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二階元幹事長「不出馬」で“お咎めなし”の茶番劇。岸田独裁体制に利用される自民ウラ金問題イカサマ処分の本末転倒

自民党の裏金問題をめぐり、衆参両院で開かれた政治倫理審査会。しかしそこでは何ひとつ真相が明らかになることはなく、岸田首相が狙いとしていた裏金問題の幕引きは失敗に終わった形となりました。そんな首相サイドが次なる手として画策する「大物議員の処分」に異を唱えるのは、毎日新聞で政治部副部長などを務めたジャーナリストの尾中 香尚里さん。尾中さんは今回、この処分を「いかさま」と判断する理由を詳細に解説するとともに、国民に対して自民党の「やってる感」に振り回されぬよう警戒を呼びかけています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:裏金問題と自民党の処分

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

裏金問題を利用し党内の独裁体制作りを画策する岸田首相

自民党の派閥の政治資金パーティー裏金事件の焦点は、ここへ来て党内の関係議員の処分の行方に移っている。岸田文雄首相は4月上旬にも、組織的な裏金づくりをしていた安倍派の幹部に、何らかの処分を行う見通しだ。メディアは自民党の規約に基づく8段階の処分を図表で紹介し「どこまで重い処分になるのか」「処分は自民党内の力学にどんな影響を与えるか」を楽しそうに報じている。

あ然とするほかない。国会における一連の政治倫理審査会(政倫審)が、裏金事件の真相解明に全く寄与しなかったのは、衆目の一致するところだ。にもかかわらず岸田首相は、何を理由に処分するというのか。

だいたい処分の目的は、自民党という組織全体の「金権腐敗体質を一掃」することのはずだ。それがなぜ「党内政局」の文脈で語られるのか。岸田首相が目障りな勢力の力を削ぎ、自らの「独裁」体制をつくるために裏金事件が「利用」されるのなら、本末転倒もいいところだ。

自民党の権力闘争を楽しむ前に、このいかさま「処分」の本質を直視すべきだ。

最近の岸田首相は、裏金事件をいかに「幕引き」するかばかりに執着していたようだ。呼ばれてもいない政倫審に自ら出席するパフォーマンスを演じたかと思えば、自民党内でさえ慎重論があった「土曜日(3月2日)の予算委員会開催」を強行させ、2024年度予算案の「年度内自然成立」をゴリ押しした。

予算案の年度内成立が確実になれば、メディアなどが「野党はいつまで裏金をやっているのか」と騒ぎ立て、事態は沈静化する、とたかをくくっていたのだろう。

だが、首相が予算委本来の質疑時間を11時間も削って野党などから質問の権利を奪い、多くの官僚や記者の休日を失わせたにもかかわらず、裏金事件はいっこうに「幕引き」できない。首相の政倫審出席は、真相解明につながらなかったため、かえって国民の不興を買い、自民党は国会で「衆参両院に政治改革関する特別委員会の設置」を約束させられた。

首相にとって、こんな状況は耐え難いに違いない。そこで「大物議員処分」をメディアに盛り上げてもらい、幕引き「感」(「幕引き」でさえない)を演出したいのだろう。狙いは「処分」を終えた4月上旬以降、衆院解散のフリーハンドを得て、党内政局の主導権を握り返すことだ。

政治をゆがめ、民主主義への信頼さえ失墜させかねない自民党の裏金事件が、つまらぬ党内政局の駆け引きの材料にされているのだ。

それどころか岸田首相は、単なる駆け引きの域を超え、裏金事件を「利用」して自らの独裁体制を作ろうとしているのではないか、とさえ思える。

クリーンな岸田首相が悪党の安倍派を成敗という「絵づくり」

まず、処分対象の選び方が極めて恣意的だ。

処分の焦点となっているのは安倍派幹部である。裏金事件を自民党全体の問題から「安倍派問題」に矮小化させ「クリーンな岸田首相が悪党の安倍派を成敗する!」という「絵づくり」を画策しているように見える。実際、朝日新聞の22日朝刊に、岸田派中堅議員のこんな言葉が紹介されていた。

