MAG2 NEWS MENU

A young employee in a wheelchair checking the drawings on the desk

企業と当事者で見解に相違も。障がい者雇用や「合理的配慮」義務の課題

障がい者の生活や就労を支援する「改正障害者総合支援法」今年4月に施行され、企業など事業者による障がい者の雇用や、障がい者に対する「合理的配慮」の取り組みが進んでいます。しかし、取り組みが浸透していくことで広がる誤解もあるようです。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、生きづらさを抱えた人たちの支援に取り組み、「就労継続支援B型事業所」を運営する引地達也さんが、発達障害へのポジティブな誤解をする人が増えていることを一例として上げます。そのうえで、誰もが参加しやすい社会を実現するために必要な「発想の転換」について伝えています。

障がい者の雇用と「発想の転換」が求められる社会

企業の障がい者雇用が社会に広まる中で、メディアには2つの視点があるようだ。1つは当事者側、1つは企業側、雇用者と被雇用者で、特に被雇用者側の視点は就労したくてもできない当事者やそれを支援する関係者の視点も含まれる。どちらの視点も現実ではあるが、民間事業者に今春から義務づけられた障がい者への「合理的配慮」をめぐっては見解の違いも散見される。

これは障がい者が「社会生活を送る上での障壁を取り除くため、必要な調整を図ることを求めるもの」(朝日新聞5月21日朝刊)との認識が一般的ではあるが、その共有さえもおぼつかない。

合理的配慮の根拠となる改正障害者差別解消法の施行を受けて障がい者文化論が専門である二松学舎大学の荒井裕樹教授は「『偏りすぎた社会』を見直すためにある。社会はあらゆる物事が「非障害者仕様」になっている」(同)社会で「障壁を除去し、『誰もが参加しやすい社会』の実現を目指すもの」(同)との私見を示した。

この偏りすぎた社会の中で障害者雇用促進法は障がい者が一般企業に就職し、企業にも一緒に働く環境整備を促進している。法定雇用率引き上げに促されるように対象企業の雇用率が過去最高を更新する状況は、これまでとは違う企業の取り組みがあってこその数字であり、日経新聞は企業側の視点で、その努力を報じている。新聞の性格上、当然のスタンスではある。

これまで「企業で働く障害者が増えている」とのフレーズで「増えている」前提で企業の活動を紹介している記事は、仕事の切り出し方や障がい者に負担をかけないようなカテゴライズの設定等、一見、企業の創意工夫による好事例の印象ではあるが、当事者から見ると、違和感を覚える「企業努力」もある。しかしながら、企業努力が求められる中で、障がい者雇用がうまく機能しない企業にとっては重要な情報として受けとめられるだろう。

一方で障がい者雇用の浸透とともに誤解も広がる。私が参加する障がい者雇用に関する専門家の集まりでは、「発達障害」を「人より長けた能力を持つ人」と置き換える人も増えてきていることが確認された。

私自身も「理解」が進んだ結果として、これまでネガティブな印象だった障がい者をそのようなポジティブな情報に置き換えて、マインドリセットしている(した)人を何度も目にしてきた。その方が言うフレーズは「記憶力がよかったり、1つのことを集中して出来たりするんでしょ」などで、悪気がないから、説明に苦慮してしまう。

厚生労働省の2023年度の障害者雇用実態調査によると、全国の民間企業(従業員5人以上)で働く障害者は推計110万7千人で過去最多だった。内訳は身体障がい52万6千人、知的障がい27万5千人、精神障がい21万5千人、発達障がい9万1千人だった。統計の中での発達障がい者は10万人近いことも、発達障がいに対する拙速な解釈にもなっているのだろう。

荒井教授は「障害者は誰かからの『恩恵』や『善意』や『思いやり』の結果として社会で生きるわけではないし、『許容』や『許可』の範囲で社会参加するわけでもない」(同)とした上で、「障害者に対して『どのくらい丁寧に遇するか』ではない」(同)と諭す。

私たちは「どうしたら、このような『発想の転換』に至れるか」(同)が試されているのだという。その発想の転換の一助になるべく、みんなの大学校では毎週水曜日に発達心理学が専門の山本登志哉先生による「障がいと物語」との講義を開催している。

障がい当事者にこれまでの思いを語ってもらい、それを受講者が共有するところから、荒井教授が諭す「発想の転換」を探るものである。

もちろん、発想の転換は結果なので、それを目的にすることはないが、物語として障がい当事者の話をじっくり聴くことは、結果的に何らかの化学反応は必ずある。社会では、様々な視点から障がいが語られ始めている。

この記事の著者・引地達也さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: shutterstock.com

引地達也この著者の記事一覧

特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスティックなやさしい未来 』

【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け