテが2004年、現地の会社を買収して先に打って出たためだ。宗教的な理由で牛肉を食べない味覚を考慮し、植物性原料を活用したマシュマロを開発した。市場シェア約70%。現地化に成功し、売上も2022年650億ウォンから昨年760億ウォンに跳ね上がった。高速鉄道の機内食メニューにも含まれた。ロッテウェルフード代表が今年初の海外訪問地としてインドを選んだ理由だ。
チョコパイは今、名実共に「Kフード」の最前線として世界を駆け巡っている。人気の証は偽物の登場。2015年には堂々と「Choco Pie」という製品を発売し、東南アジアやインドまで輸出したベトナム製菓会社もあった。2018年ベトナム特許庁(NOIP)が現地業者の商標権侵害結論を下したが、依然として偽物業者等は「Choco Pai」等(PieとPaiが違う)に名前を変えながら笑えない度胸一本商売を繰り広げている。オリオン関係者は「誤認消費による被害を防ぐために措置をしているが、味が違うので偽物はどうしても売れないようだ」と話した。自信に満ち溢れている。偽物が登場したことで人々が多く知ることとなり、しかも本物志向が強まるため(おいしいから)オリオンとしては静かに法的処置を待つだけのようだ。(朝鮮日報参照)
チョコパイの宣伝のようになってしまったが、決して宣伝したいわけではない。筆者も日本帰りのときのお土産としてよくもっていくお菓子がこのチョコパイなので、ご紹介させていただいた次第。ご理解のほど。
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