「(安倍派)幹部だけでいいから『離党勧告』などの厳しい処分を下して『罪人は追放しました』と訴えないと収まらない」

同じ日に同党の茂木敏充幹事長は、金沢市で記者団に対し、処分について「上に甘く、下に厳しいことにならず、責任ある立場の方に厳正な対応ができる形を取りたい」と語った。

一体どの口が言っているのだろう。安倍派幹部をかばう気持ちなどさらさらないが、岸田首相も茂木氏も、彼らを「成敗」できる立場にあるのか。

岸田派は3年間で3,059万円にのぼる派閥のパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかったとして、元会計責任者の有罪が確定した。茂木氏の資金管理団体から寄付を受けている政治団体では、3年間で約9,400万円にのぼる使途の詳細が不明な支出があったと報道されている。

不祥事に手を染めた可能性が高い党幹部が、その真相を解明することもなく、所属議員を「罪人」呼ばわりして追放するのは許されない。国会で求められている証人喚問などの場に積極的に応じ、事件の全真相を明らかにした後で、最後に行うのが処分であるべきだ。「4月上旬」などと早まる必要は全くない。

真相解明の結果次第では、岸田首相と茂木氏への重い処分が求められる可能性もある。それを行わずに自らが単なる「処分する側」にとどまるなら、それは卑怯というものだろう。

何より「恣意的な処分」は、結果として岸田首相の党内基盤を強める、つまり「焼け太りになる」可能性を拭いきれない。

自民党の処分は党規約に基づく8段階のうち、4番目の「選挙における非公認」や3番目の「党員資格停止」が焦点となっている。「重い処分だ」と安易に歓迎すれば、岸田自民党を「強くする」ことに手を貸すことになりかねない。

例えば「選挙における非公認」だ。処分された議員はおそらく、公認がなくても無所属で立候補する。比例代表での復活当選の可能性を失うリスクはあるが、当選すれば「みそぎは済んだ」として、頃合いを見て復党させることは可能だし、その時には彼らの党内での影響力は大きく削がれているだろう。落選しても首相から見れば「目障りな存在が消えた」だけであり、下野でもしない限り(少なくとも首相は今、それを想定していない)、痛くもかゆくもないはずだ。

仮に岸田首相が、非公認にした議員の選挙区に、次期衆院選で公認候補、いわゆる「刺客」を立てたとしたら、メディアは「非公認候補vs刺客の仁義なき戦い!」をこぞって盛り上げるだろう。小泉純一郎首相(当時)が2005年に仕掛けた「郵政選挙」をなぞる展開になるわけだ。野党の存在はかすみ、どちらが勝っても岸田首相に損はない構図が生まれる。

「派閥解散祭り」に続く「大物議員処分祭り」に踊らされる国民

こんなことを書いていたら25日、二階俊博元幹事長が「次期衆院選への不出馬」を表明した。二階氏は裏金事件で、自らの派閥の二階派から受け取った約3,500万円あまりを政治資金収支報告書に記載しなかったとして秘書の有罪が確定し、派閥の元会計責任者も在宅起訴された。個人別の不記載の額は党内で最多だったはずだ。

85歳の二階氏が次期衆院選に出馬しないことは、政界ではほぼ織り込み済みだったはず。その「既定路線」を表明しただけで、岸田首相は処分を「お目こぼし」するのだろうか。

さて「非公認では軽すぎる」という世論が高まり、処分の焦点が一段高い「党員資格停止」となれば、総裁選での投票に直接影響を与える恐れもある。処分が真相解明の結果を受けて、明確な基準に基づき行われたのならいざ知らず、恣意的な形で行われるなら、どんなに否定してもその可能性はずっとつきまとう。

裏金が国政選挙や地方選挙における買収に使われ、選挙結果がゆがめられた可能性さえ指摘されているなか、自民党は自らの党の総裁選まで結果をゆがめようというのだろうか。

少し前の「派閥解散祭り」もそうだったが、「大物議員処分祭り」のような派手な動きに踊らされるのは残念だ。窮地に陥った自民党がどんな手段で起死回生を図るか、さまざまな例を思い出せるはずだ。自民党の「やってる感」に振り回されるのは、いい加減卒業したい。

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image by: 首相官邸

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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