「ふてほど」の略称もすっかり定着したTBS系のドラマ『不適切にもほどがある!』。脚本の宮藤官九郎が繰り出すさまざまな「仕掛け」が話題となっている本作ですが、2月23日放送の第5話では「衝撃的な展開」が大きな話題となりました。今回のメルマガ『施術家・吉田正幸の「ストレス・スルー術」』では著者の吉田さんが、そんな「ふてほど」のネタと演出の巧みさを絶賛。その上で、「古いと言われる人間の役目」についての自身の思うところを記しています。
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不適切にもほどがある~昭和と令和の脈動~
日本ドラマのレベルが上がっているな、と思ったのが「VIVAN」や「ブラッシュアップライフ」を観てからだ。特に「VIVAN」は今までになく面白かったし爽快だった。「ブラッシュアップライフ」は癖があるので個人差があるだろう。
日本のドラマを海外作品と比較したとき、見劣りすると言われがちなのがスケールだ。潤沢な予算のある海外と比べると日本のコンテンツはどうしたって規模感では太刀打ちできない。しかし「VIVAN」はそんな比較を突き破った感覚があった。
「VIVAN」の内容をシンプルに伝えると、ただの平凡なサラリーマンが、国際テロの渦中の人に。次から次に襲いかかってくるトラブルと、それを知恵と勇気でなんとか切り抜けていく男たちの姿を描いた作品。なんといってもモンゴルの壮大なロケはさぞかし大変だったと思う。
豪華キャストもあって熱量が毎回上昇し続けるドラマだった。
日本のドラマが世界的に評価される時代がやってきてほしい。韓国ドラマに心奪われている女性陣と対抗して日本男児らしく日本ドラマに没頭するべきだ、などとは思わないがそう感じさせるほどインパクトがあって面白かった。
それだけではない。
情報メディア「SHUFUFU」が、20代以上の男女200人(男性49人、女性151人)を対象に行った「今期面白いTVドラマ」に関するアンケート結果を公表した。
「今期のドラマで最も面白いと思うドラマは?」と聞いたところ、3位は「Eye Love You」だという。心の声が聞こえる「テレパス」という能力を持っている役柄を生かした恋愛ストーリーで、今回のアンケートでは女性のみが支持したらしい。
「韓国ドラマを見たことがなく俳優さんも知らなかったのですが、少しカタコトの日本語にとてもキュンときて、とても楽しく見ています」(30代女性)…を皮切りに、
「テレパスがために恋愛に臆病になっていた女性が言葉の壁によって恋愛が芽生えていく展開に毎回惹き込まれます。チェ・ジョンヒョプ演じるテオの真っ直ぐな愛情表現に胸キュンが止まらない作品です」(40代女性)、
「テンポが良い恋愛ドラマで観ていて楽しいからです。韓国人俳優のチェ・ジョンヒョプさんもかっこいいです」(30代女性)などの意見があったらしい。
正直、「Eye Love You」に関しては、ハイハイハイという、ああ、いつもの恋愛歌ね~という感じで完全にスルーしてしまった。この構成と演出であれば韓国ドラマには勝てないだろう、などと斜に構えてみるくらいのドラマだと感じる。
そして2位は「おっさんずラブ リターンズ」が入ったらしい。男性同士の恋愛模様を描いて2018年に爆発的なヒットになった連続ドラマ「おっさんずラブ」の続編で、女性の支持が圧倒的だったという。
多様性時代となり、この「おっさんずラブ」や「きのう何食べた」などはスムーズにお茶の間に受け入れられて逆に楽しめるのだと思う。
そして、1位は「不適切にもほどがある!」が他を圧倒したらしい。昭和時代のおじさんが令和時代にタイムスリップしてしまうストーリー。
1986年。中学の体育教師で野球部顧問の市郎(阿部サダヲ)は、生徒から「地獄のオガワ」と恐れられ、家庭では一人娘の純子(河合優実)の非行に手を焼いている。ある日、バスでうとうとした市郎は2024年の日本にタイムスリップ。事態が飲み込めない中で渚(仲里依紗)という女性と出会う。一方、純子は令和の時代から来た中学生・キヨシ(坂元愛登)に一目ぼれしたと告白されていた。
※ 上記のあらすじは、番組公式サイト等より引用
この1位はまったくの同感で第1回目などは涙流しながら大笑いして観てしまった。完全に昭和のオッサンを自覚してしまった瞬間だ。少し悲しさはあるけれどつくづく昭和な自分を自覚してしまったドラマである。
