ソニー創業者の井深大さんが、主婦にもわかりやすく語ったリーダーシップ論。トイレの落書き事件から始まったそのお話を今回、無料メルマガの『致知出版社の「人間力メルマガ」』で紹介しています。
ソニー創業者・井深大のリーダーシップ論
本日は「朝礼・スピーチに使える話」と題して、はとバス元社長・宮端清次氏のお話をご紹介いたします。
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「ソニー創業者・井深大のリーダーシップ論」
宮端清次(はとバス元社長)
『致知』2007年8月号より
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リーダーシップの勉強を始めようと私が思ったのは、三十年以上前のことです。
都庁で管理職になった頃、現役を退いたソニーの井深大さんの講演を聴きに行ったんです。
そこで井深さんは一時間ほどリーダーシップの話をされましたが、私にはよく分からなかった。
すると終了後に、ある女性が手を挙げて「失礼ですが、いまのお話はよく分かりませんでした。私のような主婦にでも分かるように話をしてくれませんか」と言ったんです。
司会者は大慌てでしたが、さすがは井深さんですね。ニコッと笑って、こんなお話をされました。
「ソニーの社長時代、最新鋭の設備を備えた 厚木工場ができ、世界中から大勢の見学者が来られました。しかし一番の問題だったのが便所の落書きです。
会社の恥だからと工場長にやめさせるよう指示を出し、工場長も徹底して通知を出した。
それでも一向になくならない。そのうちに『落書きをするな』という落書きまで出て、私もしょうがないかなと諦めていた。
するとしばらくして工場長から電話があり『落書きがなくなりました』と言うんです。
『どうしたんだ?』と尋ねると、
『実はパートで来てもらっている便所掃除のおばさんが、蒲鉾の板二、三枚に、
“落書きをしないでください
ここは私の神聖な職場です”
と書いて便所に張ったんです。それでピタッとなくなりました』と言いました」
井深さんは続けて、
「この落書きの件について、私も工場長もリーダーシップをとれなかった。パートのおばさんに負けました。
その時に、リーダーシップとは上から下への指導力、統率力だと考えていましたが、誤りだと分かったんです。
以来私はリーダーシップを“影響力”と言うようにしました」
と言われたんです。
リーダーシップとは上から下への指導力、統率力が基本にある、それは否定しません。
けれども自分を中心として、上司、部下、同僚、関係団体……その矢印の向きは常に上下左右なんです。
だから上司を動かせない人に部下を動かすことはできません。
上司を動かせる人であって、初めて部下を動かすことができ、同僚や関係団体を動かせる人であって、初めて物事を動かすことができるんです。
よきリーダーとはよきコミュニケーターであり、人を動かす影響力を持った人を言うのではないでしょうか。
リーダーシップとは時と場合によって様々に変化していく。固定的なものではありません。
戦場においては時に中隊長よりも、下士官のほうが力を持つことがある。
ヘッドシップとリーダーシップは別ものです。
あの便所においてはパートのおばさんこそがリーダーだった。
そうやって自分が望む方向へ、相手の態度なり行動なりが変容することによって初めてリーダーシップが成り立つのです。
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