IKEA渋谷店がリニューアルオープンしました。繁盛しているのにも関わらず改装に至ったその理由とは? 今回のメルマガ『スピーチコーチ・森裕喜子の「リーダーシップを磨く言葉の教室」』では、スピーチのプロフェショナルである森さんが、IKEAのプレゼン力を「渋谷店リニューアル」の視点から考えています。
IKEAのプレゼン戦略を考える ~リニューアルした渋谷店の分析~
私の自室はほとんどIKEA商品で構成されている。
IKEAファンなのだ。
だからWEBサイトもよく見るし、実店舗も、暇さえあれば行く場所の定番である。
IKEAは郊外にある大型店舗がメインなのだが私が実際よく行くのは原宿、渋谷、新宿にある都市型店舗。
大型店舗とは質が異なり、狭くて小さくて、当然扱う品目数も圧倒的に少ない。
しかし、たとえそうだとしてもIKEAの商品をリアルに手に触れられるしカフェもあるので、とても楽しい。
小規模な都市型店舗でも比較的充実しているのは「渋谷店」。
そこが最近、リニューアルオープンしたのだ。
いつも混んでいるし、特に問題はない感じだった。
でも、なぜこのタイミングで改装なのか? また、どんなふうに何を改装したのか?
先日、興味津々で出かけた。
新しくなった渋谷店を眺めて感じたのは、IKEAが持つ「プレゼン力」という魅力だった。
今日の号外メルマガでは、IKEAのプレゼン力を「渋谷店リニューアル」の視点から私なりに書いてみたいと思った。
そして、今読んでいただいているあなたのプレゼンやビジネスに何らかの形でお役立ていただけたらと願いつつ、書く。
この記事の著者・森裕喜子さんのメルマガ
★都市型店舗と郊外店
IKEAは実店舗を持つ通販会社だ。
実店舗の基本系は、東京立川にあるような、倉庫を持つ大型の郊外型。
大型店の作りは大まかに決まっている。
家具をお部屋にディスプレイした雰囲気で展示したショールームのフロアがあり、ちょっとした小物を売るスペースがあり、また休憩時に飲食できる部分もあり、そして、巨大な在庫を置く、広~い倉庫がある。
商品を買う場合は、自分で倉庫から商品を取り出す。
IKEA商品は基本、持ち帰ったら自分で組み立てる。商品をピックアップするのも、作るのも、全てセルフサービス。
これが、デザイン性が高い商品で安価な理由だ。
これだけでもすごいビジネスモデルだと思うが、さらにIKEAは衝動買いをさせるのも非常にうまい。
気楽に買えるお皿や入れ物など「小物」はものすごく魅力的なデザインで、それでいて、安い。
この小物衝動買いに特化しているのが都市型店舗。
かつての渋谷店も、まさにそうだった。
渋谷に行ったお土産にIKEAの小物を買ってくる、そんな店だった。
しかし、今回リニューアルした渋谷店で、店内の雰囲気が大きく変わった。
渋谷店は、小型店なのに、大型店のようなショールーム機能を大幅に増やした。
すなわち「郊外型のミニチュア店舗」に変貌したのだ。
これにはちょっと驚いた。
なぜって、これ、プレゼンテーションにおける、大幅な戦略変更だからである。
なぜこのように戦略変更したのか?
それを紐解くにはまずIKEAの圧倒的な魅力に触れる必要がある。
以下、スピーチコーチ的視点で、書いてみます。
注:当該記事は、リアルなIKEAのビジネス戦略に基づくものではありません。あくまでも「プレゼンテーション」的な視点でスピーチコーチが独自に分析して書くものです。悪しからずご了承ください。
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★IKEAだけが持つ、2つの魅力
まずは、商品1つ1つの魅力。
プレゼン的にいうならば、「商品というファクト」が持つ魅力である。
IKEA商品は、どんな小物であっても、99円のものであっても、美しい色とデザイン性が高い。
たとえキッチンバサミであっても使わずに飾っておくだけで絵になってしまう美しさがある。
そんな、1つ1つが魅力的な商品を複数お部屋に取り入れたならば!
