SCOはソ連崩壊後の地域の安全を維持するための協力機構、上海ファイブが前身だ。力の空白がロシアの疑心を刺激するなか、これにどう対応するか、北大西洋条約機構(NATO)が直面した課題も同じだった。中国は、東方拡大でロシアと衝突したNATOに対し、予測される摩擦を上手く消化したSCOの優位性を語る。
プロセスはどうであれ、結果的にウクライナでの戦争を招き、地域経済と住民に深刻なダメージを与えたNATOに対し、今年24回目の首脳会談を行い、参加国首脳が笑って握手しているSCOとの差だ。ちなみにSCO間の貿易量は2021年までの20年間で28倍にも拡大したというから、平和の配当も小さくはなかった。
冷戦期の軍事同盟・NATOが敵対勢力を想定し、スケールメリットで相手を圧倒しようとするのに対し、SCOは地域の紛争を拡大させないための装置であり、性質も違う。SCOが中国のサンプルだと考えられるのは、設立時に掲げられた「上海精神」(相互信頼、相互利益、平等、協議、多様な文明の尊重、共同発展)が、中国外交の原点である平和五原則(領土・主権の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存)と重なるからだ。
6月28日、中国は平和共存五原則発表70周年の記念行事を北京で行ったが、そのタイトルは「平和共存五原則から人類運命共同体の構築へ」だった。つまりSCOはいま中国が進める人類運命共同体(運命共同体)のサンプルでもあるのだ。
運命共同体は習近平のオリジナルではないが、正式に提起されたのは中国共産党第18回全国大会(2012年)で、経済的な結びつきを呼び掛けた「一帯一路」と対をなす。運命共同体という言葉は先進国の外交ではほとんど聞かれないが、すでに国連総会決議では6年連続で盛り込まれるというようにじわりじわりと国際社会に浸透している。
目立ったのは習近平のヨーロッパと中央アジアへの訪問だ。習は行く先々で運命共同体を繰り返し強調したのだった──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年7月7日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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