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国民年金の「免除期間が多い人」はどのくらい年金が少なくなるのか?

国民年金には「免除制度」というものが存在します。今回の人気メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、この免除制度について詳しく解説するとともに、免除期間が多い人はどのくらい年金を貰えるのかについても、例を挙げながら詳しく紹介しています。

主に国民年金保険料に存在する免除制度と、免除期間が多い事による老齢の年金額の低下。

1.国民年金保険料は所得に関係なくみんな同じ保険料。

日本国民の中には会社に雇用されて働いてるサラリーマンや公務員、そして自分で事業をやってる自営業や農業その他の人がいます。

前者は原則として厚生年金に加入して、支払われる給料(標準報酬月額)から一定率の保険料が徴収されています。

厚生年金保険料率は18.3%ですが会社がその半分を負担しなければならないので、9.15%の率の保険料を社員が負担します。

健康保険も半分負担しており、雇用保険はやや多めに会社が負担し、労災保険は会社が全額負担しています。

サラリーマンや公務員として働いてる人は社会保険料の負担の面で非常に恵まれています。

また厚生年金は厚生年金だけに加入しているわけではなく、国民年金にも同時に加入しているので、将来は給与に比例した厚生年金(老齢厚生年金)だけでなく国民年金から加入期間に応じた老齢基礎年金が受給できます。

この2つが基本として受給できるので、手厚い給付を受ける事ができます。

逆に自営業などの人は国民年金のみに加入しているので、将来は国民年金のみである老齢基礎年金だけを受給する事になります。

なので国民年金以外に何か老後のための給付を用意しておく必要があります。

ちなみに国民年金のみの人は厚生年金のように一定率の保険料ではなく、全ての国民年金のみの人が定額の保険料を納める義務があります。

その額は令和6年度は16,980円、令和7年度は17,510円となっています。

もちろん会社が半分負担というものはないです。

よって、どんなに所得が低かろうが高かろうがこの保険料を納めてもらう必要があります。

国民年金保険料は最近の物価や賃金の伸びが大きいので、保険料も上昇しています。

国民年金保険料は物価や賃金の伸びに影響するのです。

約17000円というのは結構高い保険料ですよね。

厚生年金のように給与に一定率の保険料率を掛けて徴収してくれれば良いのですが、所得があろうがなかろうが平等に定額の保険料を支払う必要があります。


2.国が一方的に保険料額を決めてしまうと支払えない人への配慮ができない…ならどうするか。

そうすると所得が低い場合は納められないという人も当然現れてきます。

所得が低い場合というのは、単に給料が低いというだけでなく、病気や怪我で労働ができないとか突然の災害で財産を失ってしまったというような本人の力ではどうしようもないケースもあります。

よってそのような場合を想定して、国民年金保険料には免除という制度が設けられています。

国側で一方的に保険料額を決めてしまったから、もしそれを払うのが厳しいなら免除を利用してくださいねという事で、国民年金が始まった昭和36年4月から導入されました。

当時は所得税が払える人は国民年金の被保険者となる人の約2割程度しかおらず(被保険者3000万人ほどのうち600万人ほど)、そのように大半が保険料が払えない人が想定されていたなら、給与に比例した保険料を取ってくれればいいじゃないかという声もありました。

そもそもそんなに所得が低い人が多いなら国民皆年金なんて不可能だろうとも言われました。外国の専門家からは単に費用ばっかりかかるだけだと冷ややかに見られました。

とはいえ厚生年金や共済年金、恩給から外れていた大半の国民は自分たちにも年金を作ってくれという声が強く、全ての人を年金に加入させ、将来は誰もが年金を受給するという制度を実現させました。

核家族化が進む中、扶養する家庭の力が弱くなっていく上ではどうしても国が面倒を見る必要が出てくるからですね。

しかしながら、国民年金のみの加入者というのは多くが農家や自営業などの正確には所得がわからない人がほとんどを占めていたので、サラリーマンのように毎回の給与支払いがわかってそれから保険料を徴収するのとはワケが違いました。