あとは、新鮮な構成がうかがえる。このホワイト化社会を考慮してか番組の放送スタートと同時に、劇中の不適切と感じられる表現に対し、予め注意喚起の“お断りテロップ”を表示したのが新鮮。SNS上で話題を集めたらしいがそれもうなずけた。
その注意書きが下記の通り。
この作品には、不適切な台詞や喫煙シーンが含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します。
立派ではないか、十分にリスクを承知の上でこのホワイト化社会に挑んでいるスタッフの本気度も伝わる。この注意書きこそがドラマ自体の本筋なのだと思う。
この情報メディア「SHUFUFU」に寄せられた感想も面白い。
「今の時代には不適切だと言われるシーンが沢山あり、単純に面白いため。また、その中でも今の世の中のおかしい点を皮肉っている部分がメッセージ生があって良い」(20代女性)、「昔と今のコンプラの違いがユーモアある内容で描かれていて面白いし、とにかく役者さんたちがみんな上手くて良い」(40代女性)、「昭和の働き方などが、見えて面白い」(30代男性)、「昭和の時代を面白おかしく取り入れながら、コンプライアンスでがんじがらめの現代に風刺を効かせつつもコメディで爆笑できる作りになっていてすごく面白いです!」(40代女性)などが理由として挙げられた。
ハッキリ言って、昭和と令和のタイムリープが陳腐なのだが、それはそれでよしとできるほど、登場人物が昭和と令和を行ったり来たりして生じる時代のギャップのコメディ感が面白い。
もちろん、表現に誇張があるのも仕方ないが、自分のような昭和世代にとってはメッチャあるある!!という感じで涙を流して笑ってしまった。
これを平成世代の人たちはどんな感想を持って視聴するのか興味がでてきた。
阿部サダヲが令和にやってきて、少年ジャンプで時代を確認するシーン、「北斗の拳は?シェイプアップ乱は?」って言ってきた「シェイプアップ乱」とかマニアックに攻めてくるところも凄い(笑)。
いくら昭和(1986年)でもさすがに教師が教室でタバコは吸ってないし、「タイムストリップ」ってベタなギャグとか、「『もやし野郎』はもやし農家の方に失礼でした」のくだりもくだらないほどに爆笑に誘われた。
そして、はぁ!?なんだコレ、と思ったのが、賛否両論のミュージカル演出である。初回にはそれこそびっくりしたが、自分はアリだと感じた。なんといっても新鮮だ。
「炙りシメサバ♪」の合いの手、「それが組織♪」がポーズも含めて癖になった(笑)。ミュージカル中の歌詞をそのまま会話用の台詞に起こしたら説教臭くなるだろう。だからこそ、逆にミュージカル風にして遊び心をつける事で、前半のコミカルな雰囲気や軽やかなテンポとの釣り合いがとれていく。
加えて、今の時代がスマホいじりやワークライフバランスなどで“1人の時間”に閉じこもる人が増えている社会である事も考慮すると、その風潮をさり気なく皮肉っているようにも見えて、中々巧妙な手法だと感じた。うまい!一本!!と言える演出だ。
初回だけかと思ったら、このミュージカル演出は毎回あって歌(台詞)も違っていて、今ではなくてはならない演出になってしまった。スタッフ会議では賛否両論があったのか知らないが巷で賛否両論が出るくらいが逆に突き抜けられると思う。
それに昭和のエロ全開な深夜番組と、令和のホワイト化に一歩片足を突っ込んだプラスティックな情報番組を交互に配し、見る側の「不謹慎という価値観」を揺さぶってきた。
昭和も無茶苦茶だけど、令和の時代も数十年後の人からは無茶苦茶だと思われるのだろう。
昭和が平成をつくり、平成が令和をつくった。僕らも散々言われた「今時の若いやつらは」というフレーズ。このフレーズを繰り返していくことになんの意味もなく。今時の若いやつらが未来を作っていく事に信頼を寄せていくことが古いと言われるひとのお役目なのだろう。
しかし、いつの時代でも人間関係においては“泥臭い”ものが階段を一段上がれるきっかけになることは間違いないと思いたい。ホワイト化が進めば闇も深くなるから。
――(メルマガ『施術家・吉田正幸の「ストレス・スルー術」』2024年2月24日号より一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、2月分のバックナンバーをお求め下さい)
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