一旦決断したとされる次期衆院選での「裏金議員の原則公認」の方針が国民から激しい反発を受けるや、萩生田光一氏や下村博文氏らを「非公認」とする方向に舵を切った石破首相。この処分内容を評価する声が多方面から上がりましたが、人気ブロガーのきっこさんは異を唱えます。きっこさんはその理由を今回の『きっこのメルマガ』に記すとともに、今般の「なんちゃって処分」の納得のカラクリを解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:石破茂はアンパンマンになれるか?
このまま行けば似非ヒーローのコゲパンマン。石破首相はアンパンマンになれるか
キッカケは10月3日の朝日新聞でした。この日、朝日新聞が「自民、裏金議員を原則公認へ 衆院選で比例重複も容認、首相方針」という記事を報じると、国民の怒りが爆発しました。ツイッター(現・X)では「裏金議員」「原則公認」がトレンド入りし、「コレ、負けに行ってんの?自民党ってバカなの?」「公認はともかく、比例重複とは何事や!これじゃ石破が総理になった意味が無い!」「もう何でもありか。自民党」「石破さん、次はどんな嘘をつくのかな?」など、SNSは石破茂首相と自民党への批判が飛び交いました。
もちろん、これだけが原因ではありません。総裁選の間、とにかくすぐにでも解散総選挙を行なうと主張していた小泉進次郎氏に対し、石破茂氏は「予算委員会で野党と議論を尽くし、国民に判断材料を提供するのが新首相の責任だ」などと反論していたのに、いざ自分が首相になったとたん、予算委員会など開催せずに戦後最短のスピードで解散総選挙を行なうと宣言したからです。それも、まだ自分が首相に就任していない時点での宣言ですから、憲法にも抵触していました。
さらには、総裁選では「選択制夫婦別姓は少しでも早く実現すべき」と主張していたのに、公明党の石井啓一新代表から自公の「連立合意書」に「選択制夫婦別姓を進める」という文言を掲載するように打診されると、石破首相はこれに反対したのです。自民党内の保守派に気を使った結果ですが、これでは何のための総裁選だったのか、意味が分かりません。
マイナ保険証への一本化のために従来の保険証を12月で廃止にする問題についても、総裁選では「期限が来ても納得しない人が多ければ、従来の保険証との併用も選択肢として考えなければならないのは当然だ」と計画の見直しにまで言及していたのに、石破首相が任命した平将明デジタル担当相は「従来の日程通りに進める」と、これまた手のひら返し。
国民から見たら、裏切りと言うより悪質な詐欺に近いこれらの手のひら返しの連発を食らった後に、トドメのように降り注いで来た「裏金議員を原則公認へ」というニュースだったので、国民の怒りが爆発したのは当たり前です。そもそもの話、前任の岸田文雄首相が裏金問題を1ミリも解決せずにウヤムヤにしたことで支持率が急落し、このままじゃ選挙が戦えないという流れから始まった総裁選です。それなのに、次の首相も「党内融和」の名のもとに裏金議員を優遇って、これじゃミもフタもありません。
賞賛に値する厳しいものとは言えぬ裏金議員への処遇
今回、朝日新聞の報道の直後に実施されたマスコミ各社の全国世論調査では、「裏金議員の原則公認」について「理解できない」が軒並み75%を超え、「理解できる」の10~20%を大きく上回りました。あたしとしては「理解できる」と回答した人が20%もいることに驚きましたが、石破陣営が問題視したのは「理解できない」の75%の内わけでした。野党支持者は当然として、無党派層のほぼ100%が「理解できない」と回答していたのです。
鈍感すぎる石破陣営も、サスガにこれには「まずい」と気づいたようで、大慌てで対応を進めました。石破首相は、森山裕幹事長や小泉進次郎選対委員長と党本部で協議し、6日、新たな対応を発表しました。まず、すでに「党員資格停止」などの処分を受けている議員について「非公認」とすると明らかにしました。これにより「党員資格停止」の処分を受けている下村博文元文科相、西村康稔元経産相、高木毅元国対委員長の3人が「非公認」となる見通しとなりました。
また「党の役職停止」の処分を受けているが国会の政治倫理審査会で説明責任を果たしていないと判断された萩生田光一元政調会長、平沢勝栄元復興相、三ツ林裕己衆議院議員の3人も「非公認」となる見通しとなりました。そして、これらの処分よりも軽い「戒告処分」を受けた議員も、説明責任を十分に果たしていないと判断された場合は「非公認」になると説明しました。
4月に処分を受けなかった他の裏金議員も、地元の県連から公認申請がなかったり、党の情勢調査の結果が厳しかったりすれば公認しない方針だと説明し、石破首相は「結果として相当程度の非公認が生じるが、国民の信頼を得る観点から公認権者として責任をもって最終的に判断する」と述べました。また、たとえ公認したとしても、比例重複は認めないとしました。これによって、国会の政治倫理審査会にちゃんと出席した松野博一前官房長官や武田良太元総務相を始め、最大で37人の現職議員が比例復活の道を閉ざされる見通しとなりました。
これには、ネットでも一部からは「良くやった!」という賞賛の声が挙がりました。でも、本当にこれが賞賛に値する厳しい処分と言えるのでしょうか?