今現代の令和でも会社で働いてる人以外の正確な所得がよくわからないのに、今から60年も前なんてわかるはずないですよね。

だからあれからずっと国民年金保険料は所得にかかわらず定額保険料を支払ってもらうというやり方をとっています。

先ほども申しましたようにそれだと支払いが困難な人は困るので、そういう人は免除をしてもらって、もしその後に払えるようになったら払ってくださいという事になりました。

免除にしたところは過去10年以内であれば追納ができるので、その間に払えるようになったら払ってくださいよと。

しかし、免除にしたまま結局払わなかった場合は年金受給資格期間の25年(平成29年8月からは10年)には組み込み、また、国が国庫負担(税)を3分の1投入しているのでその税金分に相当する年金は受け取れるという仕組みになりました。

平成21年4月以降の期間は国庫負担が3分の1から2分の1に引き上がりました。

3.免除の種類。

さて、免除制度には主に全額免除と半額免除、4分の3免除、4分の1免除の4段階があります。

所得によって使える免除は変わってくるのですが、特に所得が低い人は全額免除を利用する場合が多いです。もちろん全額免除じゃなくて他の免除を選択する事も可能です。

ちなみに国民年金のみの人(国民年金第1号被保険者)は約1400万人ほどいますが、そのうち600万人ほどが全額免除者となっています。割合としては43%ほどの人が全額免除。

逆にその他の免除を利用してる人は約40万人ほどであり、3%弱程度となっています。

免除者の大半の人が全額免除を利用しています。

なお、厚生年金の被保険者約4500万人は必ず給料が支払われるので、免除制度は産前産後免除などの特殊な場合を除いて原則としては存在せず、納付率はほぼ100%となります。


さて、免除は大まかに4つの種類がありますが、もともと4つあったわけではありません。

昭和36年4月から平成14年3月までの約40年間は全額免除のみが存在しました。

だから、それまではキッチリ払うか、それとも全く払わないかの2択しかありませんでした。

高度経済成長期、安定成長期、バブル期、停滞期などを経て給与水準もずいぶん変化していったため、人々の所得水準に応じた保険料を納めてもらおうとして、免除にも段階をつける事で所得水準に応じて保険料を払ってもらおうとしたためです。

中には少しでも支払いたい人もいるからですね。
そういう要望に応えて免除に段階をつけたわけです。

半額免除は平成14年4月から始まり、4分の1や4分の3免除は平成18年7月から始まったという事は覚えておいてほしいと思います。

他に学生が利用する学生納付特例免除は平成12年4月以降、30歳未満の若年者猶予特例は平成17年4月から始まりました(納付猶予は平成28年7月からは50歳未満に拡大)。

今回は免除期間が多い人の年金額を計算してみましょう。

4.免除期間がやや多かった人の年金額の一例。

◯昭和57年2月7日生まれのA太さん(令和6年に42歳)

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20歳になる平成14年2月からは国民年金に強制加入となり、A太さんはまだ大学生でしたが国民年金保険料を納める義務が発生しました。

当時は13300円の保険料はなかなか負担が大きくて、払えないと思ってそのまま無視していました。

ところがそのうち督促状や催告状などが届くようになり、このままだと財産差し押さえという事になるとの事だったので、平成15年9月になってようやく市役所の国民年金課に相談に行きました。
(財産差し押さえは所得が300万円以上で、7ヶ月以上の滞納の人は強化されています)

アルバイトはしていたものの収入としては払うのが困難である事を伝え、学生納付特例免除を利用する事にしました(令和6年現在は所得の目安は128万円)。

学生納付特例免除は当時は申請月の前月から翌年3月までの免除だったので、4月になったらまた申請をしに行きました。A太さんは大学院にまで進学しました。

平成15年8月から平成18年3月までの32ヶ月間は学生納付特例免除(この間は老齢基礎年金には反映しない)。

ーーーー
※参考
免除サイクルは平成17年改正により、その年の7月に申請したら前年7月から翌年の6月までの2年を免除承認となりました(学生は前年4月から翌年3月までの2年)。