それはもう、お家全体が楽しくなる。
IKEA商品の魅力はここにある。
そして、IKEAは、その魅力を、ショールームというパッケージで見せてくれる。
しかし、よく考えれば、ショールーム的な商品プレゼンは日本の家具屋さんでも当たり前にやってきたことだ。
しかし、IKEAが示すプレゼン力は、日本の既存家具店とは、ちがうのだ。
何がちがうって、そのプレゼン力が「圧倒的」であること。
プレゼン力の何が圧倒的なのか?
それは「憧れ」を抱かせると同時に商品1つ1つ、あるいは複数存在した際、消費者の「共感」を強烈に呼び起こす力が強く、グレードが高いのだ。
そもそも憧れというのは、手が届きにくいもの。
しかしIKEAの商品価格は安価で、店舗は誰にでも開かれたオープンな雰囲気。
美しいデザインの商品をいくつか取り入れれば、まるでIKEAショールームのように素敵な憧れの住まいが手に入る。
そんな気持ちにさせるのが、とても巧みである。
IKEAは、憧れを抱きながらも容易に「自分ごと化」できてしまう、あなたのためのお店です、とプレゼンすることに成功しているのだ。
このことを別の角度から分析すると、さらにIKEAの凄さがわかる。
IKEA商品は商品1つ1つが他とは違い、個性があって機能的で目新しい。
よって、その魅力が瞬時に伝わるという圧倒的強みがある。
そして同時に、その商品を使うと生活がどんなふうに変わるか?商品がもたらす消費者ベネフィットを瞬時に想像させることに、非常に長けている。
その秘訣は、商品力の高さに加えて、商品の並べ方、見せ方、といったいわばショールームにおけるプレゼンが巧みなのである。
これはIKEA大型店に実際に行って、見てみればわかる。
ショールームを見るだけで、IKEA商品がお客様にもたらすだろう「素敵な私だけのストーリー」も瞬時に伝えてくるのだ。
よって「IKEA商品を手に入れれば、私の生活は変わる!」と直感的に強く感じさせることができるのだ。
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★リニューアルした渋谷店が目指すプレゼンとは
美しいデザインの商品が並ぶ憧れの住まいを巧みにプレゼンするIKEA。
渋谷店が「郊外型のミニチュア店舗」へとプレゼン戦略を変更したのはいわば、IKEAの得意技である「共感戦略」をより身近な都市型店舗で実施するためではないだろうか。
さらに広く多くの人にIKEAの魅力を実感してもらいたい。そして共感し、IKEAを通して、理想の住まいと人生を手にしてもらいたい。
そんなメッセージがあるように思われる。
この裏には、もっと実利的なものも当然ある。
それはおそらく、小物を販売するお土産店としての役割から脱却を図るためではないか。
つまり、本来の家具を売るお店として、いかに大型商品を購買してもらうか?に挑戦し始めたのだ。
というのも、IKEAで商品を買う方法は2通りあるためだ。
1つは、店舗で実際に購入する。もう1つは、オンライン購入。
オンライン販売はあらゆる業界で伸びているが、もともと店舗数自体は少ないIKEAにとってはオンライン販売は基本戦略である。
渋谷店におけるIKEAのブランド認知拡大およびお土産屋さん的店舗の役割をある程度実施し終えた今、今後を見据えて、いわゆる本当の、ショールーム機能を強めて本来の「家具のオンライン販売」に舵を切ったのだ。おそらく。
これは、一応のヘビーユーザーである私のようなファンには、実はドンピシャに当てはまる戦略である。
というのも、IKEAで商品を買う前、私のようなファンは、しっかりと買うかどうかを見極めるからだ。
私の場合、IKEA商品に興味を持ったら、まずはHPを見る。
そして、欲しい家具があれば、まず都市型店舗を散策する。
そこには欲しい家具がたまたま並んでいることもあるし、ないことも多い。
次に、できればもっと商品を実感したいと考え、土日に大型郊外店舗まで出向いて実物を確認する。
そこで欲しい商品に出会っても、店舗では買わない。
家に戻り、本当にその商品でよいのかどうか、思いを巡らす。
家具を買うのだからそのくらい慎重になって良い。
大型店舗から帰宅し、またHPで検討し、何らかのタイミングが来ると、WEB注文する。
