かねてより自由な言論が保証されていたとは言い難い中国。昨今はますます監視や統制が強まり事態は深刻化しているようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、中国から外国人ジャーナリストや研究者、コンサルタントらが続々と逃げ出している実情を紹介。さらに習近平政権が締め付けを強化せざるを得ない理由を解説しています。
※ご高齢ということもあり、今年3月からメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の「ニュース分析」コーナーの執筆をスタッフに任せて、自身は「国家論」の連載に集中していた台湾出身の評論家・黄文雄さんが、7月21日に85歳で永眠されました。今後もメルマガは黄さんの思いを継ぐスタッフにより継続されます。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:【中国】メディアや研究者も逃げだす中国の危険な状況
中国で高まる言論統制。続々逃げ出す外国人ジャーナリストや研究者たち
朝鮮日報が、中国における最新の言論環境について報道しました。それによると、中国は外国からの批判をますます許さなくなっており、そのため中国を離れる外国人ジャーナリストや外国人学者、コンサルタントが非常に多くなっているそうです。
たとえば、英エコノミスト誌の北京市局長であった。デービッド・レニー氏は、自身のXのアカウントで「中国を離れるときが来た」と発言、さらに同誌最新号(8月31日~9月6日号)の自身のコラム「茶館」において、「中国は外国からの批判をすべて攻撃と見なしている」と書きました。
このレニー氏は、1998~2002年の江沢民時代に、英デイリー・テレグラフ紙の北京特派員を務め、「任大偉」という中国名でも呼ばれた、在中国の代表的知識人でもありました。
エコノミストの特派員としては、2018年5月に北京に到着して以降、同誌に約220本の「茶館」コラムを掲載してきたそうです。レニー氏の後任がまだビザを取得していないということで、「茶館」の連載は一時中断されるとのこと。
朝鮮日報によれば、2022年10月の第20回党大会において、習近平が「中国式現代化」を打ち出して以降、習近平政権は鄧小平の「韜光養晦」(才能を隠して力をつける)路線を放棄して、外部の声を「雑音」とみなすように国家戦略を推進、その直後に、中国では外国媒体による批判や情報収集が許されなくなってきたといいます。
「中国式現代化」とは、言論の自由や自由市場といった西側のやり方を踏襲するのではなく、一党独裁体制や計画経済といった「中国独自の方式」で先進国並みの発展を実現することです。そのため、海外の中国批判はすべて「西洋価値観」によるもので、誤りだらけだとこき下ろすのです。
しかし「中国式現代化」とは、単なる中国の自己中心的で自己正当化にすぎません。たとえば、中国の原発は日本の6倍以上のトリチウムを放出しているにもかかわらず、それでも日本のトリチウム水放出を「汚染水」などと批判するわけです。
● 中国の複数原発がトリチウム放出、福島「処理水」の最大6・5倍…周辺国に説明なしか
もともと中国では憲法に「国家は共産党の指導を仰ぐ」と書いてあるように、憲法よりも共産党の決定が上位にあるのです。そのため、共産党は決して間違えないという建前であり、ましてやそのトップである習近平も完全無謬の存在でなくてはならないのです。
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習近平の「実績のなさ」がより厳しくする言論統制
中国では経済の停滞がますます進んでおり、人民の不安と不満が高まりつつありますが、それだけに、一党独裁の中国共産党としては、中国に対する外国からの批判は潰さなくてはならないわけです。
習近平は、建国の父である毛沢東や、改革開放路線を切り開いた鄧小平、その恩恵で中国経済の急成長の恩恵を受けた江沢民や胡錦濤に比べて、功績がなにもありません。経済も衰退基調です。
それだけに、なんとかして「偉大な指導者」として認められるために、かつてどの指導者も実現できなかった「台湾統一」を強引に進めようとしている一方で、言論を統制し、批判を封殺するわけです。そもそも独裁政権では言論統制は当たり前ですが、実績がないだけに、統制がより厳しくなります。
それだけに、外国人ジャーナリストへの抑圧も強くなっていきました。報告書によれば、欧米のジャーナリストが中国を離れるペースは近年加速しており、ニューヨーク・タイムズ紙は6年間で中国人スタッフを10人から2人に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は15人から3人に減らし、かつて2人の記者を抱えていたワシントン・ポスト紙などは、現在はゼロだとのこと。北京駐在の韓国メディアも2年間で40数人から30数人に減りました。
言うまでもなく、中国ではさまざまな活動が監視されています。それは外国人でも例外ではありません。
今年4月、中国外国特派員クラブは101人のジャーナリストを対象にした調査結果を発表しましたが、そのうちの71%が携帯電話が中国によってハッキングされた可能性があると回答しています。また、81%が取材中に中国当局から妨害や嫌がらせを受けたことがあると回答しました。
2022年の北京五輪の際、各国は私用のスマートフォンやパソコンを持ち込まないよう促しましたが、それは中国当局による監視や情報の抜き取りなどのスパイ行為を防ぐためでした。その懸念は、現在の在中国外国人記者も抱えているということなのです。
中国でスパイ容疑で捕まる外国人などは、私用の情報機器から情報が抜き取られ、過去に中国に対して批判的なメールなどを送ったりしていたことで、嫌疑をかけられた可能性も少なくありません。
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誰でも目をつけられればスパイにされてしまう可能性も
加えて、中国が2023年7月にスパイ防止法を改正して、罰則を強化したことも、記者の大きな負担となっています。改正法ではスパイ行為は「国家の安全と利益に関わる情報を提供すること」と広く定義されることになりました。誰でも目をつけられれば、スパイと目されてしまう可能性があるのです。
しかも、犯罪が立証されなくても、状況から判断するだけで、5万元(約110万円)の罰金を課すことができるといいますから、非常に恐ろしい事態になっています。
こうした動きは外国人ジャーナリストに対してのみならず、外国人学者においても行われてます。中国の大学で博士号取得を目指したり、研究者として働いている外国人は、中国当局から、中国そのものについてではなく、自国について論文を書くように圧力をかけられているそうです。
しかし中国という環境にいながら、論文に自国のことを書くなら、そもそも中国の大学に留学する理由など、まったくなくなってしまいます。
以前から、中国の「歴史認識」に沿わない発言をする歴史研究者などは、中国現地でのフィールドワークができないと言われてされてきました。そのため、どうしても中国の歴史認識に同調せざるをえなくなるという話がありました。
これまで中国が問題にする日中間の歴史認識とは、主に戦前戦中のことに限られてきましたが、これが全歴史にわたり、中国共産党の意思に沿わなくてはならないとなれば、その研究者は、いったい中国に行って何を研究するのか、ということになります。結局学び発表するのは真実ではなく、中国のプロパガンダを広めることだけになってしまいますし、それに反すれば、スパイとして逮捕される可能性もあるわけです。
逆に言えば、もう中国の歴史認識に同調する必要もなくなるのですから、日本国内でもより自由で活発な議論ができるようになることを期待します。
以前のメルマガでも述べたように、中国へは旅行で行くにしても、かなりリスキーだと言わざるをえません。多くのメディア関係者や研究者まで中国から逃げ出している現状であり、近づかないほうがいいのです。
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※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2024年9月4日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
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