まず、下村博文ら3人は、もともと「党員資格停止」なのですから、党から公認されないのは当たり前です。また「党の役職停止」の処分を受けているが国会の政倫審で説明責任を果たしていないとして「非公認」とされたのは萩生田光一、平沢勝栄、三ツ林裕己の3人だけですが、同じ処分を受けたのに説明責任を果たしていない議員は、他にも堀井学、山谷えり子、橋本聖子、林幹雄、杉田水脈など計16人もいるのです。
しかし、裏金を地元にバラ撒いて選挙の買収資金にしていた堀井学はトットと離党して議員辞職しましたし、山谷えり子や橋本聖子は参議院議員なので2,000万円以上もの裏金をフトコロに入れてたのに今回は関係なし。ま、ここまではいいとして、あたしが解せないのは林幹雄や杉田水脈が「非公認」にならなかったことです。
林幹雄は萩生田光一と同じく「党の役職停止」1年の処分を受けている上、裏金も1,608万円と高額です。杉田水脈の「党の役職停止」は6カ月なので終了しましたが、裏金は1,564万円とやはり高額です。ちなみに今年4月に最も重い「離党勧告」を受けて自民党から追放されたのは、裏金234万円の塩谷立と裏金1,542万円の世耕弘成の2人だけです。林幹雄や杉田水脈は「離党勧告」を受けた世耕弘成よりも多くの裏金をフトコロに入れていたのに「非公認」にすらならないのです。
石破首相「裏金議員なんちゃって処分」のカラクリ
もちろん、こうした「その他の裏金議員」についても、石破首相は「地元の県連から公認申請がなかった場合は公認しない方針だ」と説明しましたが、逆に言えば「県連から公認申請があれば地元の判断を優先して公認する」ということなのです。事実、裏金議員の大半は、すでに地元の都道府県連から党に公認申請が提出されており、実質的に「非公認」となるのは、現時点の6人を含めて10人ほどにしかならないと見られています。
当然のことながら、林幹雄や杉田水脈は誰よりも早く県連の公認申請を提出しましたが、呆れ返ったのは「比例単独」を申請した杉田水脈です。出馬すれば昼寝していても当選できる自民党の「比例単独」には「2回まで」という党内ルールがあり、杉田水脈は2017年と2021年の衆院選で中国ブロックの比例単独で当選しているので、次からは小選挙区に出馬するしか道はありません。それなのに、党内ルールを無視して「昼寝していても当選できる比例単独」を申請したのです。
ま、石破首相の思考回路が正常であれば、こんな自己チューな申請など受け付けないと思いますが、ここまで二度も三度も総裁選での自分の主張を「ちゃぶ台返し」してきた焦げたアンパンマン、略して「コゲパンマン」こと石破首相です。またまた党内圧力に屈して「らしくない行動」に走ってしまう可能性もあります。
それに、今回の「なんちゃって処分」には、自民党として絶対に譲れない大前提があるのです。それは議席数です。衆議院は465議席なので、過半数は233議席いじょうですが、自民党は現在258議席の単独過半数を押さえています。つまり、自民党は今回の衆院選で25議席を失っても単独過半数を維持できるのです。この25議席が、自民党が失ってもいい議席数のデッドラインというわけです。
このような状況で、果たして40人近い「その他の裏金議員」全員を「非公認」にするでしょうか?だって、そんなことしたら「非公認」にした時点で単独過半数を失うんですよ?さらに言えば、自民党と連立を組む公明党は32議席ですから、自民党が「26+32=58議席」を失えば、自公連立でも過半数を割ってしまうのです。
公明党は「自民党が非公認とした候補者の支援はしない」と明言しましたが、これはつまり、どんな裏金議員でも地元の県連の公認申請を党が認めた場合は「地元の創価学会員が総出で支援する」という意味なのです。たとえ比例重複が認められなくても、公明党の全面協力が得られれば、小選挙区での当選の確率は一気に増大します。これが、今回の「なんちゃって処分」のカラクリなのです。
国会ではすでに、立憲民主党の野田佳彦代表らが「結果的に大半の裏金議員が公認される仕組みであり、これではとうてい国民の理解は得られない」などと厳しく批判しましたが、もともと失える議席数が上限25での攻防なので、石破首相としては「10人前後の目立つ議員への非公認」が精いっぱいなのでしょう。
しかし、自民党が選挙を「禊(みそぎ)」だと言うのなら、やはり裏金議員全員を「非公認」にして、それぞれの地元での有権者の声を選挙にダイレクトに反映させるべきでしょう。そして、自力で小選挙区の有権者に再選された議員だけが「禊が済んだ」と胸を張って自民党に戻って来るべきだと思います。
そして、これくらいの大英断ができれば、石破首相も本物のヒーローであるアンパンマンに少しは近づけると思います。5回ものチャレンジの果てにようやく首相の座へ上り詰めたのですから、この千載一遇のチャンスを最大限に生かして、自民党の悪しき体質を根本的に是正した本物のヒーローとして100年先まで名前を残すのか?それともこのまま似非ヒーローであるコゲパンマンとして、未来永劫、汚名を残すのか?それは、今回の衆院選で石破首相が裏金議員たちをどのように処遇するか、その一点に懸っているのです。
(『きっこのメルマガ』2024年10月9日号より一部抜粋・文中敬称略)
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