中国の習近平国家主席が上海協力機構(SCO)の首脳理事会に出席するため、カザフスタンとタジキスタンを公式訪問したことで、西側諸国のメディアが「SCO」に言及する量が増えました。しかし、その内容は、SCOの本質を捉えているとは言い難いものだったようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、SCOを「西側への対抗軸」「反欧米グループ」と位置づけることを危険視。SCOとNATOの違いとして「安全保障観」を上げ、SCOのそれは中国の「運命共同体意識」に通じていると解説しています。
中国が進める運命共同体意識と「一帯一路」への軽視が招く「変化する世界」の読み違え
上海協力機構(SCO)と聞いて、直ちにピンとくる日本人は少ないだろう。だが、いまや国際情勢を理解するうえで外せない組織だ。メディアがSCOを伝える際の常套句は「加盟国の人口は全世界の40%を占める」。そう聞けば、その規模にドキリとさせられるが、実際にはほぼ半分に達する勢いだ。
SCOへの加盟を希望する新興・発展途上国は少なくない。予備軍を含めればそれ以上にもなる。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカの振興5カ国)との親和性も高い。
中核を成すメンバー国(中国、ロシアと中央アジア5カ国、インド、パキスタン)の顔ぶれを見ればわかるように、先進7か国(G7)に代表される西側先進国を中心とした国際秩序とは一線を画す組織と目され、ゆえに警戒の対象でもある。
中心にいるのが中国だ。先週、SCOに関する報道がにわかに増えたのは、中国の習近平国家主席がSCO加盟国首脳理事会第24回会議(首脳会議)に出席するため、中央アジアのカザフスタンとタジキスタンを公式訪問したからだ。
日本のメディアは、例によってロシアのウラジミール・プーチン大統領との首脳会談に大きく紙面を割いたが、欧米メディアはむしろ西側価値観への対抗軸としてSCOを扱う報道が目立った。ロイター通信が「中国国家主席、『外部の干渉』に抵抗呼びかけ 上海協力機構」と報じたのは象徴的だ。実際、プーチンも会議のなかで、「SCOはBRICSと共に新たな世界秩序の支柱であり、世界の発展と多極化への真の推進力だ」と訴えた。
SCOには23年にイランが、今年はベラルーシが新たに加盟したとなれば、欧米メディアが「強権的指導者のそろい踏み」(ドイツZDF 7月4日)とネガティブに報じるのも無理からぬところだ。だがSCOを「西側への対抗軸」とか「反欧米グループ」と位置づけるのは、やや拙速で危険だ。単純な理解はSCOやBRICSが本来備えているポテンシャルを過小評価してしまいかねないからだ。
そもそもSCOは組織の拡大自体を目的としていない。今回も多くの国から加盟の申し出があったとする反面、「数や地域を拡大し過ぎれば地域的なつながりが希薄になる」との懸念が出た(シンガポールCNA 7月2日)とも伝えられる。
では、どう理解すべきなのか。答えの一つは、中国の安全保障観のサンプルとしての位置づけだ。多くの国はSCOを見て、大国・中国との付き合い方を予測できるからだ。