このような私の購買行動は、なんと、確実に「AIDMA」のステップを踏んでいる。
Attention(注意):商品やサービスについて知る
Interest(関心):商品に興味を持つ
Desire(欲求):商品を欲しいと思う
Memory(記憶):商品を思い出す
Action(行動):商品を買う
IKEAのHPを何度も見て「A、I、D」を繰り返す。さらに実店舗でも「M」あるいは「A、I、D」に戻る。最後の「A 行動」に至るまで、なんどもステップを踏んでいる。
私の例は少々極端かもしれないが、似たようなAIDMAステップを踏んでいる人は少なくないだろう。
何事も、第一歩を踏み出せるかどうか、が成否を握る。
となると、IKEA商品を見聞きしたことがあっても、なかなか実物に触れることができないのであれば、AIDMAのステップは先に進まない。
しかし、気楽に都市型店舗でリアル商品体験できるとあれば、購買意欲は確実に高まり、実購買も増える。
美しいデザインの商品が並ぶ憧れの住まいを巧みにプレゼンするIKEAが、インターネットとリアルの両方の媒体を使って消費者の購買を掘り起こそうとし、渋谷店を「郊外型のミニチュア店舗」へとプレゼン戦略を変更した理由の1つの狙いは、おそらく、ここにあるのではないだろうか。
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★もっと巧みな「私のためのIKEA」共感戦略
ここまでIKEA商品とプレゼン力が持つ魅力を書いてきたが、実は、IKEAの魅力は、他にもある。
レストランやカフェの存在だ。
イケアの小型大型、いずれの店内でも、お買い物中に一休みできてスウェーデンの味が手軽に楽しめる場所があるのだ。
すごい付加価値ですよね。
しかしIKEAがすごいのは、このサービスを、家具を買いに来たターゲット層に限定しないところだ。
これまたすごい魅力の拡散術!
平日、IKEAのレストランフロアには仕事をしている人もいる。
近くの高校生が放課後、たむろしたりもしている。
つまり、IKEAは、ただのカフェという存在でもある。
誰でも受け入れる懐の広さ!
これは、日本の家具屋さんには絶対にない発想ではないだろうか。
★IKEAは家具屋ではない
IKEAは見て触って楽しめるショールームがあると同時にお土産屋さんであり、カフェであり、レストランであり、1日過ごせる遊び場でもある。
いわばIKEAは一大エンタメ施設なのだ。
となると、IKEAの競合は、もはや大塚家具でもニトリとも違うのだ。
IKEAの競合は、スタバ、あるいは、ディスニーランドかもしれない。
少なくとも、IKEAファンの私には、ドトールコーヒー的な気軽さを持ったディズニーランド的存在、であるといえる。
どうです? IKEAの、ものすごい共感戦略!
プレゼン力のみならず、IKEA商品に魅力を感じない人にでもアピールできてしまうという強烈な存在力!
恐るべしですよね。
★おまけの考察
「安くておしゃれ」なIKEAの商品が持つプレゼン力はこんなふうにすごい。
この手法をおいそれと簡単に真似することは容易ではないだろう。
では、この事実をどう自分に生かすか?
何事も「逆もまた真なり」という。ということで、IKEAの真逆を考えてみた。
それはおそらく、「あなたのためだけの、世界に1つの商品」つまり「オーダーメイド」。
IKEAのように、お客様の共感を強烈にもたらすことは大切にしながらも、私のスピーチトレーニングは、まさにそういう商品サービスでありたい、と改めて思ったのだった。
と、こんなことを、リニューアルしたIKEA渋谷店のレストランフロアでつらつらと、想いました。
(この記事はメルマガ『スピーチコーチ・森裕喜子の「リーダーシップを磨く言葉の教室」』2024年8月31日号の一部抜粋です。この続きをお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
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image by: Ned Snowman / Shutterstock.com