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中国への信頼度上昇のなぜ?日本の報道だけでは見えてこない世界の現実

国賓待遇でアメリカに渡り日米首脳会談などの日程をこなす岸田首相。政府もメディアも米国に一番の関心を寄せるなか、シンガポールのシンクタンクが、ASEAN各国を対象にした米中の信頼度、影響力に関する気になる調査結果を発表しました。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、前回調査と比較しながら、中国の存在感が大きく増している実態を解説。中国の「経済成長の陰り」や「力による現状変更への試み」を常套句とする日本の報道からは見えてこない東南アジアの現実を伝えています。

米中首脳電話会談と二人の閣僚の訪中で置き去りされる日本とフィリピン

日本の報道に馴染んだ読者には釈然としないニュースだったはずだ。4月2日、ASEAN各国で中国に対する信頼度が明らかに高まっているというニュースが世界を駆け巡った。発表したのはシンガポールのシンクタンク、ISEAS=ユソフ・イシャク研究所。対象者はASEAN10カ国の研究者や政府当局者など約2000人である。

注目されたのは、「中国か米国のいずれかと同盟を結ぶことを余儀なくされた場合、どちらの国を選択するか?」という設問だ。結果、「中国を選ぶべき」と回答した割合が50.5%と半数を超え、初めて「アメリカ」(49.5%)を上回った。

米中の差は僅かに感じられるが、問題は中国の伸びだ。前回調査(2023年公表)で「中国」と回答した割合は38.9%しかなかったのだ。つまり1年で11.6ポイントも上昇しているのだ。

また政治・戦略上の影響力についての質問では、「中国」が最も「ある」と答えた割合が43.9%と前年(41.5%)に引き続き最多。「アメリカ」は前年の31.9%から25.8%に急落し中国に水をあけられた。経済的な影響力に関しても「中国」が最多で、59.5%。「アメリカ」の14.3%や、「日本」の3.7%を大きく上回っている。

中国経済は崩壊寸前で、主力の電気自動車(EV)化の流れも行き詰まり、中台問題や南シナ海におけるフィリピンとの対立の激化で地域の「厄介者」となっていると信じ込む日本の読者には受け入れ難い調査結果に違いないはずだ。

だが、これが現実だ。しかも、なぜ中国の信用が高まったのかについてISEAS=ユソフ・イシャク研究所は、「中国の一帯一路構想と強固な貿易・投資関係から大きな恩恵を受けている」と記しているのだから尚更だろう。

つい先日も「中国『一帯一路』、8兆円規模の支出履行できず─東南アジアへの援助」(ブルームバーグ 3月28日)というニュースに、「やっぱりね」と留飲を下げたばかりだった。

中国の「一帯一路」と聞けば反射的に「債務の罠」を連想するのが日本人だ。しかし、「債務の罠」という話題も、いったいどの当事国が中国に怒っているのかといえば、実は怪しい。騒いでいるのは西側先進国ばかりばかりだからだ。「債務の罠」の例として持ち出されるハンバントタ港の問題でも、スリランカが中国に怒っているという話は寡聞だ。

だが日本の視点からすれば、いかに「一帯一路」で関係が良くなっても、南シナ海であれだけフィリピンと激しくぶつかれば中国を脅威と考える国が少なくなく、「同盟」などさらにピンとこない。このギャップを埋めるのは接している情報の違いにあるのだろう。

例えば、中国『環球網』の3月19日の報道だ。フィリピンの仁愛礁(セカンド・トーマス礁)を巡る対立を扱った記事だが、宣伝戦に大きく切り込んだ内容だった。きっかけはフィリピン側がCNNの記者を船に乗せ現場をライブで報じさせたことだ。

記事では、米メディアの報道をフィリピン国内で上手く拡散させる装置に注目している。対象となったのはラップラー、ベラファイル、フィリピン報道調査センターなど。彼らは「独立系」と呼ばれるメディアだが、実はアメリカの紐付きだと『環球網』は断じる。以下、少し長いが当該の部分の抜粋だ。

(彼らは)「独立」を謳いながら、裏でアメリカの財団やCIAからの資金支援を受けていることは、地元のメディアによって明らかにされている。

 

2019年にはラップラー、ウィラ・アーカイブ、フィリピン・プレス・サーベイ・センターの記者がCIAから報酬を受け取っていたという問題が浮上。これが刑事罪の対象になる可能性も指摘された。この過程で明らかにされたのは、CIAがアメリカの全米民主主義基金(NED)を利用して資金を調達し、上記メディアや機関がNEDからの多額の資金援助を受けていたことだ

つまり、現地やASEANの国々では日本とは違う視点での報道も少なくないのだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年3月31日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:SPhotograph/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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