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「片親パン」になぜ私たちは怒るのか?再びSNSトレンド入りで注目、日本を支える薄皮クリームパンの「ちょっといい話」

昨年1月にネットで拡散され大いに議論を呼んだ「片親パン」が、再びSNSでトレンド入りした。だが今回は以前と異なり、この差別的キーワードに拒否反応を示す人が思いのほか増えているのが特徴だ。

「片親パン」の悪夢が復活? SNSで再びトレンド入りのナゼ

「片親パン」なるキーワードがSNSでトレンド入りし、あらためて注目を集めている。

山崎製パンの「薄皮クリームパン」や「チョコチップスナック」のように、安価で量が多い菓子パン類をさす。「母子家庭や父子家庭の親が、子どもに食事として与えがち」という偏見にもとづく蔑称だ。ネットメディア編集デスクが説明する。

「もともとは2022年、ひとり親家庭出身を自称するユーザーがTikTokに『5個入りクリームパンで育った』旨を投稿したのが誕生のキッカケです。これ自体は自虐的な意図の投稿だったようですが、2023年始めにはネットスラングの『片親パン』として一般化し、X(旧Twitter)で急拡散。第三者による差別的用法が増加して、大手新聞も報じるほどの問題になりました」

この騒動はまもなく鎮静化。その一方で「片親パン」というキーワードは、Z世代の若者を中心にごく当たり前の日常用語、ないし差別用語として定着したという。それがなぜ今、再びトレンド入りしたのだろうか?

「某メイド喫茶でメイドとして働く女性ユーザーが、『わたしを育てた片親パンベスト4選』と題した画像をXに投稿したのが発端です。山崎製パンの『薄皮クリームパン』『まるごとソーセージ』や、フジパンの『ネオ黒糖ロール』、敷島製パンの『十勝バターレーズンスティック』が写っていました。ただし、この投稿自体が炎上したわけではありません。リプライ欄は平和そのものなんですよ」(前出のネットメディア編集デスク)

この女性のフォロワー数は数百名だが、物議となった画像の閲覧回数は20万回にせまる。あくまでも“ひとり親家庭当事者の自虐”という形式で、他者を差別する内容ではないため、炎上騒ぎにはならなかったようだ。なお現在、この投稿は削除されている。

なぜ私たちは「片親パン」という言葉を許せないのか?

とはいえ、SNSで突然トレンド入りした「片親パン」というキーワードに心がざわつき、思わず目を背けたくなった、という人は非常に多いようだ。

「昨年初めの騒動では『片親パン』の響きや着眼点を面白がる人々がチラホラいたのですが、今回はそのときよりも拒否反応を示す人がグンと増えています。許しがたい差別用語だと感じる人、好きなパンをバカにされたようで悲しくなってしまう人、反応はいろいろ。たとえ他者を攻撃する意図はなくても、投稿者の“自嘲”や“自虐”には共感できない、という、ひとり親家庭出身者も少なくないようですね」(前出のネットメディア編集デスク)

Xでは次のような意見がズラリ。日本にも、まだまだ良識は残っているようだ。

《自虐ネタだとしても、片親パンなんて言葉は使っちゃダメだと思う》

《TikTok界隈だと、フツーに自虐じゃなく差別的な使われ方もしてるからね》

《こういう自嘲が間接的に加害者を生み出す。きっとこの子はまだそれがわかっていないんだろう》

《小さい子供が薄皮クリームパンしか食べられない、そういう貧困家庭はたしかに存在するよ。だからこのメイドを叩く気にはなれないが、片親パンを面白がってる奴はとりあえず消えてくれ》

《自分も母子家庭出身。母は食事をきちんと用意してくれたが、たまには菓子パンの日もあった。それで不幸だと思ったことはない。片親パンとか言われると、自分の親をバカにされた気分になって悲しくなるなあ》

《この女性が特別に悪いっていうより、最近の若い世代が差別ワードに「悪気がなさすぎる」ように見えることが怖い。片親パンとかアフガキとかワーディングがいちいち鋭利》

《薄皮クリームパンには個人的に良い思い出しかないから、片親パンとか言われるとなんか腹が立つ。ガキ共は全然わかってねーなと思って見てるわ》

それにしても気になるのは、山崎製パンはじめ製造元各社への風評被害だ。薄皮シリーズにせよチョコチップスナックにせよ、本来は素晴らしい商品のはずなのに、昨今のネットミーム汚染は度を超しているようにも感じられる。

「受験パン」「旅立ちのパン」「修羅場のパン」薄皮クリームパンは最高だ

山崎製パンの薄皮シリーズに代表される、廉価で美味しい菓子パンの数々。最近は円安やインフレの影響で個数こそ減ったものの、ハンバーグ味やたまご味も新たに登場。「いつでもどこでも同じ味のパンが気軽に買える」メリットはあまりに大きく、隠れた国民食となっている。だからこそ「片親パン」などと揶揄されると、私たちは悲しくなってしまうのだろう。

そんな「薄皮クリームパン」に、並々ならぬ愛情を持つ人は少なくない。たとえば都内IT系企業役員のYさん(40代)にとって、薄皮クリームパンは「旅立ちと修羅場のパン」だ。金銭的に苦しい時期だけでなく人生の節目節目で、たびたびこのパンを食してきたという。

「菓子パンというと、私は何とも言えない郷愁を感じます。たとえば、大学卒業後に就職で上京して、はじめて一人暮らしを始めた夜です。ガス開通の手続きが遅れて、お湯すら沸かせない状態。引っ越しの荷ほどきでクタクタの状態で食べたのが、この薄皮クリームパンでした。しかも3パック一気(笑)。濃厚なクリームをコーラで流し込みつつ、来週から自分はどんな仕事をすることになるんだろう、と思いを巡らせた記憶がありますね。いわば旅立ちのパンです。その後30歳を期に起業して、徹夜で某社の大規模システム障害の復旧にあたった時期にも、かたわらには常にこのパンがありました。会社の経営が安定した今でも、当時を懐かしく思い出します。どこでも買えて、少しずつ食べることができ、手も汚れない。仕事で追い込みをかけるときは、今でもよく買いに走ります。そういう意味では、私にとって薄皮クリームパンは気合いと修羅場のパンとも言えるかもしれません」

Yさんにとって、薄皮クリームパンは若さと可能性の象徴。「片親パン」のようなネガティブなイメージは微塵もないようだ。

先のネットメディア編集デスクがいう。

「薄皮シリーズは、実はカロリーメイトやライトミールブロック以上に食べやすく、粉がボロボロこぼれたりもしません。栄養面では劣るもののカロリーは十分で、口に放り込めば両手がフリーになり、PCのキーボードをほぼ無限に叩き続けることができます。そのため、プログラマや作家、絵師の中にも隠れファンは多いんですよ。山崎製パンさんにはぜひそういった切り口で、薄皮クリームパンの名誉回復を図ってほしいところ。SNSでも「部活パン」「早弁パン」「受験パン」など、青春時代の素敵な思い出と関連づけている人は思いのほか多いですしね」

若い頃に“3パック一気食い”をしていたという前出の会社役員Yさん、最近は胸焼けのため1パックにセーブしているという。それでも青春時代の思い出が色褪せることはない。これからも「薄皮」は、私たちの人生をエンパワーメントしてくれることだろう。

X(旧Twitter)の反応








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image by: Uniontour, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

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