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本気で狙うノーベル平和賞。ウクライナ戦争を「ロシアへ割譲」案で早期に終わらせたいトランプの本音

大手通信社ロイターなどが行った最新の調査では、バイデン大統領がトランプ前大統領に支持率で4ポイント上回ったものの、接戦の予想が伝えられる11月のアメリカ合衆国大統領選挙。トランプ氏の再登板は国際社会に大きな影響を与えることは必至との見方が多くを占めますが、ウクライナ戦争もその例に漏れないようです。安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさんは今回、米メディアの報道で明らかになったトランプ氏の「終戦案」の内容を紹介。さらにウクライナ戦争の早期終戦に意欲を見せるトランプ氏の本音を考察しています。

トランプ氏がウクライナ領土の割譲案で終戦を検討か?

米メディアは最近、トランプ氏がウクライナがロシアに占領されているクリミア半島やドンバス地方を割譲することで戦争を終結させようとしていると報じた。トランプ陣営は報道内容について、様々な憶測は無知な匿名の情報源によるものだと批判したが、これまでトランプ氏は24時間以内にウクライナ戦争を終わらせると発言しており、今回その具体的な中身が明らかになったと捉える必要がある。

では、仮にトランプ氏は秋の大統領選挙で勝利すれば、ウクライナ問題にどう対処していくのか。まず、トランプ氏はウクライナへの軍事支援を最優先で停止すると言及しているので、ゼレンスキー大統領に対して軍事支援を停止する話を持ちかけると同時に、ロシアとの終戦に応じるよう要求することだろう。

バイデン政権はウクライナを台湾と同じく民主主義と権威主義の価値観を巡る戦いと位置付け、ウクライナを全面的に支援することを米国の大義としてきたが、トランプ氏は米国の利益にならないことには興味がない。しかも明確に、目に見える形で米国の利益になることにしか価値を見出さないため、ウクライナの勝利もトランプ氏にとっては価値のないものなのだ。

現状での終戦は、当然だがウクライナにとっては到底受け入れられるものではない。クリミア半島やドンバス地方の割譲はロシアによる軍事侵攻を正当化する根拠となってしまう。

トランプの停戦呼びかけに応じないウクライナ批判を展開するプーチン

一方、トランプ氏はプーチン大統領に対して早期に侵攻を停止し、終戦に応じるよう呼び掛けるだろう。ウクライナにとっては受け入れ難い終戦案でも、ロシアにとっては決して都合の悪いものではない。

今日の戦況は圧倒的にロシア優勢だが、侵攻当初は欧米による軍事支援でウクライナ軍の優勢が顕著に見られ、ロシア軍も多くの兵士を失い、これまでのプロセスはロシアにとって決して平坦ではなかった。その状況下で占領地域を維持してきたロシアからすれば、それを正当化できる終戦案はむしろ好都合と言えよう。トランプ氏が終戦案を提示すれば、プーチン大統領は真っ先に受け入れを表明し、それを受け入れないウクライナへの批判を展開することだろう。

単なる功名心。ウクライナ戦争の早期終戦を図りたいトランプの本音

では、ウクライナ戦争の早期終戦で幕引きを図りたいトランプ氏の本音はどこにあるのだろうか。1つに、トランプ氏は本気でノーベル平和賞を狙っているとも言われる。トランプ氏は大統領在任中、イスラエルとアラブ諸国の関係発展に尽力を注ぎ、イスラエルがUAE、バーレーン、モロッコ、スーダンとそれぞれ国交正常化を果たし、そこで仲裁役を果たした。これを受け、米共和党のテニー下院議員は今年1月にトランプ氏をノーベル平和賞に推薦したと明らかにした。

また、トランプ氏は北朝鮮の金正恩氏とベトナム、シンガポール、板門店と3回も対面し、米朝首脳会談を行った。トランプ氏は北朝鮮の指導者と初めて対面する米国大統領となったが、トランプ政権下では北朝鮮を巡る緊張は大きく緩和され、同氏は朝鮮半島の緊張緩和、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決を図ることでノーベル平和賞を狙っていたともされる。

こういった過去に照らせば、ウクライナ戦争の早期終戦はその延長線上で考えられる。ノーベル平和賞を狙うトランプ氏からすると、戦争が続くウクライナはかつてないチャンスとなり、就任早々に両国を終戦させることで、その後の政権運営でそれを強くアピールしていく狙いだろう。

しかし、これは中国に間違ったシグナルを与えかねない。これまで世界の政治と経済を主導してきた米国が外国の紛争に関心を持たないばかりか、ある国が軍事侵攻してもそれに異議を唱えないと中国が理解すれば、台湾への軍事侵攻のハードルは大幅に低くなる恐れがある。中国が最も警戒するのは台湾防衛における米軍の関与であり、そういった可能性が低くなればなるほど、中国の野心的な行動はエスカレートするだろう。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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