なお、7月を過ぎて申請した場合は申請した年の7月に遡って翌年6月まで免除。
それ以降も免除したい場合はまた申請しに行く。

平成17年改正以前は申請月の前月以降6月までを免除としました(学生は申請月の前月から翌年3月まで)。

平成26年4月になると免除サイクルは申請月から最大2年1ヶ月前と翌年6月までが免除承認期間となりました(学生は最大2年1ヶ月前と翌年3月まで)。
ーーーー

平成18年4月からは就職したものの、正社員になれずに非正規雇用者としての勤務だったため、厚生年金加入になれませんでした。

そのため国民年金保険料を自ら納付する必要があり、平成25年6月までの87ヶ月間は納付しました。

平成25年7月から平成26年12月までの間の18ヶ月は未納にしていました。

未納にしているといろいろ催告が来るので、市役所に相談しに行って免除手続きをしに行きました。

免除が承認され、過去の2年1ヶ月以内の未納の期間のうち平成25年7月から平成27年6月までの24ヶ月間が全額免除となりました(老齢基礎年金の2分の1に反映)。

平成27年7月から令和6年6月までの108ヶ月間は少しでも保険料を納めようと4分の3免除(老齢基礎年金の8分の5に反映)。

令和6年7月から60歳前月までの令和24年1月までの211ヶ月間は厚生年金に加入。なおこの間の平均標準報酬額(給与と賞与を合計して平均したもの)は58万円とします。

さて、60歳までのこの年金記録では65歳からはどのくらいの年金が受給できるでしょうか。やや免除期間が多いですが。


まず年金記録をまとめてみます。

・未納期間→平成14年2月から平成15年7月までの18ヶ月

・学生納付特例免除→平成15年8月から平成18年3月までの32ヶ月(年金には反映しない)

・納付→平成18年4月から平成25年6月までの87ヶ月

・全額免除→平成25年7月から平成27年6月までの24ヶ月(老齢基礎年金の2分の1に反映)

・4分の3免除→平成27年7月から令和6年6月までの108ヶ月(老齢基礎年金の8分の5に反映)

・厚年期間→令和6年7月から令和24年1月までの211ヶ月

また、老齢の年金を受給するためには年金受給資格期間10年以上(120ヶ月以上)ないといけないですが、A太さんの場合は未納期間18ヶ月を除く462ヶ月間あるので満たしています。

これで65歳からの年金総額を計算してみます。

・老齢基礎年金→令和6年度満額816,000円(令和5年度に67歳までだった人)÷480ヶ月(国年加入上限)×(納付87ヶ月+厚年211ヶ月+4分の3免除108ヶ月÷8×5+全額免除24ヶ月÷2)=816,000円÷480ヶ月×377.5ヶ月(小数点3位未満四捨五入)=641,750円

・老齢厚生年金(報酬比例部分)→平均標準報酬額58万円×5.481÷1000×211ヶ月=670,765円
(差額加算は微額なので割愛します)

よって、年金総額は1,312,515円(月額109,376円)

というわけで、免除期間がやや多かったり未納期間も少しあったので老齢基礎年金が満額よりも20万近く少ないですが、実務上はもっと免除期間が多い人がいるので今回はまだマシな方でしたね^^;

ちなみにもっと年金を増やしたい場合は、免除期間は過去10年以内は追納して保険料を納める事ができますので、積極的に追納を利用するといいです(未納期間は過去2年1ヶ月以内)。

なお、追納が3年度以前の場合は当時の保険料よりやや高い保険料を支払う必要があります(利息みたいなもの)。古い保険料になればなるほど当時の保険料より高めになります。

追納する場合は一番古い期間から納める必要があります。

あと、60歳から65歳までは国年加入の最大480ヶ月になるまで国民年金に任意加入する事もできます(厚年加入中は不可)。

厚生年金は480ヶ月縛りはなく最大70歳まで加入できるので、それにより厚生年金額が増加します。

※追記
4分の3免除はどうして老齢基礎年金の8分の5に反映なのか。

全額免除は国庫負担(税)が2分の1投入されていますので、保険料を全く支払わなくても老齢基礎年金の2分の1がもらえます。

国が2分の1を税で負担し、もう2分の1は個人の保険料を支払って満額の老齢基礎年金になります。

個人が払う保険料を2分の1として、それを4分の3免除するという事は4分の1は払うという事。

そうすると個人が払う分は2分の1×4分の1=8分の1となり、国の負担2分の1+個人が8分の1=8分の5となる。

では本日はこの辺で。

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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